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【書籍・コミックス二巻発売中】ヒロインが来る前に妊娠しました~詰んだはずの悪役令嬢ですが、どうやら違うようです  作者: ロゼ


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ヘルドリアスside


ミューゼという男と出会ったのは学園に入学する前の年だった。


会うなり「あなたは何がしたいんだ?」と冷たい視線を投げられた。


何の事かと思えば、ミューゼは初見から僕の愚かなる癖を偽りの姿だと見抜いていた。


ミューゼは婚約者の事を一途に愛しており、そんなミューゼからしたら僕の間違った行動は愚かに見えただろう。


「何故守る為に他の女を口説くのか理解出来ん!守りたいならば自分の手の中でしっかりと守ればいいだろう!」


そうはっきり言われ、その時初めて「そんな方法も選べたのだな」と気付いたが、シャーリンに対しては臆病になってしまう僕はただ笑う事しか出来なかった。


ミューゼのようになれていたら僕の今も未来ももっと違うものになっているのだろうか?


学年が上がり3年に進級するとシャーリンとはクラスが離れてしまった。


クラスが離れた事に明らかにホッとした顔をしているシャーリンを見て胸がギュッと詰まるような痛みを覚えた。


あれから僕は第2王女の件で動かなければなくなったり、新たに提案した政策の事で目が回る程に忙しくなりシャーリンと2人きりで会う機会を逃してばかり...いや、こんなのは言い訳だ。


会う機会なんて作ろうと思えば幾らでも作れたが、明らかに僕を嫌うあの澄んだ綺麗な瞳を見るのが怖かったのだ。


「はぁ...あなたは本当に馬鹿ですね」


ヒューゴはそんな情けない僕を見て馬鹿だと言った。


そんな事は言われなくても分かっている。


「愛しているなら態度で示せばいい」


ミューゼは当然のようにそう言うが、今更どうやって態度で示せばいいのか分からない。


心にもない言葉で口説く事は出来ても、自分の素直な気持ちを本当に好きな相手にぶつける事はとても難しいと思うのだ。


僕は僕を偽り過ぎてきた。その代償はきっととてつもなく大きい。


最終学年になり半年が過ぎた頃、珍しい編入生がやって来た。


元孤児であり平民だったが心優しい子爵夫妻に迎え入れられた幸運な少女。


子爵夫妻は社交界では有名だ。


長年子が出来ずにいた夫妻はある夜会で「子が成せないような石女より我が娘はどうか?」と自分達よりも爵位の高い男に言われたのだそうだ。


しかし子爵は「妻程素晴らしい女性はおりません。子が出来ない事はきっと妻を妬んだ意地悪な神様からの嫉妬でしょう。そのような些細な事で妻を手放すなど愚か者のする事。私は妻と別れる気は一切ありません」と言い切ったのだという。


この話は人伝に広がり、後に素晴らしい愛妻物語として小説にもなった。


そのように妻を愛せる男の元へ拾われた少女は、子爵夫妻からは想像もつかない破天荒ぶりを披露してきた。


僕やヒューゴ、マリオンにキリアン、果てはミューゼにまで色目を使うのだ。


何だ、この女は!正気なのか?


