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リリンの懺悔を聞いて「私も転生者なの」と言っちゃおうかな?と思ったものの、性格が融合して大人しくなったとはいえあのリリンもきっとまたリリンの一部なんだろうなぁと思って言わなかった。
多分前世同担拒否派そうな子なのだから、私も!なんて言って豹変されても困る。
特に今は妊娠中だ。
慎重を期して然るべきだと思うの。
今表面上大人しく、反省してるとしても、何かがきっかけでまたあのリリンになっちゃうかもしれないし、そうならない保証なんて何処にもないのだから。
それに、私、あのリリンが言ってたみたいな転生チートなんてしてないのにそう思われるのも嫌だった。
展開知ってたからミューゼ様をヒロインが来る前に落としたみたいに思われるのはどうしても嫌だった。
今のミューゼ様はゲームのシナリオとかとは別の所で私を選んでくれたのだと信じてるし信じたい。
例えリリンにでもそれを疑われるのは嫌だ。
全部私の我儘。
でもそれ位許されるよね?
「私を受け入れてくれた今の両親、とっても良い人達なんです。何も分からなかった私にちゃんと寄り添ってくれて、出来たら出来ただけ褒めてくれて、いけない所はちゃんと叱ってくれて、私がおかしくなったのは自分達が無理に貴族にしてしまったからではないかと私の知らない所で泣いていて...それにも気付いてたのに見て見ぬふりしてた。私、これ以上両親を悲しませたくないなって思って...本当の両親の事なんてぼんやりとしか覚えてないけど、私の両親もこんな感じの温かい人達だったのかな?って思ったり」
本当に子爵夫妻良い人達なんだね。
貴族なんて親は親、子は子みたいな家庭が多くて、親は忙しくて当然!子は使用人達に育てられて育つ!みたいな家族関係薄い家が多いけど、リリンの今のご両親は違うのだと話を聞いているだけで分かる。
「素敵なご両親なのね」
「はい!私には勿体ない程に」
リリンの顔は来た時とは違ってスッキリとして見えた。
「リリン様?リリン様はヒロインとして殿下達のどなたかと結ばれたいと考えていたと言ってらっしゃいましたが、それはその方をお好きだったからですか?」
「...ミューゼ様の事は、その、前世で推していたので、落としたいと思ってたんですけど、あ、ごめんなさい、嫌ですよね、こんな事言われるの」
「いえ、お気になさらずに」
「...あの、好きかと聞かれると、会って話してみた結果『怖い、ヤバい』としか思わなかったのが正直な気持ちで...ミューゼ様は見てるだけでいいかな?って...殿下達の事は、その、ハッキリ言って好みではなくて...でも自分がヒロインだって思ってた時は結ばれるのが当然だと思ってて...だけどよく考えたら起こるはずのイベントは教科書の件以外起きないし、話していれば上がるはずの好感度も上がってるようには見えなくて、何かおかしいと思ってはいたんですけど、それは全部フェリー様が本来の役割を果たさないからだって思い込んじゃって...」
「イベント、起きなかったの?」
言ってからヤバいと思った。
「そうなんです!起きなかったんです!出会いイベントも仲良くなるきっかけのイベントも何も!その時点で気付くべきだったのに」
さっきの発言でヤバいと思ったけどリリンは全く気付いてなかったみたいだからホッとした。
転生者ではないと思わせている手前、「何でそこに驚くの?」とか突っ込まれたら非常に困る事になってたと思う。
でも、イベントが起きなかったのか...ちょっとビックリだ。
編入して来た初日にミューゼ様ルートでは出会いイベントが発生してた。
他の攻略対象者達にもそれぞれ出会いイベントはあったはず。
ミューゼ様ルートでは先生に「そこに座るように」と指定された席がミューゼ様の隣の席で、冷たい雰囲気のミューゼ様に臆する事なく「よろしくお願いします」と朗らかに笑うヒロインにミューゼ様がほんの少しだけ興味を持つのだ。
まぁミューゼ様はリリンが転入してから1週間経ってから登校再開したからそのイベントは起きるはずがないが、他の攻略対象者達とは出会いイベントとか起こしてるんだと思ってたのに、起きてすらいなかったんだ。
「リリン様は今、お好きな人はいらっしゃらないの?」
「好きな人ですか?...あの、いる、というか、その」
あ、顔が真っ赤になった!
リリンが好きな人って誰?気になる!!
「どなた?」
「出版社の、担当の人、です」
「まぁ!」
攻略対象者以外だった!!
出版社の担当者って全くノーマーク(そもそもマークすらしてないけど)!
