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キャンプファイヤーはあれだったものの、新年祭は大成功で終わった。
我がクラスのバザーの収益金は何と200万ディア(前世金額で大体2000万位!信じられる?!)だった事には驚いた。
まぁ、お家での不用品(新品未使用品)とはいえ出処は貴族の家。
そして買うのも貴族の方々。
並んでた商品は高級品が多く、それが市場価格の半額(それ以下もあり)程度で買えるのだから売れるよね。
我が家からは20点商品として出したのだが、我が家が出した品は午前中のうちに全て売れたらしい(因みに収益金の半分は我が家の品らしい。怖っ!!)。
まぁ、私達が売り子をしていた時も売れてたからねー。
目の色変えて「こちらをくださるかしら?!」って商品を侍従に抱えさせたご婦人がポンッと現金で20万ディア払った時は「マジか?!」と思ったよね。
実は私、この世界でお金を持って買い物した経験が少なく、その上感覚が前世に引っ張られてしまったから20万ディアをポンッと払える神経が信じられなかった。
でもよく考えたら自分が身に付けているドレス等それ以上するんだけどね。
セナ様に「うちの趣味じゃないから持ってっちゃって」と渡された品々だったけど、どれも王室御用達店でなければ手に入らない超高級だったから、「これ、本当にいいんですか?」と受け取ったクラス委員のドラン君が震えていた。
収益金は我がクラスからとして後日全額が寄付される事になっていて、学園から一番近い孤児院と治療院、支援学校、修道院へそれぞれ寄付するそうだ。
新年祭が終わると2週間後に卒業試験が行われ、そこをクリアすると後は卒業を待つばかり。
ミューゼ様に作ってもらった予想問題はかなり高得点だったから多分大丈夫だと思う。
もし赤点を取ったとしても数日間補習を受ければ卒業は出来るのであまり心配はしていない。
卒業する頃には妊娠8ヶ月になっているので、その頃自分の体がどうなっているのか不安は少しあるものの、至って平和である。
新年祭が終わった翌日、我が家を訪ねてきたシャーリン。
「案外楽しめたわ」
なんて言ってたけど満更でもなさそうな気もしないでもない。
ただやはり期待を裏切らないヘタレヘルドリアスは新年祭でもヘタレぶりをご披露していたらしく、シャーリンが愚痴を零していた。
「回り始めた当初、わたくしの方も見ずに上ばかり見て歩いてらっしゃるから何度も躓いていたのよ」
「手を繋ぎたそうにしてらしたからこちらから『繋ぎますか?』って言ったら『きょ、今日は手の都合が悪いようだ!』って仰ったのに言った直後に激しく落ち込んでらしたわ。手の都合が悪いってどういう事なの?と思ったけど黙ってたわよね」
「全くわたくしを見ないから途中でわたくしではない他の生徒の方をエスコートしている形になっている事にも10分位気付いてらっしゃらなくて、やっとこちらを見たなと思ったらわたくしと遠く離れている事にやっと気付かれて...まさか王太子ともあろう方が半泣きで謝罪してくるなんて思ってもみなかったわ」
うーん、何処から突っ込んでいいのやら。
そもそもヒューゴを相手に手を繋いで最終的に腰を抱いて歩くシミュレーションは何処へ?
手を繋ぎたかったくせに「手の都合が悪い」って何事?
折角一緒に回るのにシャーリンを見ないってどういう事?
他の生徒をエスコートしてるっぽくなってるのに10分も気付かないって有り得る?
そして、半泣きで謝る位ならしっかりシャーリンを見てなさいよ!
まぁ、それ以降はぎこちないながらもちゃんとシャーリンを見てエスコートしていたらしく、あの店のあれが美味しかったとか楽しそうなシャーリンの顔が見られたので許そう(本当に誰目線?)。
「そう言えばビックリサンドイッチは食べたかしら?」
「食べたわ。私達のは多分当たりだったわ」
「わたくし達も買って食べたのだけれど、殿下が買ったサンドイッチがハズレばかりで、おっかしくて」
「え?ハズレってどんなのだったの?」
「バターとマヨネーズだけが塗られている物と具がなくバターすら塗られていない物でしょ。後はキュウリが1枚だけ申し訳なさそうに挟んである物ととっても辛いソースが塗られている物だったわね」
「大ハズレだわ、それ」
「お可哀想だと思ってわたくしのヒレカツのサンドイッチとただの食パンを交換して差し上げたのだけど、突然天にヒレカツサンドを掲げて震えるものだから驚いてしまったわ。そんなにお好きだったのね、ヒレカツサンド」
うん、違うと思う。
ヘルドリアスはシャーリンにもらったサンドイッチを天に掲げて震える程に歓喜していたんだと思う。
「わたくしをエスコートしている間にもあの悪い癖が出てしまって数名の女子生徒に声を掛けていらっしゃったけれど、声を掛けた後にあんなに落ち込まれると怒る気にもならなかったわよね」
やはり出てしまったか、悪癖。
「キャンプファイヤーは見たの?」
「見たわよ。ねぇ?あのキャンプファイヤーってずっと見ている意味はあるのかしら?ボーボーと燃え盛る炎を見ている意味が分からなくてずーっと『わたくし、今何をしているのかしら?』って思っていたわ。フェリー達も見たの?」
「私達は学校内を歩いたり、屋台で買った物を休憩室で食べたりしていたわ。キャンプファイヤーを見る気になれなくて」
「わたくしも休憩室に行けば良かったわ!去年まではクラスの片付けで参加してなかったものだから今年初めて見たのだけど、だからかしら、わたくし、途中で意識を失ったように眠ってしまって、気付いたら殿下が指先だけでわたくしの体を支えていらして」
「指先だけで?!」
「そう、指先だけでよ。どうせなら凭れさせて下さるとかしてくださっても良かったのに、プルプルと震えながら指先だけでわたくしの体を支えていらっしゃったの」
「うわー...そこは抱き締める所だよねー」
「だっ、抱き締める?!」
「恋愛小説の定番じゃない?眠ったヒロインの肩を抱いてあげるとか」
「そ、そうね、そう言われればそうだわ」
「駄目ね、殿下」
「...そうかもしれないわね」
そこで抱き締めとけば何かが変わったかもしれないのにね...残念すぎるよ、ヘルドリアス。
「そういえばね、わたくし、新年祭でヒューゴ様が女性と歩いていらっしゃるのを見たのよ!」
「え?!あのヒューゴ様が?!」
「驚くでしょ?わたくしも驚いたわ!飴色の艶やかな髪をされた少し年上の女性と仲睦まじ気に歩いていらしたの。殿下はヒューゴ様がわたくしを好きだなんて仰ったけれど、きっとあの方が本命だと思うわ。とても親しげだったもの」
へー、あのヒューゴが女性と。
全く想像出来ないけど、シャーリンが見たと言うのだから本当なのだろう。
飴色の髪の年上女性かー。
ヒューゴは年上好きだったんだねー。
ミューゼ様はヒューゴがシャーリンを好きだって言ってたけど、ミューゼ様の見立ても外れる事があるんだなぁ。
やっぱりミューゼ様も普通の人だったんだ(いや、普通の人なのだが)。
シャーリンが帰った後にミューゼ様にその話をしたら「それはヒューゴの姉だな」と言われた。
「飴色の髪をしていたのだろう?であれば間違いない。ヒューゴの姉だ。確か3歳年上だったはずだ」
姉?!お姉さんがいたの?!お姉さんだったの?!
何だかちょっぴり残念。




