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当初50話位で完結させる予定でいましたが、気付いたら予定をオーバー(笑)
もう少々続きますので、飽きずにお付き合いいただければ幸いです♪
いつも「いいね」「星」「感想」「誤字報告」ありがとうございますm(__)m
色々と足りない所が多い作者ですが、皆様に支えられております。
補足情報を追加した為に前書きと後書きを逆転させました。
いよいよ卒業式だ。
この日の為にミューゼ様が仕立てたマタニティ仕様のゆるゆるドレスを身に纏い(当然ミューゼ様に着付けられ、メイクも髪もやってもらった。使用人達が最終チェックしてたけど大丈夫だった)2人で学園へと向かった。
今日はミューゼ様もバッチリ正装で髪もピシッと撫で付けていて目に実に優しくない仕上がりとなっている(でも見る!目に焼き付ける!)。
ずっと見ていると二度と目覚めない夢の世界へと羽ばたいてしまいそうな程に素敵なミューゼ様を堪能しつつ、自分のドレスにも目をやる。
ミューゼ様が生地からデザインまで監修した今回のドレスは「あらあら、独占欲丸出しだわね」とセナ様が笑う程に『Theミューゼ色』である。
ミューゼ様の髪色によく似たアイスブルー色のドレスには瞳の色に似た青い糸で細やかな刺繍が施されている。
胸元を飾るネックレスは大粒のブルーサファイア。
これ1粒で平民ならば数十年働かずに暮らせる額らしく、付けた時震えた。
右耳に付けてもらったピアスはブルーダイヤモンド。
青みが薄くアイスブルーにも見えるダイヤモンドだったが、天然で色付きの、その中でも特に赤や青の物は希少らしく、小ぶりながらもとんでもない価値なのだと分かって「あ、今日行くのやめよう」と思ったもんだ(行くけど)。
出掛ける前に私の姿を見たセナ様が「こんなに自分の色だけを身に纏わせるのってどうなの?」と言っていた程に全身がミューゼ様カラー。
対してミューゼ様はというと、体の動きや色の当たりによって赤にもワインレッドにも茶色にも見える不思議なカラーの上着に白い細身のパンツを履いている。
首元を飾る白いクラバットには鮮やかな緑色の刺繍糸で私のドレスと揃いの図柄の刺繍が施されている。
左耳には濃い緑色のエメラルドのピアス。
青みが強く緑色の濃いエメラルドは大変希少らしいのだが即決で決めたらしい。
そう、ミューゼ様も私の色を纏っているのだ。
上着の不思議なカラーはミューゼ様の目から見た私の髪色らしく「へー、私の髪色ってこんな風に見られてたんだ」と思った。
卒業式は学園が誇る大広間でパーティー形式で行われ、式が終わるとそのまま卒業パーティーへと移行する。
1時間程学園長から始まり先生方の有難くも大変眠くなる送辞を聞き、ビシッと正装(しっかりシャーリンカラー取り入れてた)したヘルドリアスの答辞を聞き、始まった卒業パーティー。
私は流石にこの体では踊れないし、ミューゼ様によりしっかりとダンス禁止令まで発令されているので隅に置かれたソファーに座りながら踊る人達を見ているのだが、余興のような面白ダンス(男女逆転ダンス)があったりして見ているだけでも充分に楽しんでいる。
隣には当然ミューゼ様。
「ここにいらしたのね!」
淡いラベンダーカラーのドレスに金刺繍で豪華な薔薇があしらわれたドレスを着たシャーリンがやって来た。
ヘルドリアスからの贈り物だろうが、ヘルドリアスもしっかりバッチリ自己主張しまくりなドレスだ。
ドレスでこれだけ独占欲出せるなら、実践でもヘタレずにしっかりすればいいのに!