ミューゼには全く取り合って貰えずに早々に諦めたようだが、何故か僕とヒューゴに標的を定めたようで妙に密着してくる。


本人は可愛いと思っているのか、やたらと上目遣いで見上げてきては甘ったるい声で話し掛けてくる。


僕は癖の影響で優しくしていたが、ヒューゴは「何だ、あいつは!失礼にも程がある!平民の女は皆あんななのか?」と嫌悪感を露わにしていた。


「因みに、あぁいう子が世間一般的に可愛い、愛くるしいと言われる女の子なのか?」


「容姿に関してはそうでしょうね。でも言動は全く違うと思います。あれは...狂ってる」


あの子の上目遣いはゾワッとする。


そこに甘ったるい声が重なると全身の毛が逆立ちそうな感覚が走る。


『あぁ、僕はこういう子が嫌いなんだな。いや、でもシャーリンが上目遣いをしてきたら...ウグッ!鼻血が出そうだ!駄目だ、その顔は反則すぎる!犯罪だよ、シャーリン』


空想の中のシャーリンがあまりにも可愛すぎて僕は一瞬死ぬ程のダメージを食らった。


叶うものならばそんな顔を現実で僕だけにして欲しいものだ...そんな日は来ないだろうが。


「あなたは本当に、何時までそんな事をしているのですか?!愚かにも程がある!」


ミューゼは相変わらず僕に厳しい。


彼は、今や妻となったフェリー夫人以外には誰にでも厳しいのだが、僕には特に厳しい気がする。


「いい加減素直になったらどうなんです?嫌われたまま終わってしまうなんて、それがあなたの望みなんですか?!」


ヒューゴにも尻を叩かれ、僕はやっと重い腰を上げる事にした。


「あの作り込んだ悪い癖は封印してください!」


「愛してると素直に伝えればいい!何も難しい事はない」


2人にそう言われ、シャーリンと2度目のデートをする事になった。


平民がするように場所を決めて待ち合わせをした。


待ち合わせ場所には先にシャーリンが来ていた。


何時もとは違う、平民にも見えなくはないような大人しめのワンピースに身を包み、何時もの太いロール状の髪は緩やかなウェーブに変わり、あまりの可憐さに一瞬目眩がした。


ただ城下の町を歩くだけのデート。


気が向いたら店に立ち寄り、屋台で買い食いしたりするのもいいだろう。


プランなんかない。


だけど、この日だけはありのままの僕を君に見て欲しい。


その為の勇気が欲しい。


「はぐれては大変だから...手を」


差し伸べた手を遠慮がちに繋いできたシャーリン。


僕よりも小さく、柔らかくも細い指からシャーリンの温もりが伝わってくる。


その手が僕に勇気を与えてくれる気がした。


歩きながらシャーリンに語りかける。


「シャーリンは覚えているだろうか?僕と君が初めて会った日の事を」


「...婚約したあの日の事ですか?」


「違うよ、僕らはもうずっと前に出会っていたんだ...6歳の時に」


「6歳?どちらででしょうか?」


「別宅、と言えば分かるかな?」


「別宅?...え?」


「あの時は咄嗟にヒューゴと名乗ってしまったけど...あの時君と庭で本を読んでいたのは僕だよ、シャーリン」


「え?...でもあれはヒューゴ様で...あら?違うわ...初めて出会ったのは金髪で紫の目の男の子...え?あれは、殿下?」


「そう、僕だ。あの頃から僕は...君が...好きだよ」


「へ?好き?は?」


「好きだ」


「にょわぁぁぁぁぁ!にゃ、にゃ、にゃぁ!な、何を?!何を仰るのですか?!揶揄うのも大概にしてくださいまし!しかもこんな往来で!」


「揶揄っていないよ、シャーリン。訳あって軽薄な振りをしてきたけど...本当の僕は君に想いを伝える事すら怖くて出来なかった臆病者だ...今だって、分かるかい?こんなにも震えている」


シャーリンと繋いだ手はおかしな程に震えていた。


「...何故?何故今になってそんな事を?」


「シャーリン、君は僕を見限ってくれて構わない。僕は訳があると言っても軽薄な態度を取ってきた、もう誰もが認める女にだらしがない男だ。君が僕のような男を嫌っている事は知っている。でもね、もう僕もこれは癖になってしまっていて、やめようにもどうにもやめられないんだ。そんな男が君のように素晴らしく愛らしい女性に相応しいとはどうしても思えない。でもね、ほんの少しだけでも婚約者として君の隣に立つ事が出来たら、もうそれだけで僕は十分に幸せだと思えるんだ。この婚約は僕の身勝手な我儘なんだ。そして君には僕を振る正当な権利がある。君さえ望めばこの婚約は白紙に戻せる。戻せるんだ」


