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「すまない、フェリー。今日は学園に行けなくなった」


朝食を済ませ、クリス様に呼び止められたミューゼ様を置いて1人で部屋に戻っていたら、遅れて戻って来たミューゼ様にそう言われた。


「昨日、隣の領地で集中的な大雨が降ったらしい。治水事業が終わったばかりだから、川の状況を見てきて欲しいと頼まれてしまった」


私達が婚約するきっかけとなった川の氾濫による大規模な治水事業。


その川の氾濫の原因もお隣の領地で降った雨だった。


お隣の領地はどういう訳なのか前世でいう所のゲリラ豪雨が度々降り、偶にそれがシャレにならないレベルの雨量になるのだそうだ。


川はお隣の領地とも繋がっている為、お隣の領地よりも下流に位置するランベスト領はその被害を被りやすい立地にある。


実際私の父も協力した治水事業が完了するまでは何度か小規模の川の氾濫が起きていたらしいし、その度に治水事業は中断されていた。


5年を予定していた治水事業は8年弱掛かり漸く完了。


完了後初のゲリラ豪雨だった為、王城に登城予定のあるクリス様の代わりにミューゼ様が川の状況を確認しに行く事が決まったそうだ。


「ここ暫く大雨がなかったのだがな...」


「気を付けて行ってらっしゃいませね」


「行きたくない...フェリーを1人にするのは不安だ」


「私、子供ではないのですから、1人でも大丈夫ですよ」


「俺がいないとあの転入生がまたフェリーに何かするかもしれないだろう」


「大丈夫ですよ、きっと」


「いや、やはり駄目だ!護衛を頼もう!」


「護衛?!いりませんよ!」


「フェリーを他人に任せるのは不本意だが...背に腹はかえられん!」


「かえてください!いらないですから!」


「早馬で使いを出せば登校までに間に合う!大丈夫だ!任せておけ!」


「必要ないですってぇぇぇ!」


私の叫びなど聞かずに行動に移したミューゼ様。


過保護?!過保護なの?!


学園に行ってみると待っていたのはキリアンとマリオンだった。


馬車から降りようとする私に2人は手を差し伸べてきた。


2人の手を取り馬車を下りる私...。


何、この構図は?!


攻略対象者である2人にエスコートされる悪役令嬢っておかしくない?!


「本日はミューゼ様の代わりに精一杯お守り致します!」


子犬キャラ丸出し状態で明るくそう言うキリアン。


「頼まれたからには全力でお守りしよう!」


騎士然とした立ち姿でそう言うマリオン。


「い、いえ、大丈夫ですから...本当に大丈夫ですから」


断る一択しかないと断ってみたのだが、ミューゼ様が何とお願いしたのか知らないが、全く聞く耳を持たないお2人。


本当に何なの、この状況は!


階段に差し掛かると当然のように私をお姫様抱っこしようとしたマリオン。


「自分で上れます!」


「何かあっては申し訳が立たない!」


ここでも聞く耳を持たないマリオン。


結局押し負かされてお姫様抱っこされて階段を上る事になった。


階段の先にはリリンがいて、般若のような顔でこちらを見ていた。


キリアンがそれに気付いて「あいつ...本当に別人だな」と呟いていた。


教室に入ると私の右隣にキリアン、左隣にマリオンという両手に花状態になってしまった。


クラスでの席は基本自由で何処に座ってもいい事になっており、何時もはミューゼ様が決めた席に座っている。


今日は1人で後ろの方の席でのんびり座っていようかなと思っていたのに、今いるのは教室のど真ん中に位置する席。


皆の視線が痛い!痛すぎる!


「おはようございます、フェリー様。今日はランベスト様はいらっしゃらないのですか?」


「今日は急な視察が入ってしまって来ないのよ」


「で、お2人は、何を?」


挨拶に来てくれたアリザは私の隣に張り付いているキリアンとマリオンを見て不思議そうにそう言った。


「僕達、フェリー様の護衛を頼まれたんだ」


ワンコさながらに愛くるしい笑顔でキリアンがそう言うとマリオンが黙って頷いた。


「護衛ですか?」


「いらないからやめてって言ったんだけど...」


「愛、ですね!ランベスト様の愛!」


アリザがキラキラした目でそんな事を言っていた。


愛なのか?!単に心配性な過保護さんじゃないのか?!


休み時間、何時もならばミューゼ様と2人で会話したりしているのだが、本日はいない訳で...どうしようかなーと思っていたらキリアンが口を開いた。


「僕、リリンの事はもうキッパリと忘れる事にしました!」


「え?!」


「彼女はもう僕の知らない別人としか思えない。だからもういいんです!そんな事よりも今は我が家の窮状を何とかしたいと思っていて...」


あぁ、そうだよね、君んち大変だもんね。


「ヘドリック家といえば先代の失敗のせいで窮地に立っていると聞くが、本当なのか?」


「お恥ずかしい限りですが本当です」


「そうか...大変なのだな」


ヘドリック伯爵家はさほど大きくない領地を有しており、堅実に領地経営を行っていれば今のように窮地に立つ事はなかったのだが、他国で成功例のある斬新な改革(内容は知らない)で領地を繁栄させようと考えた先代伯爵は周囲の反対も聞かずにその改革案を強行し失敗して莫大な借金だけが残された(という設定だった)。


ヒロインと結ばれるとキリアンが張り切って見事復興させるというのは知っているが、どうやって復興させたのかは何処にも説明されていなかったから知らない。


知っていればお助けキャラみたいにさりげなくアドバイスしてあげる事も出来ただろうけど、知らないのだから何も出来ない。


「ヘドリック領と言えば綿花か」


「そうです、うちは綿花の栽培が盛んで...普通に領地を経営していれば黒字収益が見込めるのに、先代は何を考えていたのやら...」


「綿花って、ワタよね?」


「ワタ?何ですか、それ?」


そう言われて初めて気が付いた。


この世界にワタは何故かないのだ。


クッション等の中身は細かく裁断された布で、布団等は羽毛や羊毛が使われているのだが、何故かワタだけは存在していなかった。


綿花があるなら普通にワタとして使っても良さそうな物なのに。


何故今まで気付かなかったんだ、私!


クッションの何とも言えないゴワゴワ感とか違和感でしかなかったはずなのにワタの存在すっかり忘れていたよ!


「綿花を見てみたいですわ!」


ワタが手に入るかも!という邪な考えでそう言ったら二つ返事でOKをもらい、後日ヘドリック領に行く事が決まった。


ミューゼ様に事後承諾をもらったのだが、当然当日はミューゼ様も同伴し、何故かマリオンも着いて来た。

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執着心と独占欲の強い溺愛系ヒーローが、最愛の妻にベタベタ触ってお姫様抱っこまでするような常識知らずの男二人に護衛を頼むでしょうか? 頭のおかしい平民から守るにしても、安全な学園での付き添いなら女友達二…
[一言] 〉ワタとしてクッション材使用されてない綿花 幼馴染助けてやれよ、リリン(´;ω;`)ウッ… 物語上仕方ないのはわかっているが。 それ以上に不憫なのが現行リリンを見てると「助ける」とかの発想が…
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