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アリザとリリンが帰ってから、自室で1人、ミューゼ様のイラストを見て悶えている私。
ミューゼ様はお城に行ったきりまだ帰って来ない。
「はぁぁ♡ミューゼ様だ♡」
リリンが描いてくれたのはゲームではすっかりお馴染みだった冷たい表情。
笑顔も良いけど私はこの冷たい表情に一目惚れしたのだ。
冷たいのに何となく寂しそうな、でも本質は優しそうな、それを隠しているような、だけど底抜けに怖くもあるそんな表情にキューーンとしたのだ。
その一目惚れしたミューゼ様が今イラストとして手の中にある現実!
「尊い♡」
前世の友達に「あんたってほんとミューゼ馬鹿だよね」って言われてたけど、自分でもそう思う。
だってミューゼ様がカッコよすぎる!
このカッコよさは罪だ!
「なんて罪な男なのぉぉぉ♡ミューゼ様最高!」
イラストのミューゼ様はゲーム内でチラッとだけ出てきた休日の私服仕様。
着崩した服はボタンが3つ程開いていて首筋から鎖骨のラインが実にけしからん感じで描かれている。
雑にパパッと描いたそうなのだがそれが逆に良い!
線の擦れた感じがいい具合に色気とか陰影とかになってて、
実物のミューゼ様はもっとけしからん色気を漂わせて「目に毒です!でも全力でありがとう!!」と叫びたい仕様なのだが、イラストになると実物よりも色気が減り、その分まじまじと見ていられて目に優しい。
「あぁ♡この首から肩のラインとかほんと良い♡イラストになってもカッコよすぎるって何なの?!これが私の旦那様ぁぁぁぁ♡あぁ、好き!好き過ぎる!もうどうしよう!好きだぁぁぁぁ♡」
「そういう事は本人に言うべきではないか?」
突然背後からミューゼ様の声がした。
「ひぇっ!」
「何故驚く?ただいま、俺の奥様」
「き、聞いてた、の?」
「何をだ?あぁ、これが私の旦那様ぁぁぁぁ♡ってやつか?」
「わ、忘れてぇ!」
「忘れる訳がないだろう、あんな熱烈な愛の告白を...それより、その紙は?」
「え?これ?」
スっと取り上げられてしまったミューゼ様のイラストを見たミューゼ様は何故か眉間にクッキリと深い皺を寄せた。
「これは、俺か?フェリーはこれを見て愛の告白をしていたのか?」
「それ、凄いでしょ?ミューゼそっくりだよね?!」
「確かに似ているが、気に入らんな」
「え?何処が?」
「絵とはいえ俺以外のものに愛を告げるなんて、それが例え俺の絵だとしても嫌だ」
「ん?え?」
「こんな物を見ずに俺を見ていればいい。俺だけを見ていろ」
そう言うとヒョイとお姫様抱っこされてソファーに座ったミューゼ様。
当然私はミューゼ様の膝の上で横抱きにされている。
「あ、あの、ミューゼ?イラスト、返して?」
「これは没収だ」
「何で?!」
「絵ではなく実物の俺を見ていればいい。俺に愛を囁けばいい。さぁ、さっきのように」
え?どういう事?
「この絵の俺には愛を叫べるのに、フェリーの目の前にいる実物の俺には愛を告げられないのか?」
これって...ヤキモチ?
「目の前に俺がいるのに、こんなものは必要ないだろう」
「それとこれとは別じゃない?」
「フェリーは俺では満足出来ないと言うのか?」
ヤキモチですね、はい...。
え?イラストの自分にさえ嫉妬するの?しちゃうの?
「...ヤキモチ?」
「...悪いか?」
ほんのりと頬が赤く染ったミューゼ様が脳飛び散る程に尊い(ホラーだから、その言い方)。
「例え俺の絵だとしても、俺以外の男がフェリーの目に入るのは嫌だ。許せない」
「でも...」
「俺は案外狭量なんだ。絵だろうと何だろうとフェリーの関心を引くのが俺以外なのは嫌だ」
そう言いながらじっと私の顔を覗き込んでくるミューゼ様が大きな子犬のようだ。
「と、尊い♡」
「尊いのはフェリーだ」
そう言って世界中の甘い物全部を閉じ込めたような甘い微笑みを浮かべると、頬にチュッとキスをしてきた。
「フェリーは自分を分かっていない。フェリーが俺をどれ程乱し、焦がす存在なのか、もっと自覚すべきだ」
唇が重なり、濃厚なキスが私を溶かす。
「その顔が俺をどうしようもなく煽る」
また唇が重なり、思考を甘く蕩けさせる。
「俺がこんなに焦がれ、煽られるのはフェリーだけだ。フェリーだからこれ程まで俺は心を掴まれ、乱される」
キュッと私を抱き締めると、ミューゼ様がフッと息を吐いた。
「俺のものにしたはずなのに、それでも不安で、もっともっとその全てを欲しくなる。俺の中だけに閉じ込めていたくなる。もう何があっても手放してやれない」
「...ずっと手放さないでね」
「手放すはずがない。そんな顔をするな...抱きたくなるから」
「抱き?!えっ?!」
「そんなに驚く事か?好きな女を抱きたいと思うのは自然な事だ。許されるならば一日中抱いて、抱き潰してしまいたいとすら思う。大切な子の為に必死で我慢してるがな」
「我慢...」
「していないとでも思ったか?...出産後は、覚悟しとくのだな」
少し意地悪そうに笑うミューゼ様の顔は多大なる色気を孕んでいて、そのまま気を失うかと思った。