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番外編 リリンの恋・後編

「ねぇ?真面目に仕事する気ある?」


あの女性の事が頭から離れずにいた私は気もそぞろになっていた。


その事を感じ取ったハーキンスさんは溜息をつきながら冷たい視線を投げてきた。


何時もとは違う声色に体がビクッとなった。


「...ごめんなさい」


今すぐ消えてしまいたいような泣き出したいような感情が膨れ上がり、零れ落ちそうな涙を見られたくなくて俯いた。


「...何かあったか?」


今口を開けば困らせてしまいそうで、私は俯いたまま首だけを横に振った。


「ねぇ?顔上げて?」


ブンブンと首を振るだけの私に、ハーキンスさんの困ったような声が届く。


ふわっと頭に感触がして、ハーキンスさんが私の頭を撫でているのが分かった。


その手はゆっくりと下に落ちてきて私の頬を優しく、それでいて何だかゾクッとするような手つきで撫でた。


思わず顔を上げた私の目にハーキンスさんの困ったような笑顔が飛び込んで来た。


「何でもないって顔じゃないよな?なぁ?そんなに俺が好き?あの女の事が気になる?それが嫉妬だって気付いてる?.........はぁ、年下相手に何やってんだ、俺」


クシャッと髪をかきあげて私から目を逸らすと肩を竦め項垂れてしまったハーキンスさん。


「ハーキンス、さん?」


「はぁ...参った...なぁ?君さ、俺にどんな魔法使ったの?」


言われている事の意味が分からずただハーキンスさんを見つめていた。


「あんなに熱っぽい目で見られてたら嫌でも気付くよ。だけどさ、俺、年下には興味ないはずだったんだ。でもどういう訳か君からは目が離せない。なぁ?どんな魔法使ったの?教えてくれない?」


「あ、あの」


「はぁ...何でこんなのが気になるかね...」


「あの、ごめんなさい、よく分かんないけど、ごめんなさい」


「...参ったな...ねぇ?責任取ってくれる?」


「え?あ、はい!私で出来る事なら!」


「言われてる意味、ちゃんと分かってないでしょ?」


意味を分かっていない?


ハーキンスさんがさっき言っていた事を頭の中で反芻してみた。


ハーキンスさんには私の想いはバレバレで、でもハーキンスさんは年下には興味がない...ないんだ、やっぱ年下には...あの女の人みたいなおっぱいバーンって感じのセクシー系お姉さんが好きって事か...私、胸ないもんな、今世も前世も...好きで年下に生まれてきた訳じゃないのに現実って残酷だよね。あの黒歴史時代を乗り越えてちゃんと好きな人が出来たと思ったら告る前に失恋って...。


「やっぱり意味理解してないね。...ねぇ?リリン?俺の事、好き?」


クラっとする程に色気満載でありながらも真剣さを感じる蜜柑色の瞳に真っ直ぐに見つめられ、私は条件反射のように首を縦に振っていた。


「フッ...じゃあ、責任取って俺に縛られてね」


そんな事が聞こえたと思ったらハーキンスさんの顔が近付いて唇に少しかさついた温かい感触が伝わり、それがキスだと脳が理解するよりも前にハーキンスさんのキスが軽いものではなくなり、脳がやっと「キスされてる!」と理解した時には今度はその思考すらも奪うような危険すぎる、蕩けるような甘く刺激的すぎるものに変わっていて、もうどうすればいいのか分からないまま、私はハーキンスさんの腕の中で翻弄されてしまった。


「理解した?」


何がなにやら思考が追い付かないものの、ここで否定をすれば危険な気がしてとにかくコクコクと首を縦に振り続けた。


「本当に分かってる?何が起きてるか分かんないって顔してるけど」


頬や首筋を撫で回されながら熱の篭ったように見える目で見つめられている。


本当に何が起きてるの?これは現実?


さっき凄いキスされたよね?あれは妄想?好き過ぎて遂に起きたまんま妄想爆発させちゃった?


前世ではミューゼ様との妄想を漫画にまでしちゃって1人で悶絶してたけど、それがまさか脳内で盛大に繰り広げられた?


