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シャーリンはデートの翌日の放課後に我が家を訪ねてきた。
「わたくし、殿下に告白されたわ」
2人きりになってすぐにそう言われて「え?」となった。
「訳あって軽薄な振りをし続けた結果、それが癖として身に付いてしまったそうなの。本当の自分は君に想いすら伝えられない臆病者なんだと言われたわ」
「...あれ、フリだったんだ」
「そうらしいわ...おまけに...ヒューゴ様がわたくしの事を好きなのだとも言われてしまったわ」
「あぁ、ヒューゴ様ねー」
「え?その反応は、ご存知でしたの?」
「まぁ...ミューゼがそんな事を言っていたから」
「だったら教えてくださいまし!知らなかったから驚きのあまりおかしな声が出てしまったわよ!」
「いや、言えないわよ!」
「...ですわね。はぁ、わたくしどうしたらいいのかしら」
「...モテモテね、シャーリン」
「も、モテモテ?!」
顔を真っ赤にして俯くシャーリンが尊い。
「告白されてなんて返事をしたの?」
「それが...叱り付けてしまったのよ」
「え?」
「だって、男のくせに何だかグジグジしていて、振ってくれていいだとか、婚約を白紙にだとか、君の隣に立てるだけで幸せだとか言うのよ?!演技で軽薄なふりをし続けていてその結果軽薄な態度を取るのが癖になってしまったのは百歩譲って仕方ないとして、そんな話をしておいて何故振られる事を前提として話すのか、そんな話を聞かされてわたくしが殿下を見捨てるような事が出来るとどうして考えるのか、そもそも婚約を白紙に出来るならとっくにしてるわよ!とかもう色々と腹が立って」
ヘルドリアスよ、そんな事を言ったのか?!
君は馬鹿なのか?!
そんな事を言われて何故シャーリンが離れていくと考えるんだ?!
普通逆だろ!シャーリン良い子だからそんな話を聞いたら離れられないだろう!
分かってるようで分かってないんだな、シャーリンの事(何様?)。
「事情があって軽薄なふりをしていた事を白状した上で『これからは好きになってもらえるように努力する』なら分かるわよ!でもそういう事もなく、そもそも好きなんて言っておきながら『君に好かれるはずがない』みたいな態度っておかしいじゃない?!」
「...殿下ってヘタレなのね」
「へ、タレ?え?オナラ?」
「あ、オナラじゃないわ!ヘタレって言うのは根性がないとか意気地無しとかそういう人の事を言うのよ」
「あー、そういう事ね!...そうね、ヘタレね。殿下はヘタレだわ!」
「で?殿下と向き合ってみるの?」
「...そうね。あの人のあんな姿なんてわたくし知らなかったから、あぁ、わたくしってこの人の事何も知らないのねって思ったの。知らないなら知ってみるのも悪くはないのかと思ったわ。好きになれるかは別だけれど」
「それでも好きになれなかったら?」
「その時はその時ね。そもそも王家に望まれたのだからこちらからお断りするなんて真似、公爵家だからって簡単には出来ない事だし、元々結婚するのだと思っていた人ではあるのだし。わたくし、推しはいても恋愛的な意味で好きな方はいないから、心から好きだと想う相手が出来たら白紙に戻してもらう事をお願いするかもしれないけれど、そうでない限りは結婚するわ、殿下と」
「シャーリン、カッコイイ!」
「なっ?!」
「カッコよくて可愛い!」
ボボボ!と音がしそうな勢いで顔を真っ赤に染め上げるシャーリンは本当に可愛い。
この子がモテるのはこういう面も含めてきっとその全てが素直で真っ直ぐで可愛いからなんだろうな。
見た目はキツいのに素直で優しく、凛としててカッコよくもあり、その癖どっか抜けてて、恋に憧れるような乙女チックな所もあり、総じて可愛い!
可愛いは最強とか可愛いは正義なんて言葉が前世で言われていたけど、シャーリンを見てたら「うん、本当だ!」と思える。
こんな可愛い生物、好きにならずにいられない!
本人は「可愛い」とか言われ慣れてなくてすぐに照れちゃうけど、そんな所もポイント高過ぎる。
「殿下って見る目あるのね」
「な、何よ、突然?!」
「だってシャーリンを好きだなんて、見る目がある男だって証拠じゃない!」
「...フェリーだけよ、そんな事を言ってくれるのは」
「そう?そんな事はないと思うけど?」
「そんな事あるわよ...わたくし、見た目だけで近寄り難いとか性格が悪いだとか思われてしまって、取り巻きのご令嬢達以外は誰も寄って来なかったわ。少し注意しただけでも怯えられるし、普通に見ているだけで睨んでいるなんて誤解を受けた事もある。この見た目、嫌いなのよ」
「それなら私だって同じよ!シャーリンも私も似た系統の顔付きじゃない?だからちょっと厳しい口調をしただけで『怖い』だとか『苛烈な性格をしている』だとか言われてきたわ。でもそういう人達って見た目だけで判断してその人の中身を知ろうとなんかしない馬鹿なのだと思うの。そんな人達に振り回されて生きるなんて馬鹿らしいじゃない?シャーリンは知れば知る程素敵な女性なんだもの、自信を持つべきだわ!」
「そう?」
「うん、間違いなく!」
「ありがとう」
そう言って微笑んだシャーリンは本当に可愛くて「あー、天使」と心の中で呟いていた。
その立派過ぎる縦ロールとゴテゴテギラギラの服さえなければ完璧な天使なのに。
親よ!使用人達よ!縦ロールとゴテゴテドレス、早急にやめるべきだと気付いて!早く!
シャーリンが帰った後にミューゼ様と話をした。
「遂に話したんだな」
「知ってたの?」
「あぁ。見て直ぐに分かった」
見て直ぐに分かっちゃうんだ...ねぇ?ミューゼ様ってやっぱりエスパー?人の思考読める系のエスパーだよね?
「多分違う」
また読まれたようです、はい。
「好きな相手を守る為に軽薄者のふりをするなんて、俺には出来ない」
「え?もしかしてシャーリンを守る為だったの?」
「そのようだ」
「...何でそんな考えに至ったんだろうね」
「子供時代に考えたそうだからな。極端な方向に走ってしまったんだろうが...愚かだ」
シャーリンを守る為だったなんて驚きだ!
でも守り方なんて幾らでもあっただろうに...子供時代って何歳位だったんだろう?
子供過ぎて「これが良い方法だ!」って思い込んじゃったのかな?
「俺ならこんな風に腕の中に囲い込んで守り抜くがな」
後ろからすっぽりと抱き締められて耳元でセクシー過ぎる声で囁かれた。
腰が砕けそうです!!
「ミューゼって、結婚してから『愛してる』って沢山言ってくれるようになったよね」
「昔から言っていたが?」
「え?何時?そんな記憶ないけど?」
「...口に出してはいなかったか?」
「出てないと思う」
「そうか、すまん...何時も心の中で思っていた。愛してると。心の中でそう言い続けていたから、口にしているものだと思い込んでしまっていたのかもしれない」
「じゃあ今は?」
「今は愛しさがより強くなって、心で言うだけでは全く足りない。だから自然に口から出ているのだと思う。実際には愛してるなんて言葉では表し難い程に愛おしいのだがな」
甘い!甘過ぎます、ミューゼ様!!!
私そのうち砂糖漬けにされちゃうんじゃない?
前世の世界一甘いお菓子グラブジャムンよりも甘くなっちゃうんじゃない?!
でもそんな甘さも大好きです♡