「卒業おめでとう!」
「フェリーもおめでとう!」
「今日は取り巻きさん達いないのね?」
「皆さん今日はご自身の婚約者様と楽しんでいらっしゃるわ」
「シャーリンはヘルドリアス殿下と楽しまないの?」
「誘われたのですけどね、殿下、答辞の後からお姿が見えなくて」
「え?何処に行っちゃったのかしら?」
「さぁ...」
シャーリンと話していたら会場の明かりがパッと落ちた。
ザワついたのは一瞬で、スポットライトを浴びたヘルドリアスが会場の中央に照らし出され姿を現すと会場はシーンと静まり返った。
ライトに照らされたヘルドリアスは真っ直ぐにシャーリンの元まで歩いて来るとシャーリンの前で跪いた。
「シャーリン・レズモンド嬢!」
「は、はい」
「き、君の前では随分と、その、情けない姿しか見せられない僕だけど、君を心から愛している!僕と、け、け、け」
「「「殿下、頑張れ!!」」」
ヘルドリアスを後押しするように会場から声援が沸き起こった。
「僕と結婚してくだしゃいっっ!」
噛んだよ、一番肝心な所で噛んだよ、また舌を。
お約束なの?
「...結婚は、して差し上げますわ」
「ほ、ほんろうあ(ほ、本当か)?!」
「えぇ、元々そのつもりでしたし。...ですが、わたくし、自分が愛されていないと感じたら離縁致しますから、そのおつもりで!」
「わあっあ(分かった)!しょうあいきみらけおちかう(生涯君だけと誓う)!」
「殿下の言葉は信じられません!すぐに女性を口説くそのお口で愛を囁かれても価値などありませんわ!ですから態度で示してくださいな!」
多分照れてるんであろうシャーリンはツンツンしてる。
そんなシャーリンもたまらなく可愛い!
顔は真っ赤、目はうるうるなのに強がって顎をツンと上げてる。
本来目立つのが苦手な子なのにスポットライト浴びての公開プロポーズなんて羞恥心崩壊レベルだろうに頑張ってる。
スっと立ち上がったヘルドリアスはガバッと、そりゃガバッとシャーリンを抱き締めた。
「「「キャーーー♡」」」
「「「おぉぉぉぉ!」」」
会場から黄色い声と野太い声が湧き上がった。
「ちょっ、な、何を」
「大好きだ、シャーリン。君だけを愛している」
舌が復活したヘルドリアスがしっかりとした口調でそう告げると2人の唇が重なった。
唇を押さえて顔をこれ以上ない程に赤く染めたシャーリンの腰を抱き、ヘルドリアスが幸せ満開の笑顔を浮かべると、周囲から拍手と歓声が湧き上がった。
「これで良かった、のかしら?」
「良かったんじゃないか?あの2人、あれで中々お似合いだと思うがな」
「でも、ヒューゴ様は?」
「ヒューゴ?あぁ、あいつか。あいつなら大丈夫だ。元より想いを告げる気などなかった男だし、ほら、今は」
ミューゼ様の視線の先には見知らぬ女性と並ぶヒューゴの姿が。
「え?あれは?」
「カリーティア・ベルモント嬢だ」
「え?どういう事?」
「最近ヒューゴに一目惚れをしたらしく、今は猛烈にアタックされているのだと聞いた。ベルモント公爵家の令嬢で、結婚すればヒューゴは公爵だ。悪い話ではないからヒューゴ自身も受ける方向で話を進めているようだ」
「でも、ベルモント公爵家って王家と対立関係じゃなかった?」
「だから、じゃないのか?自分が入り込む事でその関係を壊すつもりだろう。あいつはそういう男だ」
「逆に取り込まれたりしない?」
「その心配はないだろう。何せ『魔王』だぞ?あいつを取り込めるやつなんていないだろう」
「魔王?!」
ヒューゴは一部の人達に『魔王』と呼ばれ恐れられる程に凄い人だった。
「知る必要はない」と詳しく教えてもらえなかったのだが、私達の前で見せる顔とは別の冷酷無比な一面を持ち、ヘルドリアスの政敵を容赦なく叩きのめしているのだとか。
流石後に宰相になる男と言うべきなのだろうか...。
ヘルドリアスの公開プロポーズの熱も引いた頃、「あ、あの」と意を決したような顔をした女子達が私の前にやって来た。
「どうなさったの?」
「あの、私達、卒業する前にフェリー様とどうしてもお話がしてみたくて」
「...そうすると俺は邪魔か?フェリー、俺はすぐ傍にいる。何かあったら呼んでくれ」
気を利かせたミューゼ様は席を立って私から目の届く範囲で自分の学友達と会話を始めた。
