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本日は新年祭でございます。
小雪が降る中で行われる新年祭。
うん、小雪が降る校門から校舎への寄り絵、ゲームで見たよ、うんうん。
「新年祭じゃなくてクリスマスイベントとかで良かったんじゃない?!」というご尤な意見が多数出ていたゲーム板。
「それね!」と思っていた私。
冬の大イベントと言えばクリスマスだった前世。
今世のこの世界ではクリスマスはないのでちょっと残念である。
前世の記憶が戻ってからどうにかクリスマスを作れないもんかと考えてみたけど、突然真っ赤な服の白髭おじいさんが子供達にプレゼントを配るという善行の名目で家に不法侵入してきたら絶対捕まるわな、と早々に諦めましたよね。
さて、新年祭である!
季節感だけは違うけどやっぱり雰囲気は学園祭のそれで、屋台(流石に生徒の手作り食品はなくそこはプロ作の物だが)が並び、コスプレに近い衣装を着た生徒達が客寄せパンダの様に練り歩き、学園に通う生徒達の親達も見学にやって来ていて何時も以上に人が溢れている。
「足元に注意しろ!」
雪がチラチラと降っているのでミューゼ様の過保護ぶりが何時もの倍以上になっている。
家を出る前は「体が冷えてはいけない」とタイツの上に厚手の靴下を履かされ、ドレスの下には厚手の下着とお腹が冷えないようにとミューゼ様がミヤ様と共に考えた、どう見ても腹巻にしか見えない毛糸製の『ウエストウォーマー』をしっかりと装着させられ、ふわっふわもっこもこの超暖かコートとミューゼ様とお揃いのマフラーをしっかりと巻き付けられ、手にはコートと同素材の手袋まで嵌められて、完全防寒仕様。
お陰様で寒さは全くないんだけど、歩くとちょっと暑い。
「少し暑いからマフラー取ってもいい?」
「室内に入るまでは駄目だ」
「じゃあ、手袋だけ、外していい?」
「手が冷えてしまう」
「ミューゼと繋いでるから大丈夫よ」
「仕方がないな...」
ミューゼ様は私の手袋を外すと、私の両手を口元に寄せ「ハーー」っと息で温めてくれた。
はぅっ♡私を殺す気ですか、ミューゼ様?!
今の一撃は即死ダメージ負う程の心臓に衝撃的過ぎるご褒美ですが!!!
それから片手を繋いだまま「こうすれば温かいだろう?」とポケットにIN!
こ、これは!少女漫画等で見たあれではありませんか!!
嬉し死にます!!いや、死にませんが。
あまりの甘さにチラつく小雪が砂糖に見えてきた私。
本日もミューゼ様は通常運行で激甘です。
取り敢えず教室に行き、午前中の1時間を私とミューゼ様とアリザと3人でバザーの売り子をし(クラス全員で交代制)、その後は自由行動という事でミューゼ様とまずは各教室で行われている展示系の物を見て回った。
シャーリンのクラスの展示会は斬新な物(芸術なのか最早謎)からプロ級の作品まで様々な物が並んでいた。
シャーリンの作品は刺繍で描かれた風景画で、これが中々の大作で、ただただ感心した。
演奏会を行うクラスでは、バイオリンやビオラ、フルート、ピアノ、クラリネット、チェロ等の各自の得意楽器を使った演奏が行われており、私達が聞きに行ったタイミングでリクエストタイムに突入した為、ミューゼ様が「野薔薇の君へ」をリクエストして周囲がザワついた。
野薔薇の君へというのは愛しい恋人を野薔薇に例えた愛の曲で、曲調は終始柔らかく穏やかで、後付けで付けられた歌詞はとにかく甘く、『究極の愛の曲』と呼ばれている曲だ。
「フェリーの為に」なんて言って目に眩しすぎる程に甘く微笑むから、近くにいたご令嬢達からは黄色い悲鳴が上がっていた。
生徒達がデザインをし、きちんとしたその道のプロが仕立てたアクセサリーをお手頃価格で販売しているクラスではお互いの目の色に似た石の嵌った細いバングルを買い、指輪の交換さながらに人前でバングルの交換を行い、それまた目撃していたご令嬢達から黄色い悲鳴が上がっていた。
「ミューゼは恥ずかしくないの?皆に見られてて」
「恥ずかしくはない。寧ろ見せたい。フェリーは俺のもので、俺はフェリーのものなのだと皆に見せ付けたい」
「...そうですか」
こうも堂々と言い切られたら「恥ずかしいから人目のある所ではちょっと控えて」なんて言えるはずもなく、その後も訪れたクラスでご令嬢達の黄色い悲鳴が上がるという、何とも奇妙な現象を起こしながら私とミューゼ様は校内のクラスを回った。
*
『森の喫茶店』という、メルヘンチックな喫茶店を行うクラスでミューゼ様と窓際の席に座ってのんびりとお茶を飲んでいると、外の屋台にシャーリンとヘルドリアスの姿を見つけた。
「あ、シャーリンと殿下だわ」
「あぁ、そうだな」
「ちゃんとエスコート出来ているのかしら、殿下?」
「ヒューゴ相手に相当シミュレーションしていたから大丈夫なんじゃないか?」
「え?そうなの?」
「あぁ、ヒューゴは嫌がっていたがな」
「そりゃ嫌だよね」
どんなシミュレーションをしてたのかちょっと気になる。
「さり気なく手を繋ぐ所からシミュレーションしていたぞ。最終的には腰をさり気なく抱く所までやっていたな」
本日も普通にエスパー炸裂です。
シミュレーションとはいえ手を繋がれ腰を抱かれるヒューゴの気持ちは如何なるものだったのか...ご愁傷さまです。
そのシミュレーションの成果は今の所全く出ていないようで、普通に並んで歩いている2人。
まぁ、シャーリンが笑っているから良し!
