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私とミューゼ様は10歳の時に互いの家(我が家は侯爵家、ミューゼ様は公爵家)の思惑が重なった結果婚約させられた。


初顔合わせの日は最悪で、ブスーッと不機嫌さを隠さない顔をして一言も話さないミューゼ様を見て「あー、この婚約ダメだわ」と思ったものだ。


その当時の私には前世の記憶はまだ戻っていなかったが、基本的な性格は前世の自分を引き継いでいたようで、ゲーム内の所謂悪役令嬢と言われるような傲慢さも、貴族特有の我儘さもない普通の、もう本当に普通の(前世的には)、だけど貴族としては実に貴族らしくはない女の子だった。


「仲良くしなさい」


そう言われたがミューゼ様は私を睨むように見てはいるものの話し掛けても無視するし、私は私でそんな人と一緒にいてもつまらなくて溜息しか出ないし、仕方がないから暇潰しの為に庭で見つけた小枝で地面に絵を描いて一人で遊んでいた。


犬や猫や鳥を鼻歌を歌いながら描いていたら地面にぬっと影が差した。


気にせず絵を描いていたら「...何を、描いているんだ?」と声がした。


「見て分からない?これが犬で、こっちは猫、そしてこれは鳥よ!」


「...下手過ぎないか?」


「...別にいいでしょ!楽しいんだから!」


「楽しい?」


「うん、楽しいわ!あなたとただ座ってるよりずっと」


前世の自分を引き摺っていたとはいえ一応は侯爵家の令嬢として生きていた訳で、前世の自分よりは強気だし口調もキツかった私はズバッとそんな事を言ってのけた。


「私の事が気に入らないのは仕方ないわ!私達はどうせ政略結婚の道具なんだし!でも、だからって最初から私を睨んでばかりで話し掛けても無視する相手と一緒にいたって楽しくないじゃない!だからあなたも勝手にすればいいんだわ!私も私で勝手に楽しく過ごすから!」


そう言うとミューゼ様は一瞬だけ目を見開いたのだがすぐに無表情になった。


「...別に睨んではいない」


「それで睨んでないなら相当目付きが鋭いのね」


「...無視もしていない」


「話し掛けても返事もしないのに?」


「...何を話せばいいのか分からないんだ」


「...あなた、不器用なの?」


「...分からない」


そんな会話をした後から私達はまぁ何となく仲良く?なり、ミューゼ様が実は絵がとても上手な事が判明して私がひたすらに褒めまくったらそれから毎年誕生日に私の肖像画を描いて贈ってくれるようになり、結構良好な関係を築いてきた。


元々遺伝子レベルで彼の外見は好みだったのか外見はどストライクだったし、ポツポツとだが話すようになると悪い人ではないんだと分かったし、何時からか彼をちゃんと好きにはなっていた。


彼の方の気持ちだけは全く分からなかったけど、肖像画を描いて贈ってくれる程には好かれているのだとは思っていた。


そして2ヶ月前、私達は一線を越えてしまった。


ミューゼ様の馬で遠乗りをした帰り道、突然の激しい雨に降られて雨宿りした小屋の中で、私達は一夜を共にしたのだ。


あの時のミューゼ様を思い出すと今でも胸がドキドキする。


暖炉の炎に照らされて何時もより何倍も色気を増したアイスブルーの髪。


何時もは冷たさが漂うブルーの瞳には明らかに欲情の色が見えた。


「好きだ...愛してる」


初めて言われたその言葉に私はすっかり舞い上がり、気付いたら彼に身を委ねていた。


「何があっても離さない...俺から離れて行くな」


何時も寡黙なミューゼ様から出てくる愛の言葉はとても甘く、私はその甘さに溺れるように浸ったのだ。


で、結果...妊娠してしまったという訳だ。


前世の記憶が戻る前の何とも幸せなあの時間が嘘のように今はもう「どうしよう!どうしたらいい?」でパニック状態なのだが、何があったのか問い詰められたら困るので取り敢えずの寝たふりをしている現在。


考えてみた所で単なる現実逃避なだけなのだが、将来捨てられる女であると分かった私は本当に今後どうすればいいのか分からず現実逃避位許してという気持ちだった。

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