最初は3人だった女子達はいつの間にか10人程に増え、私を取り囲むようにして皆がそれぞれに私に話し掛けてくれた。
皆は今まで私に話し掛けたかったが、ミューゼ様が怖くて近寄れなかったらしい。
だけどこのまま卒業してしまうのは嫌だと思って勇気を出して話し掛けてきてくれたのだそうだ。
「私、嫌われていたり怖がられていたんじゃなかったのね」
「とんでもない!皆、フェリー様に憧れていました!」
「そうです!フェリー様は憧れでした!」
私とミューゼ様の関係を皆羨望の眼差しで見ていてくれたらしい。
私は無自覚だったが、ミューゼ様の私への溺愛ぶりは入学した当初から遺憾無く発揮されていたそうで、自分達もあんな風に大切にされたいと思って見ていたのだとか。
しかもその相手が「氷の貴公子」且つ「目だけで人を殺す男」と言われるミューゼ様なのだから、「どうやってあの怖いミューゼ様を?!」と私への関心度と好感度は鰻登りで上がっていたのだそうだ。
「あ、あの!『目だけで人を殺す男』とは何ですか?それ、初めて聞いたんですけど?!」
「あら、フェリー様はご存知なかったのですね。何でも昔、まだ入学される前にミューゼ様にアタックしようとした女性がいたそうなのですが、声を掛ける以前に睨まれただけで体が動かなくなって声も出なくなる程の恐怖を与えられたとかで、その話が流れた時に『私も!』『俺も!』と似たような体験をされた方が名乗り出たそうで、それから『目だけで人を殺す男』という通り名が付いたそうですよ」
何だそれーー!!!
知らないよ、そんな話!!
え?では何か?私は「目だけで人を殺す男」を手懐けて懐柔して溺愛されている、ある意味猛獣使いみたいな目で見られてたって事?
「あんなに怖いミューゼ様をあのように骨抜きにしてしまうなんて、フェリー様は凄いです!」
「私もそのように婚約者に愛されたいです!」
「あの!この小説、フェリー様とミューゼ様がモデルだと噂に聞いたのですが、本当ですか?!」
その子の手にはザリアーヌ(アリザ)先生の新刊『その氷を溶かすのは...』が握られていた。
言っちゃってもいいのかな?と思っていたらミューゼ様と目が合って、ニコリと笑ったミューゼ様が頷いた。
これは「言って良し」って事なのだろう。
それにしてもあのニコッて笑顔、可愛すぎやしませんか?!
何、あの胸の奥底鷲掴みしてくる可愛い笑顔!
キューンじゃなくてギューーーーンって感じなんだけど!!
ほら、あの笑顔見ちゃった女子達が胸押さえてるよ(少々複雑な気分)!!
「えぇ、恥ずかしながら、そうなんです」
「「「やっぱり!!」」」
え?やっぱりって丸分かりする程?!
「小説を読んでみたら、学園でお見掛けするミューゼ様に主人公がそっくりで!」
「ミューゼ様がフェリー様にされている言動とも凄く似通っていて!」
「これはミューゼ様で間違いないのではないかって専らの噂になっていたんです!!」
私も小説は読んだけど、実際よりも甘く甘く脚色されていたし、主人公の心の機微が実に切なく感動的で、2人が結ばれた時には自分達がモデルになってるなんて忘れて涙したんだけど、そんなにバレバレだった?
「だって随分と脚色されて甘く描かれていたから私達がモデルだなんて誰も思わないと思っていたのだけど...」
「まさか、お気付きになっていらっしゃらなかったのですか?!」
「あの小説に書かれていた主人公が婚約者にしている行動、ほぼミューゼ様がフェリー様にやってらっしゃいましたよ?!」
「え?」
「寧ろ小説の方が実際よりも控え目に書かれていたような」
「えぇ?!」
「本当にお気付きではなかったのですね」
物凄く残念な子を見る目が私に向き、そしてチラッと同情の視線がミューゼ様に送られていた。
※ご指摘頂いたので補足します。
フェリーが付けている右耳のピアスはミューゼと揃いのデザインになっている為ネックレスとセットではありません。
その為使われている石も違います。
本来セットが正しいのでしょうが、あえてセットにしていません。
守る者、守られる者という意味合いの片耳ピアスは完全にミューゼの独占欲の象徴です。
そしてセットではないネックレスとピアスにフェリーは全く違和感を感じていませんし、気付いてもいません。
フェリーの鈍感さの現れでもあります。