「どんな方なの?」
「24歳の人なんですけど...何時もは無精髭を生やしてて汚い感じなんです。でも時々髭を剃ってパリッとした服を着てて、そのギャップが萌えるっていうか...あ、萌えるとか言っても分かんないですよね?!」
いや、分かりますよ、ギャップ萌え!言えないけども。
「顔も、目に優しいっていうか、その、何か見ててホッとするタイプで」
攻略対象者達って無駄にキラキラしてて見慣れない限り目に限りなく優しくないもんねー。
私なんて未だに毎朝悶えまくりだし。慣れる気がしないってもんよ!
「その方とは思いを通じ合わせてらっしゃるの?」
「通じ?!まさか!とんでもない!私、6歳も年下ですし、そんな対象には見られてないっていうか、好きかもって気付いたばっかりでそれ所じゃないっていうか」
真っ赤な顔で慌てふためくリリンがもう可愛すぎる!
正しいヒロインの図、ここにあり!って感じ。
「でも、これから頑張ろうと思ってます!シャーリン様に他力本願って言われたの、あれ、結構グサッと来て、自分で何の努力もしてなかったんだなって思って。だから、どうなるかは分かりませんが、頑張ってみようと思ってます!」
この後アリザを呼び戻し3人でお茶をした。
私が「ミューゼ様の画集を作って下さらないかしら?」と言ったらリリンが「え?フェリー様もそっち系の人?」と少し驚いた後に何故かお腹を抱えて笑い出した。
「自分の旦那さんを推すってどれだけ好きなんですか?!ヤダー、もうウケる!」
何が琴線に触れたのか暫くヒーヒー言いながら笑いまくっていた。解せぬ。
「画集かー、画集。それ、売れそうですね!」
アリザは何か思い付いたらしい。
「前にシャーリン様に見せてもらったあの絵!あぁいうのを小説の登場人物の絵として1冊の本にして画集として売り出したら凄くないですか?」
「あぁ、設定集!」
うんうん!設定集ねー、買ったわー、前世で。
「設定集?それはどういう物なの?」
「はい!登場人物達のイラストと共に基本的な性格だとか生まれ育った背景とか、作者が考えていた裏設定だとかを紹介する本です!イラストも表情だったり色んなポーズの物だったり沢山載っていて、その本だけで読めるオリジナルエピソードなんかも載ってたりして、ファンには涎物の1冊でした!」
「へぇ、面白そう!それ、今度ハーキンスさんに話してみようよ!ハーキンスさん、そういうの絶対面白そうだって聞いてくれるよ!」
「ハ、ハーキンスさんに?」
見る間に真っ赤に染まっていくリリンの顔。
そっか、リリンの気になる人はハーキンスさんっていうのかー、なるほど。
「アリザ?そのハーキンスさんってどんな方なの?」
「ちょっ!フェリー様!」
「ハーキンスさんですか?ハーキンスさんは今回の小説の挿絵の担当をしてくれた人で、普段は画廊のパンフレットなんかを担当してる人ですね。リリン様の絵を私の担当者に見せていたら『へぇ、いいね、凄くいい』と妙に食いついてきて、気が付いたら挿絵の担当者になってましたね。為人についてはよく知らないんですけど、うちの担当者さんが言うには変わり者らしいです。まぁ、そういう担当者さんも相当な変わり者なんですけどね」
今、アリザの隣でリリンの耳がダンボ化してる幻影が見える!!
気になるよねー、好きな人の情報って。
いやー、何か微笑ましいわ♡
「設定集も良いけどミューゼ様の画集は?!」
「それは個人でリリン様にご相談ください」
「簡単にで良ければ...あ、実際に描いてみましょうか?」
「え?ここで?描いてくれるの?」
という事で描いてもらいました、ミューゼ様のイラスト!
目から描き始めた時は「え?目からいくの?!」と驚いたけど、本人は「え?普通じゃないですか?」とキョトンとしていた。
画力ない私は輪郭からいく。
目からなんて描いた事がない。
輪郭から描かないと怖くない?!
...これが画力無し人間の現状。
そして出来上がったミューゼ様のイラスト♡
「ほぁぁぁ♡ミューゼ様だ!ミューゼ様よ!どうしよう、ミューゼ様だわ!」
もう完璧にミューゼ様!!
「お、落ち着いてください、フェリー様!お腹に障りますから」
「え?こんなんでそんなに喜ぶ?」
「だってこれが落ち着いていられる?!無理!だってミューゼ様よ!カッコイイ!カッコよすぎる!」
「フェリー様ってこんな人だったの?思ってた以上だ」
「...そうね、ミューゼ様に関してはこんな感じの人ね」
「ミューゼヲタ...あー、私も前はこんな感じだったのか...何か恥ずっ」
「え?何か言った?」
「「いいえ!何も!」」
私が大興奮している中、こんな会話がアリザとリリンの間で行われていた事には全く気付かなかった。