*
学園内ではコート等を脱いでいたのだが、外の屋台を見て回りたいと言ったらしっかりと着込まされた私は、何時もよりも多めな視線に見られながらミューゼ様によるお姫様抱っこで階段を下り外へ出た。
「まぁ♡」
「あら♡」
「お熱いのね♡」
なんてご婦人方の声までして非常に恥ずかしかったのだが、ミューゼ様は何ともない顔で、何なら何時もよりも堂々と階段を下りていた。
屋台が立ち並ぶ通りは校内よりも人が多く、屋台特有の美味しそうな香りがしており、不覚にもお腹が小さく鳴ってしまった。
「何とも愛くるしい音がしたな」
私のお腹の音までしっかりと拾ったミューゼ様。
耳が良すぎるのも考えものである。
「何が食べたい?」
事前に配られたパンフレットで食べたい物の候補は決めていた。
「フルーツサンドチョコワッフルとミートパイとシーフードパスタとエッグタルトと3色ジェラートとビックリサンドイッチ」
「そんなに食べられないだろう?!」
「そうなんだけど、でも全部食べてみたいの」
「フッ、では2人で分け合って食べるか?」
「そうしてくれる?」
「あぁ」
全てを購入し、ついでにホカホカのクラムチャウダーも買って校庭に設置された簡易テーブルセットの上に購入した物を並べたら、テーブルいっぱいになってしまった。
ミートパイが思いの他大きくて「これは...1/3だけ食べて残りは持ち帰った方が良さそうだな」と言うミューゼ様に賛成だった。
普通にパン屋さん等で販売されているミートパイは手のひらサイズだからその位だと思ったのに、まさか7号サイズのホールケーキ位大きいなんて予想外過ぎた。
味は美味しかったけどね♡
ビックリサンドイッチは包みを開けてみるまでどんな具材が入っているのか分からないサンドイッチで、中身が全く見えない仕様の黒い包み紙を開けるとキュウリとチーズ、厚切りベーコンとレタス、粗挽き胡椒入のマッシュポテトとハム、ローストビーフとスライスオニオンと玉子の4種のサンドイッチが入っていた。
中にはバターのみの具無しサンドやこれでもか!と野菜ばかりを挟んだサンドイッチ等もあるそうだったのだが、私達のは多分当たりだ。
「どれが食べたい?」
「うーん、全部少しずつ食べたい、かな」
「では先に好きなだけ食べろ。残りは俺が食べる」
「え?でもここには切り分ける物ないよ?」
「齧り付けばいい」
「えぇ?!それは...」
「フェリーが口をつけた物ならば大丈夫だ。寧ろご馳走だ」
という事で食べましたよね、サンドイッチ。
私が齧った所から幸せそうな顔をしてサンドイッチを頬張るミューゼ様。
何処か変態チックなその行為さえミューゼ様がやるとひたすらにエロい!色気がヤバい!
もう心の中、滝のような涎と吐血の血と鼻血の大洪水!
「これが私の旦那様ですよぉぉぉ!信じられます?!」と走り回って叫びまくりたい気分だった。
一番最初に食べるべきだったシーフードパスタは後回しにした為にアルデンテ具合がなくなっていたのだが、火が通してあるのにイカが何ともコリコリで美味しく、エビはプリップリで、思わず「美味しい!」と言ってしまった。
「これはいいな。...シェフを押さえなければな」
そんな言葉が聞こえたような気がしたのだが、食べるのに夢中で聞き流していたら、後日、全く同じ食感の、今度はしっかりとアルデンテの絶品シーフードパスタが我が家の食卓に並び、「あれ?」と思ったらミューゼ様がフッと笑って「これからは好きな時に食べられるぞ」と言った事でこの時の言葉を思い出すのだった。
シーフードパスタを作っていたのはとある高級レストランで雇われていたシェフだったそうで、その店よりも良い待遇で我が家に引き抜かれたらしい。
シーフードパスタを食べ終えた段階で私のお腹は限界に近く、フルーツサンドチョコワッフルとエッグタルト(前世での私の好物)は持ち帰る事にした。
クラムチャウダーを飲み干し、3色ジェラートを2人で食べた。
カシスとバニラとチョコの3色のジェラートは甘さ控えめな大人な味で、クラムチャウダーを飲んで限界に達していたはずの私のお腹にあっさりと入った。
甘い物は別腹とはよく言ったものだ。




