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チラッと見た時いいね総数が4444という奇跡のゾロ目でした(*≧艸≦)
沢山のいいね、ありがとうございます!
そして、一日で10万PV突破という何だか凄いけど他人事のような出来事が起きておりました( ⊙⊙)!!
本当に何時も読んでいただきありがとうこざいます♪
ヘルドリアスside
彼女との出会いは6歳の時だった。
6歳の頃、僕は胸の病気を患い、療養の為にレズモンド公爵家が保有する別宅で秘密裏に過ごしていた。
別宅は本館であるレズモンド邸のすぐ隣で、窓から眺めればレズモンド邸の庭が見える位置にあった。
咳で苦しむ僕の心を温める存在が、時折窓から見えるレズモンド邸の庭で穏やかな日差しを浴びて本を読む彼女だった。
真っ黒い髪は日を浴びて頭に天使の輪を作り出し、時折揺れる固いのか柔らかいのか分からない、あまり似合ってもいない太いロール状の長い髪を邪魔くさそうに触りながらも穏やかな顔で本を楽しむ彼女の姿は僕の癒しだった。
程なく咳き込む事が減った僕は庭に出る事を許された。
レズモンド邸の庭に面する鉄柵近くを散策していると、柵越しに愛らしい声が聞こえてきた。
「あなた、うちの別宅で何をしているの?」
見ると真っ赤な瞳がこちらを見つめていた。
あの女の子だ!
浮き立つ気持ちを抑えながらもどう答えればいいのか分からずにいる僕に彼女は「あなた、我が家のお客様なのね」と微笑んだ。
その笑顔はとても愛らしく、柔らかく、心の奥をキュンと刺激した。
「わたくしはシャーリン・レズモンドよ。あなたは何と仰るの?」
「ぼ、僕は...ヒューゴ」
『王族は簡単に身分を明かしてはならない』
その言葉が僕の頭を過り、僕は咄嗟に去年から僕の学友として過ごす事が増えたヒューゴの名を名乗っていた。
「ヒューゴって言うのね!ヒューゴはここに何時までいるの?良ければわたくしと遊んで下さらない?わたくし、お友達がいなくて毎日退屈しているの」
瞳を輝かせてそう言うシャーリンに、僕は無言でただ頷いていた。
その後、父やレズモンド公爵からの許可を得て、僕は正々堂々とシャーリンと遊べる事になった。
正々堂々と言いながら名を偽っていたのだが、それでも僕は毎日が楽しく幸せだった。
シャーリンは好奇心旺盛で、少しばかりお転婆で、心根の優しい素敵な女の子だった。
シャーリンの事が好きだと自覚するのはそう時間を要さず、それは両親もレズモンド公爵も知る事となり、僕とシャーリンの婚約の話まで持ち上がったのだが、そんな時に隣国からの婚約の打診が来た。
隣国とは交易の問題があり、婚約を結ぶ事でその問題も平和的に解決する可能性が高い。
しかし隣国には少しばかりきな臭い部分もあり、父である王はその打診を曖昧な返事で濁しながら隣国を徹底的に調べさせた。
そんな中、シャーリンが命を狙われるようになった。
シャーリン本人はその事に気付いていなかったが、レズモンド邸には刺客が何人も送られ、別宅で療養中の僕の身も危険だと判断され王城に戻された。
刺客を捕獲し締め上げた結果、シャーリンが狙われた理由は僕だった。
僕が唯一気を許している女の子(婚約話が出ている事まで知られていた)であるシャーリンが目障りだと判断した隣国の第2王女の母である側妃が「シャーリンさえいなければ我が娘との婚約を結ぶだろう」との安易な考えから勝手に暴走していたのだ。
その事が結果的には我が国には好転的に転がった上で僕と第2王女の婚約は流れたのだが、僕は僕の恋の相手がシャーリンだと周囲に知られる事を恐れるようになった。
因みに側妃は病気療養という名目で監禁されて毒杯を賜ったと聞かされた。
何も知らなかった第2王女は処刑は免れたようだが、今後はきっと大変だろうと大人達が言っていた。
