23
もう少しだけ(今回まで)リリンsideにお付き合い下さいm(*_ _)m
リリンside
学園に行ったら教壇の前に私の教科書がボロボロにされて放り出されていた。
持ち帰る事が原則として決められているのに面倒臭がって持ち帰らなかった私も悪いが、こんな事をする相手も悪い。
このクラスでこんな事をするのは悪役令嬢のあいつしかいない。
「フェリー様がやったんだわ...」
集まって来たクラスメイト達にそう言ったが、皆「有り得ない!」って顔をしてた。
何騙されてんだよ、モブのくせして!
ミューゼ様達が入って来たのがチラッと見えた。
あいつの思い通りになんかさせてやらない!
「絶対にフェリー様よ!」
ボロボロの教科書を手にミューゼ様の方に向かうと、ミューゼ様はあろう事か悪役令嬢を守るように立ち塞がった。
「何用だ、転入生!」
ミューゼ様の凍り付きそうな声と視線に一瞬怯んでしまったが、これは断罪エンドの第一歩であるイベントだ。
ここから私の逆転劇が始まるんだ!
「フェリー様が...これを...」
ボロボロになった教科書をミューゼ様に見せると、ミューゼ様は眉間に皺を寄せて「お前はこれをフェリーがやったと言うのか?」と血の通わないような視線を投げて来た。
怯みそうになったけどやったのはフェリーに間違いない!
「...フェリー様以外に考えられません」
絶対的な確信を持ってそう言ったはずだったのにミューゼ様は馬鹿にしたように鼻で笑った。
「ふっ...馬鹿馬鹿しい。フェリーがお前如きを構う訳がない。ましてやこんな幼稚な真似をするはずがない」
そいつは悪役令嬢なんだから、そいつ以外有り得ないんだってば!何でそんなに騙されてんのよ、ミューゼ様!
「...フェリー様を信じたい気持ちは分かります...でも!」
なるべくしおらしく見えるようにしてるのに、ミューゼ様の視線は汚い物でも見るみたいに嫌悪感しか浮かんでいない。
「そもそもフェリーにお前の教科書をこんな風にする時間なんてない。四六時中俺と一緒にいるのに、どのタイミングでこんな事が出来るんだ?」
「それは、放課後とか...」
「それこそ有り得ん!フェリーは身重の体だ!必須教科の授業が終わり次第帰宅する、俺と共に。放課後まで残っている事はない!」
「でも!フェリー様しかこんな事」
何を言っても論破してくるミューゼ様にとにかく真実を見てもらいたかったのに上手くいかない。
「お前、フェリーの何を知っている?フェリーは女神の如く優しい女性だ、お前と違ってな。その教科書だって殿下達に近付くお前を良く思わない誰かの仕業だろう?」
「そんな...酷い...」
「現にお前はトイレで『生意気だ!』と言われていたではないか!それを助けたフェリーに楯突いていたのも知っている。しっかりと聞こえていたからな」
確かにあの時トイレの前でミューゼ様を見掛けたけど、あれが聞こえてたの?!
どんな耳してんの?!そんな設定あった?!
「あれは...そんなつもりじゃ...」
「どんなつもりでフェリーに罪を着せたいのかは知らんが、これ以上は容認出来ん!俺を、ランベスト家を敵に回す事の恐ろしさを思い知りたいか?!」
あ、これはマズイ!と思って「ご、ごめんなさい!私の勘違いみたいです!」って言ったのに、ミューゼ様は「次はないと言ったはずだ!この件でこれ以上騒ぎ立てるならその時は容赦しない」と氷の悪魔みたいな顔で睨んでいる。
「ごめんなさい...」
何で私がこんな目に?!
悪いの絶対的にフェリーじゃん!
教科書ボロボロにするとか悪役令嬢の常套手段じゃん!
だからわざわざ遠回り覚悟でフェリーの横を通り過ぎて「チッ!悪役令嬢の癖に」と小声で言ってやったのに、ミューゼ様はその声までしっかり聞き取って「おい!待て!」と背筋が凍りつきそうな冷たい声で私を呼び止めた。
本当にどうなってんの?!
「余程俺を怒らせたいようだな!」
怒らせたい訳ないじゃん!嫌われたくないもん!
だってミューゼ様は私の最推しだよ?!
そもそもフェリーの立ち位置って私の場所じゃん!
「ち、違います!私は何も」
「しっかりと聞こえている!フェリーを悪役令嬢と呼んだだろう!」
「だって、それは」本当に悪役令嬢だもん、そいつ!!
「フェリーの何処が悪役令嬢だと言うんだ?!フェリー以上に心も体も顔も、その存在全てが完璧で美しい女を俺は知らない!フェリーを悪役令嬢と呼ぶならばお前は極悪醜悪性悪令嬢だろう!」
ミューゼ様の言葉に呆然とした。
え?ミューゼ様って目が悪い?!
