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本日は休日である。
そして今、私はシャーリンとアリザと共にお茶を楽しんでいる。
平和である。
アリザと何としても仲良くなりたいシャーリンによりたまにアリザも含めてお茶をしているのだが、休日に3人で集まるのは初めての事だった。
「しょっちゅうお茶をしているのだから休日位フェリーを独り占めしたかったのだが」
ミューゼ様はちょっと不貞腐れていたけど、ミューゼ様とはほぼ四六時中一緒にいるのだから独り占めする時間なんて幾らでも作れるでしょ?!
不貞腐れたミューゼ様を思わず拝みそうになった。
「最近シャーリン様はリリン様とご一緒されているのですね」
「そうなのです!あの方、急に貴族の世界に入って来られたでしょ?その環境に心が付いて来れなかったようで、心が疲弊されていたようなのですわ。だからわたくしが協力させていただいていますの」
「シャーリン様は優しいのですね」
リリンを強引に医者に診せたシャーリンはその後も数日置きにリリンを医者に診せており、最近ではリリンはすっかりと大人しくなった。
診療内容は教えてもらっていないようだが、診療が終わった後にリリンと話をしているようで、「何でも幼少期にご両親を失った事で心の中に別の人格が生まれたのではないかと言われたそうなのよ。お医者様と話していて納得出来る点が沢山あったようで、自分が相当疲れていたのだと気付いたそうよ」と言っていた。
お医者様は神様ですか?!
あのリリンを大人しくさせてしまうだけの説得力があったのだろうが、素直に凄いと思う。
「それでね?リリン様がフェリーとお話したいそうなのよ?わたくしも一緒にいるし、何も起こらないと思うのだけど、どう?」
「ミューゼに聞いてみない事には」
「そうね、ミューゼ様がお許しにならないかもしれないものね。一度聞いてみて下さらないかしら?」
「後で聞いてみるね」
私と何を話したいのだろう?
「ところで、アリザは何時になったらわたくしをシャルと呼んでくれるのかしら?」
あ!私も呼んでないじゃん!シャーリン呼びしてるよ、最近!
「愛称で呼ぶのがお嫌ならシャーリンと呼び捨てでも構いませんわ。寧ろ呼び捨ての方が親しみを感じますし」
チラッとこちらを見て頬を染めるシャーリン。
あー、呼び捨て嬉しかったんだ。
ごめんねー、シャル呼び忘れてて。
「突然は、その、難しいです。シャーリン様は私なんかよりもずっと身分も高い方ですし...」
「わたくし達の間に身分なんてそんなちっぽけなもの関係ございませんわ!ですが気持ちも分からないでもありません。...何時か呼んでいただけたら、わたくし、嬉しいですわ」
上目遣いでアリザを見るシャーリンのあざと可愛さがとんでもない!!
アリザも頬を染めている。
こんな顔をヘルドリアスが見たらまた鼻血噴いて倒れるんだろうなぁ。
「それはそうと、今日はアリザに見てもらいたい物がございますの!...これですわ!」
シャーリンがテーブルの上に置いたのは紙の束。
そこには前世で頻繁に目にしていたアニメイラスト風の物が描かれていた。
しかもめっちゃ上手い!!
「こ、これは?!」
「リリン様がお描きになった物ですわ。これ、凄くありません?!これをザリアーヌ先生の作品の挿絵にしたら、ザリアーヌ先生の作品がより素晴らしい物になるのではないかと思って、リリン様にお願いして先生の作品の登場人物をイメージして描いてもらいましたの!」
「凄い...これはチャールズですね!」
「そう、チャールズ様ですわ!この影のある雰囲気なんか素晴らしくありません?!」
「えぇ、素晴らしいです!」
チャールズとは誰でしょう?
アリザの作品は一度しか読んでない(タイトルすら思い出せない)し、内容覚え込む程に熟読した訳でもないから申し訳ないんだけど誰の事を言っているのか全く分からない。
ただ2人が興奮している事と、リリンの絵が絵師並に凄い事は分かる。
私の画力はミューゼ様に「それは何だ?!」と言われるレベルに壊滅的なのだが、リリンの画力は本当に凄いのだ。
どう言えばいいのか分からないけどとにかく凄い!
