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茶会翌日、学園に行くと「お願いしますわね!」と無言の圧を発しながら目をキラキラさせるシャーリンが待ち受けていた(本人は偶然を装ってるつもり)。
シャーリンとはクラスが違うのでアリザとは接点がなさそうだけど大丈夫かな?と思いつつもアリザに声を掛けた。
アリザを別教室に呼び出しミューゼ様同伴で待っているとアリザがニコニコ顔でやって来た。
「お話とは何ですか?あ!それより聞いて下さい!フェリー様達をモデルに書いている小説が担当の人に絶賛されて書籍化しそうなんです!まだ話数が足りない上に完結もしていないのでそうなるのはもう少し先になりそうなんですが、もしそうなったらお礼に本を贈らせてください!」
「書籍化!?凄いじゃない!アリザ様はやはり才能があるのね!」
「モデルが良いんですよ!お2人を見ているとイメージが膨らんでどんどん創作意欲が駆り立てられるんです!」
実にキラキラした目で私達を見ているアリザ。
純粋過ぎる瞳が痛い。
「あ、それでね、アリザの事を紹介したい人がいるのだけど」
「私を、ですか?」
「えぇ。あなたの大ファンなのだそうで、是非紹介して欲しいと熱望されてしまったの。あ、アリザ様が作家さんだという事はまだ話していないわよ?まずはアリザ様の許可を得てからだと思って」
「私のファン、ですか?どのような方なのでしょう?」
「シャーリン・レズモンド様なのだけれど、ご存知?」
「シャーリン様?!え?!あのシャーリン様ですか?!」
あの、とは?あのシャーリン以外いる?
「殿下の婚約者である、あのシャーリン様よ」
「あのシャーリン様が?!嘘!え?え?」
何やらパニクり始めたアリザ様。
あわあわしている姿が前世で見たハムスターみたいで可愛らしい。
色味的にも髪が茶色で肌は色白のクリクリした黒目だからまさにハムスターカラー(ノーマルなゴールデンハムスターカラー)。
その上小柄だし...ハムスターにしか見えなくなりそうだ(失礼)。
「いいかしら?シャーリン様には是非とも紹介して欲しいと頼まれてしまったのだけど」
「は、はいっ!喜んで!」
頬を紅潮させて嬉しそうなハム...アリザ様が可愛らしい。
という事でアリザをシャーリンに紹介する事になり、またもや我が家で茶会が開催される事になった。
私は口添えだけで2人だけで会う方がいいかと思ったんだけど、アリザが「緊張するので一緒にいて下さい!」と言うし、シャーリンも「わたくし、興奮のあまりとんでもない事を口走るかもしれませんから、是非一緒に!」と言うもんだから私も同伴する事になり、私がいるのならば妊婦を連れ回すような事は駄目だと2人が判断したようで「迷惑じゃなければランベスト邸で...」と言われて我が家での茶会となった。
またシャーリンが来ると聞いたセナ様は「あの子がうちに来てから、レズモンド公のあの馬鹿みたいな牽制が減ったのよ!今後もバンバン呼んじゃっていいわよ」と嬉しそうにしていた。
またしてもクリス様が妊婦にも安心で美味しいお茶を何処からか手に入れてきてくださり、今回はランベスト家の料理人が「何処にも負けないお菓子を作りますから!」と懇願するのでお茶菓子をお任せして、前回と同じくティールームにお招きした。
夫婦別室であれば私の部屋に招くのだけど我が家はしっかり夫婦同室。
セナ様とクリス様も実は同室なのだそうだ。
「夫婦が別室にする必要ある?喧嘩した時は客室を使えばいいのだし、お互いに別々の部屋を持つとそれだけ夫婦仲が冷えちゃいそうじゃない?怪しい企みも出来ちゃいそうだし、不毛よね!」
というのがセナ様の考えだ。
という訳で今回もティールームを使用しての茶会。
今回も私はウキウキと用意をしたのだが、ミューゼ様が「やっぱり妬ける」と少し頬を膨らませて呟いていた。
何だろうか、この愛らし過ぎる生物は!
愛らしさの波に飲まれて溺れそうだ(どういう事かな?)。
シャーリンより先にやって来たアリザを別室で待機させて、遅れてやって来たシャーリンに勿体ぶって(サプライズ的に)紹介した。
「あ、あ、あ、貴方様が偉大なるあの、あの、ザリアーヌ様なのですね!!」
ザリアーヌ・テュポンというのがアリザのペンネームだ。
アリザの名を並べ替えた上でちょい足しし、担当者さんの姓を拝借して出来上がったペンネームらしい。
「まさか!まさか同じ学園にザリアーヌ様がいらっしゃるとは露知らず!お声掛けして下されば馳せ参じましたのに!」
シャーリン、興奮のあまり訳の分からない事を言っているぞ!
「偉大だなんてとんでもない。私が作者でガッカリしていませんか?」
「ガッカリだなんてとんでもありませんわ!あぁ、その小さな手であのような傑作を生み出されておられるのですね!素晴らしい!素晴らしいですわ!」
「は、はぁ、ありがとうこざいます」
シャーリンの興奮にタジタジのアリザ。
さながら焦るハムスターと大興奮する高貴な黒猫のようだ(その場合ハムスター非常に危険)。
それからシャーリンはアリザの作品が如何に素晴らしいかを力説し、アリザはそれを聞かされて終始恥ずかしそうに顔を真っ赤にしていた。
シャーリンの作品への愛が凄まじく、前世ならば絶対に仲間だろうなぁと感慨深くその様子を眺めていた。
「今はどのような物を書いていらっしゃるのかしら?あ、皆まで言わなくても構いませんのよ!ただ最近新刊が出ておりませんでしょう?なので書いていらっしゃるのか気になっておりまして」
「最近はフェリー様ご夫婦をモデルにした作品を書いています。多分ですが、もう少し先にはなりますが書籍化するかと」
「まぁ!まぁまぁ!フェリーをモデルにですか?!それはまた素晴らしい作品になりそうですわね!是非、発売される暁にはご一報くださいまし!必ず購入いたしますわ!」
「い、いえ、差し上げますよ?」
「へ?ひょわぁぁぁ!く、くださるのですか?!わたくしに?!」
「はい」
シャーリンの口から思いっきりおかしな声が出たけどアリザはそこを華麗にスルー。
「あの!あの!よろしければサイン等書いていただけたら、わたくしもう思い残す事はございませんわ!」
「サインですか?」
「はい!後ろの方にサラサラーっと書いていただけましたら、もうそれだけでわたくしは!」
「そういう事でしたら、はい、書きます、サイン」
「よろしければ「シャーリンへ」と書いていただけましたらこの上なき幸せ!」
「は、はい、分かりました」
推しに推し負ける作家さん、同人会場で見たなぁ。懐かしい...。
茶会はシャーリンが大興奮のうちに幕を下ろした。
「また是非ご一緒いたしましょう!」
「わ、私でよければ」
「勿論ですわ!わたくし達もうお友達ですわよね?ね?ね?」
「そ、そうですね」
という事で私に新しい友達が増えた。
推し推される間柄で友情は育めるのか?とちょっと疑問に思ったが、基本的にシャーリンは良い子だし、ちょっと推しが強いし圧が凄いけど、まぁ大丈夫だろう、多分。
2人が帰った後、ミューゼ様が甘えるように私にべったりだったのは...何時もの事、かな?




