5
今夜から私の家はミューゼ様と同じになる訳で...。
馬車がミューゼ様のお屋敷に到着する前から私はもうドキドキしていた。
セナ様はとても優しい。
だから虐められたりする事はないのは分かっているのだが、緊張するものはどうやったって緊張するのだ。
「そう固くなる必要はない。両親もフェリーが来るのを楽しみにしている」
ミューゼ様はそう言うけど、それでも緊張するのだ。これは仕方ない。
ランベルト邸に到着するとセナ様とランベルト家の執事のロベルトさんに出迎えられた。
「本日からお世話になります。不束者ですが、よろしくお願い致します」
「待ってたわー!今日からよろしくねー、フェリーちゃん!キャー!フェリーちゃんが我が家に住むなんてまだまだ先だと思ってたから、こんなに早くに来てくれて嬉しいわー!」
「母上...」
喜びまくるセナ様を見てミューゼ様がこめかみを押さえている。
「さぁさぁ!こんな所で立ち話なんて体に障ってしまうわ!今日はフェリーちゃんの歓迎会も兼ねてご馳走を用意したのよ!あ!でもその前にフェリーちゃんのお部屋に案内しなきゃね!」
「母上...案内は俺がやりますので、母上はもう黙ってて下さい」
「えー!実の親に対してその言い方ってどうなの?!」
「親ならば親らしくしていて下さい」
この会話の流れでお分かりだろうが、ミューゼ様のお母様のセナ様はとても明るく楽しい方だ。
40歳(年を知ってる事は内緒。知られたくないらしいから)なのに少女のような方で、見た目も全く子持ちに見えない程に若々しい。
だけど流石氷の貴公子の母君。社交界ではそのキャピキャピぶりは鳴りを潜めて(社交の場ではちょっと近寄り難い雰囲気で)一目置かれた存在である。
*
私の部屋は何とミューゼ様と同じ部屋だった。
ミューゼ様の部屋の隣にある内扉で繋がった部屋ではなく、ミューゼ様の部屋で一緒に過ごす事がミューゼ様の中では決定事項だったようで、本来私の部屋になるはずの部屋は2人の物置兼衣装部屋的な物になっていた。
部屋の奥にはキングサイズの大きなベッドがドーンとあり、ミューゼ様は恥ずかしげもなく「夫婦になったんだ。一緒に寝るのが当然だろ?」と爽やかに微笑んでいた。
「着替えなどは何処ですれば?」
「ここですればいい。俺は気にしない」
「それはちょっと...恥ずかしいんですけど」
「むー...では隣の部屋で着替えればいい」
え?今「むー」って言いました?
何それ!めっちゃ可愛いんだけど!鼻血吹きそうなんですけど!
「...普通は隣の部屋が私の部屋になるのでは?」
「...普通じゃなくていい」
拗ねたような顔をしているミューゼ様が可愛すぎて...一瞬倒れそうになった。
ゲームで必死に集めたどのスチル画像よりも尊い!尊すぎる!
妊娠が発覚して以来ミューゼ様が尊過ぎて辛い。
*
夕飯は本当に豪華だった。
私は軽い悪阻があってこってりした物は口にしたくなかったのだが、流石経産婦であるセナ様。
アッサリしているのにしっかり栄養の摂れる物も沢山用意してくださっていた。
「お心遣いありがとうございます、セナ様」
「もー、フェリーちゃん!そこは『お義母様』でしょ!何ならママでもマミーでも良いわよ!外国ではそう言うらしいのよー!」
「マ、ママ?!...正気ですか、母上」
「ヤダ!ミューゼにそう呼ばれたくはないわ!でもフェリーちゃんなら大歓迎よ♡」
陽気なお義母様で...。
そんなセナ様の隣で耳だけ赤く染めて仏頂面で黙々と食事をしているクリス様。
「この仏頂面で楽しんでるのよ!ほら、耳赤いでしょ?この人ね、楽しいと耳が真っ赤になるのよ」
「......」
益々耳を真っ赤に染めたクリス様。
意外と可愛い人らしい。
「...その...私の事もお義父様と...パパでも...」
「父上...パパはないでしょう」
うん、パパはない!
歓迎会を兼ねた夕食は終始明るく楽しく過ぎて行った。