【書籍・コミックス第二巻発売記念】そして、繋がっていく
書籍二巻とコミックス二巻が発売された記念のSS短編です。
あまり知られていないですが、一年半の期間をあけ、完全書き下ろしの二巻が発売されております。
このSSはその小説に繋がるお話になっています。
コミックス三巻からは書籍二巻の主人公達のお話が始まります。
興味がある方は書籍の方をチェックしていただけたらなー、なんて思いつつ、今回の二巻の書籍は完全書き下ろしで読者さんの反応も分からないまま出しているので、もう出てから二ヶ月以上経っているのに一切自信がありません。
Xの方でも、こちらでもいいので、面白かったよーなんて言ってもらえたら、お見せできませんが飛び跳ねて喜びます。
今日はセナ様がエリオンを連れて出かけてしまったので、屋敷には私とミューゼ様しかいなくて、少しだけソワソワしている。
最近はずっとエリオンがいたから純粋に二人きりになる機会が少なくて、結婚して随分経つのに緊張してしまう。
それだけ好きってことなんだけど、自分でも重症だと思う。
「ふっ、フェリーはいつまでも可愛いな」
エスパーミューゼ様は私の気持ちを即座に感じ取ったようで、いつも以上に優しい目でこちらを見ている。
「何で隣に座らないんだ?」
妙に意識した結果、向かい側に座った私が気に入らないようで、自分の隣をポンポンと叩きながらそう言われた。
隣に移動すると「フェリー」と耳元で囁かれた。
耳にかかる熱い息に腰が砕けそう。
ゲームのミューゼよりも糖度も色気も半端なさすぎる。
ゲームのミューゼがここまで甘々お色気キャラだったら、絶大なる人気を誇る伝説のイケメンキャラになっていたかもしれない。
そしたらご褒美スチルとかも凄いことになっていそう……。
『想像するだけで鼻血出る! 寝起きの神々しくも色気マックスミューゼスチルとか出てきたらどうする?! どうするよ、私ぃぃぃぃ!』
「またゲームとやらの俺のことを考えているのか? 目の前に俺がいるのに?」
今目の前にいるこの人は、誰よりも色気で私を惑わせ、 虜にしてくる。
それが自分の旦那様だなんて、未だに信じられない瞬間がある。
「目の前に本物がいるんだ、よそ見なんてするな」
熱のこもった目で見つめられながらそんなことを言われたら、全力で頷くことしかできない。
『私の旦那様がカッコよすぎる!!』
「フェリーは俺のことだけ考えていればいい」
その後の展開はいうまでもなく、彼の腕の中で甘く熱く翻弄されることになった。
セナ様がエリオンと共に帰宅した時には私はベッドから起き上がれないほどになっていたけど、セナ様はそれを予想していたようで「二人目を迎える準備は万全だから安心してね」なんて言われて恥ずかしかった。
翌日は、朝早くからミューゼ様は城に呼ばれていて、寝起き直後から眉間に深いシワを寄せていた。
「そんな顔しないの」
城に行けば往復だけでも四時間以上かかるため、用を済ませると夕方になってしまう。
彼はそれが不服のようで、城に呼ばれるといつも不機嫌だ。
理由は単純。
「何かあった時にフェリーの傍にいられないのが嫌だ。すぐに駆けつけられないじゃないか」
それだけの理由でこんなにも嫌がるのだ。
私はほとんど家の中にいるから何かが起きること自体ありえないと思うんだけど、それでも私と離れるのが嫌なのだそうだ。
『この駄々っ子モードもまた尊い!!』
嫌がるミューゼ様をお見送りし、エリオンと遊んだり、招待状にお返事を書いたりしながら過ごしていたら、我が家で働くミラがおずおずと私を訪ねてきた。
「お忙しいところ申し訳ありません」
ミラは直接私と関わる仕事はしていないけど、働き者で明るく、素直な性格で他の年上の使用人達に可愛がられているため、時折話をすることがあった。
彼女は両親がいなくて、唯一の肉親である弟がもうすぐ学校に入学する歳になるため、その費用を貯めていると聞いている。
一度だけ、うちで支援しようかと提案したことがあったのだけど
「他のところよりも待遇もよく、お給料もいいのに、その上支援までしていただいたら神様から罰が当たってしまいます。私なんかを気にかけてくださる、そのお心だけで十分幸せです」
と明るい笑顔を浮かべながら言われてしまった。
もしかしてその件をお願いしにきたのかもしれないと思ったのだけど、彼女の口からは全く違う言葉が飛び出した。