そんな時、父の弟である叔父が海外から戻って来た。
留学に出て10年も戻らなかった叔父は、父曰く「すっかりと人が変わってしまった」と言われる程に何とも軽薄な男性だった。
「女性を口説かないなんて失礼だ」というのが信条のようで、妙齢の女性には手当り次第声を掛けまくり、流れるように口説く。
相手からの本気の返事はあっさりと流し、誰にも本気にならずただその状況を楽しんでいる。
そんな叔父を好きにはなれなかったのだが、彼を見ていて僕は閃いたのだ。
彼を真似ればいいのではないか?と。
そうすれば僕がシャーリンに恋をしているなんて誰も思わなくなる。
軽い男だという不名誉は着る事になるが、そんなものはどうでもいい。
シャーリンが安全に過ごせる為ならばそんな事は些細な事だと思った。
今思うと当時の僕は本当に浅はかで考慮に欠けていて...ハッキリ言って馬鹿だったと後々後悔するのだが...。
それから僕は叔父がいる間は叔父に付いて歩き叔父の事を観察し、叔父の真似をし始めた。
女の子には優しく。
目につく容姿はとにかく褒める。
言葉は甘くスマートに。
最初は戸惑われたのだが、これが数年も続くと「王子はそういう人なのよ」という認識に変わっていった。
そうこうしているうちにヒューゴがニヤニヤしながら僕の前に現れた。
同じ歳なのに妙に大人びた雰囲気を纏うヒューゴは面白い物を見つけたような顔をしていた。
「ヘルドリアスはシャーリンって知ってる?」
この頃はまだ僕の事を呼び捨てしていたヒューゴに突然シャーリンの名を出されて僕は動揺したのだろう。
そんな僕を見てヒューゴはケラケラと笑った。
「父上に連れられてとあるお屋敷に行ったんだよ。そしたらさ、そのお屋敷の女の子が僕の名前を聞いて『あら?あなたもヒューゴ?』って言うんだ。ヒューゴなんて名前、そう沢山はいないから何だろうって思って聞き出してみたらビックリだよ、まさか僕の名前を騙る誰かさんの話が聞けるんだもん」
「そ、それは」
「ヘルドリアスは王族だもんね、本名なんて言えなかったんでしょ?そんな事は分かってるよ。でもさ、僕の名前を使うなら一言位あっても良かったんじゃないかな?違う?」
「ごめん...」
「だからね、僕、その子に言ったんだ。そのヒューゴも僕だよって。そしたらさ、その子目をまん丸くして『まぁ!ヒューゴは魔法使いだったのね!』って嬉しそうに笑うから、僕、おかしくって!それからその子の好きな魔法使いの絵本の話になって」
「ちょ!ちょっと待ってよ!何で『僕だ』なんて言ったんだよ!」
「え?だってそういう意図だったんでしょ?自分の事がバレたくないから僕の名前を使ったんでしょ?」
「違うよ!あの時は咄嗟に君の名を言っただけで、そんな事考えてもいなかったよ!それにシャーリンは僕の大切な女の子なんだよ!」
その言葉を聞いたヒューゴは顔を青くしながらも目を見開いていた。
「て、てっきり君があの子に付き纏われたりしないように僕の名前を使ったんだと思ったから、僕、しっかりとやったよ!って君に威張れると思ったのに!」
「...君も何で僕に聞かないんだよ」
「だって聞く時間なんてなかったし...僕の名前を使うなんて本名名乗りたくなかったんだろうなって思ったし...どうしよう、もうあの子、君の事僕だって信じちゃってるよ。あの子、何でも素直に信じるんだよ、キラキラした目で...馬鹿なのかな?とも思う位何でも信じちゃうんだ...」
「...もういいよ。ヒューゴも悪気があった訳じゃないんだし」
「...ごめん」
こうしてヒューゴは彼女の中で魔法使いとなり、ヒューゴとしての僕は本物のヒューゴへと掏り変わってしまった。
※全く擁護するつもりはありませんが、ヘルドリアスは幼さゆえの斜め上の暴走(お馬鹿さん)を拗らせ現在に至ります。
そして小さい頃のヒューゴは今よりもちょっと小生意気です。




