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「さぁ、フェリー。寝ようか?」
濃厚過ぎる色気を漂わせて夜着姿でベッドに腰掛けて私を迎え入れるように手を広げて待っているミューゼ様の姿に思わずよろめいた。
「フェリー!」
すかさず駆け寄って来たミューゼ様は私をガッチリと抱き寄せるとそのままヒョイと抱き抱えてベッドまで運んでくれた。
勿論お姫様抱っこだ。
階段でお姫様抱っこされた時は物凄く怖くて思わず抱き着いてしまったが、今回は前よりも余裕があり、何とも贅沢すぎるお姫様抱っこに心臓が壊れそうな程にバクバク騒いでいる。
そっと見上げた顔はキューーーーンとする程に優しく穏やかで、それでいてお風呂上がりの半端ない色気と良い香りがしてクラクラする。
「フェリー?」
ふと視線が重なると愛おしげに目が細められ、口元が弧を描くように笑みを湛える。
「はぅっ♡」
思わず漏れた声にミューゼ様が一瞬だけ目を丸くした。
「そういう声は俺の前だけにしてくれよ」
コツンとおでこにおでこが重なりすぐに離れた。
『え?今の何のご褒美?』
最推しだったと理解したからこそその行為はご褒美以外の何物でもなく、お姫様抱っこにおでこコツンの過剰なご褒美に頭までパンクしてしまいそうだ。
「え?...もしかして溺愛ルート?」
ポソリと呟いた声を拾ったミューゼ様が「溺愛か...悪くない」と微笑んだ。
ベッドに横たえられるとミューゼ様は当たり前のように横に寝そべり、私の体を包むように抱き締めた。
「俺の腕の中にフェリーがいるんだな...」
少し震える声で小さく囁くミューゼ様にキュンキュンしっぱなしである。
「安定期に入ったら...優しくするから」
熱しか感じない瞳で至近距離で見つめられてそんな事を言われた私は魂が抜けそうになった。
「フェリーの体は柔らかいな」
ツーっと背を撫でるようにミューゼ様の手が滑るのが擽ったくて思わず身を捩るとミューゼ様の手に力がこもりピタリとくっ付くように抱き寄せられた。
ミューゼ様の胸板に頬がくっ付いて心臓の音がダイレクトに響いた。
その音がとても早くて「え?」と声を上げると「どうした?」と耳元で囁かれた。
ゾクゾクしながらも「鼓動が早くて」と言うとミューゼ様は笑いながら「好きな女を抱き締めているんだ、当然だろ」と言い、頭にキスをした。
「好きな、女...」
「フェリー...君は俺の愛を疑っていないか?何度も言うが俺はフェリーだけを愛している...これからはその事を身をもって存分に知ってもらうつもりだから、覚悟しとけよ」
ご褒美爆弾のようなその言葉に気を失いかけ、人肌の温かさにいつの間にか眠りに落ち、気が付いたら朝だった。
目を開けると目の前にミューゼ様の胸板!
また気を失いかけたのは言うまでもない。
気を取り直してミューゼ様を見ると穏やかな顔で眠っていて、それが余りにも神々しく、今度は鼻血を吹き出しそうになった。
攻略対象者達は皆カッコイイがミューゼ様は神がかった美しさだと思っている。
王太子殿下は凛々しさの中に愛らしさもあるバランス型イケメン。
宰相(後の)は知性を感じさせつつも垂れ目で何処となくキラキラしいアイドル系イケメン。
騎士団長(後の)は笑った時に見える八重歯が可愛いが顔はとにかくワイルドなワイルド系イケメン。
裏社会のボス(闇落ち後)は一見すると人畜無害だけど目の奥にドス黒い闇を抱え、優しい時と怒った時のギャップがありすぎる見た目だけは子犬系イケメン。
言わずもがなミューゼ様は研ぎ澄まされた美しさ(欲目過多)なのにデレると可愛いし、拗ねた顔は破壊力しかないし、微笑みなんて極上だし...もう完璧!
完璧すぎてダメな所が見つからない程のパーフェクトイケメン!だと思っている。
実際は王太子殿下が人気No.1で、ミューゼ様は「好感度上がりにくくて草」とか「笑顔見るまでが疲れる」とか言われてて人気がそこまで伸びなかったのだが、私の中では断トツNo.1だった。
一度同担拒否の人に掲示板で「ミューゼ様は私だけのミューゼ様なの!」と言われた事があったのが懐かしい。
私は同担拒否派ではなかった。
でも今は誰かとミューゼ様を共有するつもりは無い(当たり前)。
当然ヒロインとも無理。
ミューゼ様がヒロインを好きになって私とどうしても別れたいとなった時はどうしようもないけど、そうならない限りは隣にいたいし、そうならないように努力もする、絶対。
ただねー、前世の私はミューゼ様という二次元キャラに夢中すぎて現実世界での恋愛には全く興味がなかったから、どうすれば相手に飽きられないように出来るのかとか、どうすればより好かれるのかとか全く分からない。
前途多難?もしかして?
まぁ今だけは難しい事を考えずにミューゼ様の美し過ぎる寝顔を堪能する事を許して欲しい。