「そ、そんな言い方、狡いですわ!それを聞いて『はいそうですか!』と白紙に出来る訳がございませんでしょ?!何なのですか、あなたは!どんな訳があって軽薄さを装っていたのかは存じませんが、であれば最後まで装いなさい!わたくし、そのような告白をされてあなたを見捨てる程冷酷な女ではございません事よ!わたくしの隣に立つ事が幸せなのでしたら、堂々とお立ちになればよろしいでしょう!そもそもこの婚約をこちらから白紙に戻せるなんて、どうやったらそのような思考に至るのです?!」


「だって...」


「だってではございませんわ!何時ものあなたは何処へ行ってしまわれたのですか?!王太子として堂々とされ、民に慕われるあのお姿はまやかしですの?!軽薄さを堂々と晒して、その軽薄さすらも美しく感じさせる気品は何処へ?!」


「君の目に僕はそんなふうに映っていたんだね...」


「ふ、ふん!知りませんわ!そもそもわたくし達は全くお互いを知りません!婚約者としての正しい関係すら築けておりませんのよ!わたくしをす、好き、好きだ等と仰るのならば、他の女等口説かずにわたくしを口説きなさい!まずはそれからでしょう!わたくしがあなたを好きになれるかは分かりませんが、その努力もせずに逃げるなんて男らしくありませんわ!そんな方が婚約者だったなんて、情けなくて言葉も出ませんわ!」


「その割に随分と喋っているけど」


「そういう、人の揚げ足を取るのはおやめになって!言葉の綾ですわ、綾!本当に女心を分かってらっしゃらないのですわね!あんなに自然に他の女を口説く癖に!」


「その点については後悔している...」


「遅いですわよ!もっと早くに気付きなさい!」


「...ヒューゴが君の事を好きな事、君は気付いてる?」


「にょわっ!な、何ですの、それ!ヒュ、ヒューゴ様が?!ないない、有り得ませんわよ!」


「ヒューゴは君の事が好きだよ」


「...どうしてそれを仰るのです?」


「フェアじゃないと思って...」


「ほんっとうに馬鹿なのですわね!」


それから僕達は、というか僕はシャーリンにずーっとガミガミと言われながら町を歩いた。


道行く人達は痴話喧嘩か?と物珍しそうに僕達を見ていたが、僕に文句を言う事に夢中のシャーリンはその視線に全く気付いていなかった。


ねぇ、シャーリン。


やっぱり君はとっても素敵な女の子だよ。


こんな僕を叱りつけ、嫌いなくせに歩み寄ろうとしてくれるなんて。


君が僕とあり続ける未来を、少し位夢見ても許されるかな?


何時か君が誰かを選んだとしても、僕は笑って送り出せるだろうか?


どんな未来がやって来るのかは分からないけど、その未来で君が明るい笑顔で幸せに包まれているといいな...。

これにて一旦ヘルドリアスside終了です。


賛否両論あると思いますが、ヘルドリアスにも幸せルートへの道が少し位選択肢としてあってもいいよね?とこんな形になりました。


2人がどうなるのかはお話のラストまでには結論が出ると思いますので、それまでお付き合いいただければ有難いです。

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― 新着の感想 ―
癖だから直らない のは言い訳。本質でないのなら矯正できる。矯正するの大変だからしない、でも君のこと好き、僕のこと好きなら受け入れてよ。甘えからくる傲慢は肥大化していく。リアルなら不幸まっしぐらだぞ。
やっぱり無い。 この王子は男版リリンじゃん。 しかもその拗らせた変な癖を改める気もなさそうだし。 こんなのに好きとか言われても信じられないし気持ち悪い。嫌いです。
王子はどうでもいいけど、シャーリンのためには良かったなって思います。たとえ別の人とくっついたとしても
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