そいつの何処見て「心も体も顔も、その存在全てが完璧で美しい女」なんて言うの?!
どう見ても悪役令嬢じゃん!
無駄に彫り深い顔に目付きの悪さなんて「私、悪人です!」って言ってるようなもんじゃん!
で、私の何処が「極悪醜悪性悪令嬢」な訳?!
ヒロインだって!私、この世界の、誰からも愛されるヒロインだってば!
地獄耳なのに視力は弱い系なの?!
何でそこまで言われなきゃなんないのよ!
そう頭の中では叫んでるのに、言葉がなかなか出てこない。
やっと出てきた言葉は無駄に途切れ途切れで「...何でよ...何でヒロインの私がそんな事言われなきゃなんないのよ...ミューゼ様は私のものなのに...私のものなはずなのに...」って情けない感じだった。
「何時俺がお前のものになった?気色悪い!俺は婚約した時からフェリーだけのものだ!」
それを聞いたミューゼ様が嫌そうにそう言い切ると悪役令嬢に視線を向けて穏やかで優しい笑みを浮かべた。
そしたら教室から拍手まで沸き起こった。
信じられない!何なのよ!!
スッと近付いて来たミューゼ様が目に入り期待が顔を覗かせた。
体を少し屈めて私の耳の近くで「お前、精神科に行った方がいいぞ。相当狂っている」と冷たく言われた時は絶望しかなかった。
*
放課後、騒ぎを知った先生に呼び出された。
「嫌がらせを受けているようですが、大丈夫ですか?」
担任のチェルリー先生が分厚い眼鏡をクイクイと動かしながら聞いてきた。
大丈夫な訳ねぇじゃん!
「学園側としては嫌がらせの類は容認は出来ませんが、そうなるに至る原因を作っているのはあなただと認識しています」
「はぁ?!私、被害者ですよ?!」
「確かに被害者です。ですがある意味では加害者でもあります」
「私の何処が?!」
「...ハッキリと言わなければ理解しないようなので言いますが、あなたのヘルドリアス殿下らへの距離感は貴族として、淑女として相応しいものではありません。元平民であり、貴族社会にはまだ不慣れであるだろうから大目に見てやって欲しいと仰るヘルドリアス殿下からの要望もあり学園側としては見守って参りましたが、多くの生徒達からは苦情が上がっておりました。殿下達には正式に決められた婚約者がいらっしゃるのに、そんな事はお構いなしといった具合に体を寄せ、馴れ馴れしく接すれば面白くないと感じる者達は当然出て来ます。あなたは周囲に反感を買う行動を自ら行っているのです。...だからといってあなたが何をされてもいいとは思ってはいませんが、あなた自身も自分の行動に責任を持ち、自重しなさい」
「何で?おかしいじゃない!だって私、被害者だよ?何で私が怒られるの?」
「それだけ目に余る行動を取っているのです。こちらとしても今後このような嫌がらせが起こる事がないよう目を光らせますが、あなた自身も貴族として、また淑女として相応しい行動をお取りなさい」
「...信じられない」
「はぁ...これは一度あなたの保護者である子爵夫妻ともきちんとお話ししなければならないようですね」
「え?!子爵家は関係ないでしょ!」
「関係あります!あなたの行いは全てその家の行いと見なされるのです。あなたが何か過ちを犯せばその罪は親である子爵夫妻も等しく償わなければならないのです。あなたの評価はそのまま子爵家の評価へと繋がり、良い評価も悪い評価も等しく子爵家の評判となるのです」
「そんな...」
「あなたが今こうしてこの学園に通えているのも、また貴族令嬢として生活出来ているのも、あなたを引き取った子爵夫妻のおかげです。その恩を仇で返すような真似をしない事を努努忘れなきように」
チェルリー先生の言葉に私はただ呆然とするしかなかった。
☆補足情報
教科書ボロボロ事件ですが、クラスメイト達は「あーあ、だから言わんこっちゃない」的に思いはしましたが、誰もフェリーがやったとは思ってませんし、リリンが騒ぎ始めてすぐにミューゼ達が教室に来たので成り行きを見守っていました。
「ミューゼ様がいるからフェリー様は大丈夫よ」と皆思ってますし、ここで何か口を出せば下手をすればミューゼの逆鱗に触れる可能性もあり黙っていると言うのが正しいかもしれません。
因みにこの日は王太子と後の宰相は学園をお休み中です。
キリアンとマリオンはまだ教室に来てはいません。
フェリーはリリンの中では悪役令嬢ですが、クラスメイト達には好意的に見られています。
でもミューゼが常に張り付いている為怖くて話し掛けられない状態です。