「私の学友が、フェリー様にどうしても会わせたい方がいると門前まで来ております。彼女はとても人柄がよく、フェリー様を害するような人物を連れてくることはないと保証できます。とても困っているようなので、会っていただくことはできませんか?」
子リスのような顔をしてお願いしてくるミラは、相当な勇気を持ってここに来たのか手が少し震えていた。
「誰が私に会いたいのかしら?」
「あっ! 聞くのを忘れていました! 聞いて参ります!」
「あ、いいわよ、行かなくて。そのお友達はどこかのお屋敷で働いているの?」
「はい! 貴族様のお屋敷で侍女として働いていると言っていました。高級そうなお仕着せを着ていましたので、それなりの身分のお方に仕えているのだと思います」
「そう……いいわ、会いましょう」
そう伝えると、ミラは何度もペコペコと頭を下げながら、軽やかな足取りで駆けていった。
許可を出した後に軽率だったかもしれないと思ったけど、うちで何かを起こすような馬鹿な人は多分いないと思う。
『私に何かあったらミューゼ様が命どころかその一族を全滅しかねないだろうし、大丈夫よね』
先に応接室へと向かい、しばらくすると私と会いたいという人物が姿を現した。
緊張しているようで表情が固い。
「はじめまして。私にご相談があるというのはあなた?」
そう言うと目の前の女の子が意を決したように顔を上げて立ち上がった。
「突然申し訳ございません。私、カーラー・ブリアット。ブリアット伯爵家の娘にございます」
手土産一つ持ってこなかったことを詫び、一向に座ろうとしないため、座るように促す。
その後、ハーブティーの話を少しして本題に入った。
「私に相談があるのでしたわね? どんなご相談かしら? 金銭の貸し借りは夫に怒られるのでできないけれど」
「いえ、そういう類の相談では……あの、単刀直入にお尋ねします……フェリー様は前世の記憶がおありですよね?」
「ブフッ! ゲホゲホ……」
突然の言葉に思わずお茶を吹き出してむせてしまった。
『え? 何、この子?! どういうこと?!』
むせながらも頭の中ではどうごまかしたものかと思考がぐるぐる。
「ぜ、前世? そ、それってなにかしら?」
何とか平静? を装いつつそう言った。
「フェリー様はミューゼ様をチートで攻略して今の幸せを手にされたのですよね?」
そう言われて思わず反応してしまった。
「っ! そんなことしないわ!」
「やはり前世の記憶があるのですね?」
しまった! と思った時にはもう遅く、顔色が悪いながらも目の前の女の子にそうはっきりした口調で聞かれてしまえば認めざるを得ない。
「……それを聞くあなたも、あるのね、記憶が」
「はい……」
そうとしか思えなくて聞いたら、彼女は少しの間をおいて頷いた。
その後、カーラーちゃんに聞かれるままこの世界のことで私が知っていることを話した。
「でもなぜ今頃? あのゲームはもうとっくにシナリオが終わっているわ?」
「私は『トゥーラブ2』の悪役令嬢なのです」
衝撃の一言に私の思考は完全に制御不能になっていた(パニック)。
「えっ?! 2?! 2ってどういうこと?! 2が出てたの?! 待って! あなたも悪役令嬢?! まさか、そこでも私やミューゼが出てくるの?! 嘘でしょ! 2?! 終わったと思ってたのに!」
「いえ、あの、少し落ち着いてください」
「え、あぁ、ごめんなさい。落ち着かなきゃね」
私より明らかに年下の女の子に諭されるなんて淑女としてどうなんだろう……。
その後カーラーちゃんの口から話を聞き、私の時と同じタイミングで妊娠が発覚したと知って心底驚いた。
偶然にしてもできすぎている。
カーラーちゃんは婚約者と上手くいっていないようで、妊娠初期で最も気をつけないといけない時期なのに心配だ。
万が一の場合は同じ前世の記憶持ちで悪役令嬢仲間でもあるんだから、ミューゼ様に反対されたって助けてあげようと心に決めた。
何の因果なのか、同じ世界に同じ立ち位置のキャラクターとして生まれてきてしまったのだから、カーラーちゃんには幸せになってもらいたい。
それが本来のものとは形が違っていても、泣くような結果にだけはなって欲しくない。
誰もが皆、幸せになるために生まれてきたのだから。




