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やって来ましたヘドリック領!
公爵家の領地に比べたらこぢんまりとしていて長閑なヘドリック領!
見渡す限り一面畑なヘドリック領!
見掛けた領民は皆麦わら帽子を被って畑仕事をしている農夫さん達オンリー。
長閑すぎる。
キリアンの家に到着すると子犬を彷彿とさせる駆け足で「ようこそいらっしゃいました!」と駆け寄って来たキリアン。
『まだ闇堕ちしてないから可愛いんだよねー、実は腹黒設定だけど』
「何もない所で驚いたでしょう?」
「来る時に見えたのは全部綿花の畑なのかしら?」
「そうです!見渡す限り綿花畑です!」
ヘドリック領は数代前の御先祖様が他の領地にはない物を!と綿花栽培を促進し、それが大当たりしてそこから領地で栽培する物は全て綿花にシフトチェンジさせたらしく、綿花以外は個人で食べる分の野菜等を栽培しているだけなのだそうだ。
綿花がまだ珍しかったうちはかなり儲けたそうだが、他の領地でも綿花は栽培され始め価格が安定すると赤字にはならないが大きな黒字にもならない収入しか得られなくなったらしい。
キリアンのお父さんは「時代は絹だ!」と綿花畑を潰して蚕の餌となる桑の木を植えようと考えたらしいのだが、桑の木も蚕もこの国原産ではないので入手するだけでも大変な上資金が相当必要だと知り断念したそうだ。
キリアンの血筋って猪突猛進型が多いのかな?
先代は斬新な改革をしようと突っ走り、数代前の御先祖様は領地の畑全部を綿花にしちゃう独走ぶりを発揮、キリアン父は綿花潰して桑の木植えちゃえ!と突っ走りそうになり資金面で断念。
何か極端過ぎません??
キリアンもそういう血を引いてるのかな?
だから闇堕ちして裏社会のボスに君臨して、ヒロインと瓜二つのヒロインの娘と年の差婚なんてとんでもない道を歩んだのか?!
思い込むと周り見えなくなるタイプなのは間違いなさそうだけど。
「綿花が見たいのでしたよね?」
キリアンに案内されたのは収穫された綿花が保管してある倉庫だった。
ズラリと並んだ倉庫の1つに案内されたのだが、そこには尋常ではない量の綿花があった。
「契約していた製糸工場が他の領地に引き抜かれてしまって...うちよりも破格の契約内容だったらしく...」
これだけ綿花を栽培してるのに何故に自領に糸工場ないの?!
普通作るでしょ、そういう工場とか!
自領で糸から布まで生産できるライン確保するもんじゃないわけ?!
「僕もあった方がいいと言ってきたんですけどね...何せうち、お金がなくて...」
キリアンの家の状況は私が思っている以上に窮困しているようだ。
糸を作る工場と契約出来ていないから綿花だけが余っていて、余剰在庫の山が出来上がっている。
これが売れなきゃ収入は赤字確定!
キリアン父よ!お前、経営下手だろ!下手すぎだろ!
でもまぁ、ワタが欲しい私からしたら思う存分ワタが使えるのだから有難いのだが(ちゃんとお金は支払いますよ、勿論!)。
ワタの話をした時ミューゼ様が「ワタ?腸の一種か?!」と微妙な顔をしたのには笑った。
本当に何でこの世界ってワタ使ってないんだろう?
羊毛や羽毛の方が管理は面倒だし、管理が杜撰だとダニが繁殖したりと大変なのに。
倉庫の一角にシート状になった綿花を見つけた。
「これ!これ欲しいです!」
綿花を工場に運ぶ際にはシート状にしてから運搬するらしいのだが、工場と契約出来ないからシート状に加工するのも途中でやめてしまったらしい。
「そんな物を何に使うんだ?」
ミューゼ様が興味深そうに見ている。
私は前もって用意していたクッションのカバーを取り出した。
勿論私の手縫いである。
この世界、手芸(主に刺繍)は淑女の嗜みであり出来て当たり前な事として小さい頃から手ほどきを受ける。
私は刺繍よりも裁縫の方が好きだったので少し嫌な顔をされながらもそっちのスキルも磨いて来た結果、簡単な服位ならば自分で縫える程になっている。
前世でも推しグッズをせっせと自作していた。
グッズ販売がなかったトゥーラバ。
でも推しグッズが欲しかった私は布用のアイロン転写シート等を活用してトートバッグやクッション、Tシャツ等の推しグッズをせっせと作っていたのだ。
勿論キーホルダー等も作っていた。
推し活グッズが充実していた100円均一ショップは切っても切り離せない場所となっていた。
自作して自分だけで楽しむ分には誰にも文句は言われないし、犯罪でもない。
流石に推しTを着て友達の家に遊びに行った時はドン引きされたが良い思い出だ。
話が逸れてしまった(ごめんなさい)。
綿花シートを折り畳みクッションカバーの中に押し込み、持ってきて来た簡易ソーイングセット(これも自作)を取り出してまだ縫い合わせていない部分をサクサクと縫い合わせた。
「ジャーン!クッションです!」
私の様子をポカンと見ていた3人は私の喜びの声でハッとしたようにこちらを見た。
「触ってみて下さい!感動しますよ!」
ふわふわモフモフのクッションは従来製品とは違って絶対に気持ちいい事間違いなしだ。
「軽いな...それに、何だ、この感触は?!」
「僕にも触らせてください!...うわっ!本当に軽い!そしてふわふわだ!」
「俺も触ってみたい...おぉ!凄いな!」
多分今の私、思いっ切りドヤ顔してると思う。
「フェリー様!この案、使わせて頂けないでしょうか?!これは売れます!加工の必要もほぼないので工場と契約する必要もありませんし、これならばこの余った綿花を捌く事が出来ると思うんです!」
「別に構わないけど」
「ありがとうございます!収益の何割かはお支払い致します!」
「い、いらないわよ!」
「いいえ!このアイデアは素晴らしい物です!そんなアイデアを使わせて頂くのです!タダと言う訳にはいきません!」
「もらっておけばいい」
「でも...」
「ワタ、と言ったか...これは簡単に真似されやすいから特許を申請するといいだろう。少なくとも10年は他家では真似出来んようになるからな」
「はい!」
という訳でワタはヘドリック領の特産品兼特許品として売り出される事になり、領地の女性達がせっせと作ったクッションが瞬く間にヒットした。
ワタを使用したい場合はヘドリック家から購入しなければいけないシステムになっているので綿花の時よりも高い価格設定にしても欲しがる人が後を絶たず嬉しい悲鳴を上げているそうだ。
ヘドリック領は比較的年中暖かいらしいので綿花の栽培方法も改善し、植える時期をずらしたりしながら年中収穫出来るように体制を整えているのだとキリアンが目をキラキラさせて話してくれた。
「あいつはフェリーに馴れ馴れし過ぎる!」
ミューゼ様がヤキモチを焼いているのが何とも可愛らしい。
ブックマーク登録が3000件を突破しておりましたΣ(゜艸゜〃)
ありがとうございます♪