「これはアシュリーですね!わぁ、私のイメージよりも可愛い!」
「そう、アシュリー様ですわ!とっても愛らしいですわよね!作品の中から抜け出して来たようではございません?」
「えぇ、えぇ!これ、鉛筆描きですよね?!この髪の陰影といい、凄いです!この髪の毛なんてどうやって描いているのでしょう?今にも風に揺れそうな柔らかく艷めく髪!凄いです!凄すぎます!」
「ですわよね!本当に、どうやったらこのように描けるのでしょう!わたくしも真似をして描いて見たのですがこのような絵にはなりませんでしたわ。...あ、こちら、どなたか分かります?」
「これは?!悪徳商人ディルク!」
「その通りですわ!ディルク様です!悪徳商人とはいえ人気の高いディルク様ですので描いていただきましたの!」
「はぁ...素晴らしいわ!ディルクをここまで素敵に描いてくださるなんて...実は私、自分が書いた作品の中でディルクが一番気に入っているんです。もう私のイメージ通り過ぎて...感動だわ」
「まぁ!アリザもディルク様がお気に入りなんですのね!わたくしもディルク様が大好きなのですわ!悪徳商人の仮面を被りつつも人知れず人を救うディルク様♡報われず失意の中で儚くその命を散らすあのシーン...震えましたわ!」
「私も、自分で書いているのにあのシーンでは泣きそうになりました!これでディルクは死んでしまうのか...って。何度も「生かしておく道はないか」と考えました。でもディルクはあの場でああなるのが一番自然で」
「分かりますわ!わたくしも何度読み返しても、ここで散るのがディルク様の運命だったのだという結論しか出ませんでしたわ!」
ディルクと呼ばれている小説の登場人物らしいその人のイラストは黒髪黒目の線の細い男性キャラで、1枚の紙に何パターンも描かれた顔は冷たそうだったり悪そうな顔が中心なのだが、中に1つだけ照れたような笑顔の物があり、はにかんだその笑顔はキュンとするものがあった。
 
2人とも思い入れが強いようでディルク談義で大盛り上がりだ。
そんな2人を「あー、平和だなぁ」と思いながら見ている私。
取り残されてる感は多少あるものの、こういうヲタ的な会話を聞いているのもまた楽しい。
前世の私はミューゼ様推しでありミューゼ様ヲタだった。
私のミューゼ様愛をよく聞いてくれていた友達は某アニメの主人公を激推ししていて、私は友達の主人公愛をたっぷりと聞いていた。
そっかー、私達あんな感じだったんだなぁ。
懐かしいなぁ。
名前思い出せないけど、あの子どうしてるかな?
今でも主人公愛を叫んでるのかな?
「これ、一度担当さんに見せてもいいですか?!私、次の作品の挿絵をリリン様にお願いしたいです!」
「次の作品と言えばフェリー達夫婦の話ですわよね!それは素晴らしいですわ!」
「え?私達をモデルにした小説に使うの?勿体なくない?」
「ランベルト様のあのお顔をリリン様なら素晴らしい具合に表現してくれると思います!」
「え?主人公の顔、ミューゼなの?」
「あ!い、いえ、あくまで私のイメージの中では、モデルにさせてもらった手前主人公はランベルト様とフェリー様なだけで」
「ミューゼの顔なら私、小説10冊は欲しい!」
「え?!」
「画集とかも作ってもらいたい!ミューゼのあんな顔やそんな顔の画集...」
「あ、あの」
「ほっといていいですわよ。完全に惚気ですもの」
突然の提案にすっかり前世のヲタぶりを発揮してしまった私。
2人の「仕方ないなぁ」みたいな顔を見て恥ずかしくなった。
でも、でもね、ミューゼ様の画集よ、画集!
何時だって見れる本物のミューゼ様が傍にいるけど、美麗イラストのミューゼ様の画集なんて想像したら「欲しい」一択だ。
リリンのイラストの腕前を考えたら絶対素敵な画集になる事間違いなしだもん!
そりゃ欲しくなるよ!
その話をミューゼ様にした所「俺の顔では物足りないのか?」と言われてしまった。
「では、フェリーが俺の顔を見飽きる程に何時までも傍にいなくてはな」
見飽きる事は絶対にございません!!
見飽きない自信しかございません!!
そして、リリンが私と話したいのだという事を伝えてみたら「駄目だ!危険だ!」と許してはくれなかった。
リリンの今までの行動を考えたら当然の返答だと思う。
「どうしても駄目?」
「...暫く様子を見て大丈夫そうならば、考えてもいい」
という事で暫くは様子見となりました。
※シャル呼びをすっかりしなくなったフェリー。
私の中では一度書き掛けで消去してしまった話の中でその事を書いていたので何となく書かなくてもいいかな?と思っていたのですが、ご指摘をいただいたので予約投稿済の今回の話の中に織り込んでみました。
シャーリンは愛称呼びよりも友達からの呼び捨ての方が嬉しいタイプです。
 