...でも唇の感触も、何か凄かった感触もリアル過ぎる程に残っている。


因みに前世・今世通じてキスは愚か恋も何もかも初体験。


「つまりね、こういう事」


再び唇が重なり、さっきよりもゆっくりと、だけどさっきよりも数段刺激が強すぎるキスが始まった。


ねっとりと甘く、痺れるように刺激的で、夢のようにフワフワするキス。


何だか胸の奥がずっとキュンキュンして、だけど体の力は抜けて、座っているのにそのまま崩れてしまいそうなそのキスの合間にハーキンスさんが「これからゆっくりと時間を掛けてもっと凄い事しちゃうけど、俺を本気にさせた罰だと思って諦めてね」と蠱惑的な笑みを浮かべた。


「今日はキスだけにしとくけど、そのうち、ね」


その意味を本当に理解した時、私の心臓は壊れてしまうんじゃないかって位に脈打ち、「え?それって私を好きって事?嘘?!」と思わず口にしたら、ハーキンスさんが凄く意地悪な顔で笑って「あんな本気のキスされといて、まだ理解してない?」と言い、また唇が塞がれた。


「好きだよ、リリン。だから大人しく俺に縛られておいてね」


「ひゃ、は、はい!...じゃあ、あの、ハーキンスさんは、私の、彼氏って事で、いいの?」


「そうだね、リリンは俺の唯一の恋人。あ、俺、独占欲強いから覚悟しといて」


「え?あ、うん、うん?...あの、ね?その...パトロンが、いるの?」


「パトロン?何だそれ?」


「噂があって...それで」


「もしかしてカフェで会ってた女を俺のパトロンだと思った?」


「...違うの?」


「アハハ!虐めたくなる位に可愛いな、リリン」


「え?」


「あれは俺の姉貴...ククク...俺にパトロンね...アハハ」


何だか楽しそうに笑っているハーキンスさん。


そんな楽しそうなハーキンスさんを見ながら、私はハーキンスさんの恋人になれた事や、あんな凄いキスを3回もされてしまった事がやっと現実味を帯びてきて、穴があったら入りたいような、嬉しすぎて絶叫したいような、だけど幸せで足元がフワフワするような気持ちになっていた。



それから6年後、私はハーキンスさんと結婚する為に彼の故郷へと旅立った。


実は彼が某国の第四王子だった事はプロポーズされた時に知らされたのだが、「リリンにはYESの選択肢しかないから」と意地悪な笑みで言い切られてしまった。


義両親もハーキンスさんの身分を知り、尻込みしてしまったのだが、「命ある限り彼女を愛し抜き、守り抜くと誓います」と頭を下げるハーキンスさんに「よろしくお願いします」と泣きながら頭を下げてくれた。


実は『ハーキンス・ロードン』というのも本当の名前ではなかったのだが、今となってはどうでもいい。


もうね、それ所じゃない事が起きたから。


彼の国に行き、無事に結婚も済ませた私達の前に異世界から『聖女』が現れたのだ。


しかもこの聖女は私がいた前世の世界から来たようで、王族であり私の夫になった彼を見るなり「うわっ!リアルアドゥムール来た!」と叫んだのだ。


あ、アドゥムールとは彼の本当の名前ね。


私が前世の記憶を持って生まれた事は彼にももう既に話していた為、聖女の言葉を彼は警戒して近付かないようにしたのだが、聖女の推しがどうやらアドゥムールだったようで、もう既に既婚者であるアドゥムールにグイグイガンガンモーションを掛けまくり、私の事は「あれ?何か違くない?ララベリアは?悪役令嬢は?」と混乱したように最初は見ていたのだが、いつの間にか彼女の中で私は「バグって現れた別な悪役令嬢」という事になったようで、そもそもの接点すらないのに「リリン様にキツく当たられる」とか「リリン様に打たれた」とか言いまくり、それが自分の黒歴史と重なり「あー、私もこんなだったの?恥ずい!恥ずすぎる!」と過去の行いを見せられているような気持ちになったものだ。


その後聖女は「聖なる力も発現しない狂言癖のある女」として何処かの戒律が恐ろしく厳しい修道院に送られる事になるのだが、それは別のお話。


私は臣籍降下したアドゥムールと共に自然豊かな領地でその後幸せに暮らし、28で男の子を、30で女の子を産んだ。


あんなに恥ずかしい行動をしていた私が今こんなに幸せに暮らしているのは、あの時私の暴走を止めてくれた素敵な人達のお陰だ。


あの聖女も私の時みたいに気付かせてくれる人が傍にいれば結末は変わっていたのだろうと思う。


この世界に生まれて来なきゃ良かったと思った事もあったが、今は心から言える。


私、この世界に生まれてきて良かった!

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― 新着の感想 ―
ハーキンス氏、第四王子の臣籍降下なら公爵とか侯爵とかの高位貴族? ってことはリリンは某国の公爵夫人(侯爵夫人)? 一回落ちて反省したら大逆転、一番自分らしいハッピーエンドを手に入れましたね。 さすがヒ…
[良い点] めでたしめでたし!
[一言] いろいろやらかしちゃったリリンも 根が良い子だったんだなぁ ちゃんと反省したから幸せになれたんだね。 良かったなあと思いました。
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