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ミヤ様にやれと言われた体操。
体操と言っても前世のストレッチみたいなものである。
この世界、妊娠すると「運動するな!動くな!」というのが基本的な考えなのだが、ミヤ様は「妊娠は病気ではない!適度に運動しない方が体に悪いわ!」と妊婦にも適度な運動は必要だと考える先進的な人である。
ミヤ様がやれと言った体操はミヤ様考案らしく、斬新な(棒人間的な)図解付きで説明書きを頂いている。
「これは...人なのか?!」
その説明書きを見たミューゼ様は私の絵を初めて見た時と同じような反応をしていた。
安定期に入るまでは血の巡りを良くして浮腫等を軽減する足の体操が主で、安定期に入ったら少しずつ腰や首の体操も始めるといいらしい。
という訳でベッドの上で体操を始めたのだが、何故か後ろにミューゼ様がいる。
ベッドの上に座っているのに、その私をバックハグする形でミューゼ様がしっかりと抱き締めている。
何故?!
「気にするな。始めていいぞ」
いやいやいやいや!気にするなって無理!気になり過ぎて意識全部持ってかれるから!
そうして始めた体操だが全く集中出来なかった。
ストレッチ如きで集中する必要もないのだが、10分程度のストレッチの後半は自分が何していたのかすら記憶にない。
だってミューゼ様ったら段々と耳や首筋にキスし始めるんだもん!
「ひゃん!」と変な声が出たらそれはそれは嬉しそうに「良い声だ」って言って更にキスを増やすもんだから記憶も飛ぶってもんだ。
「フェリー。フェリーは男の子と女の子、どっちだったら嬉しいんだ?」
「私はどちらでも。ミューゼ様に似た子だったら嬉しいです」
「俺に似た子?!却下だな。フェリーに似た愛らしい子がいい」
話していて時々思うのだが、ミューゼ様は自分の容姿を好きではないようだ。
前に少しだけ聞いた事があるのだが、小さい頃に美し過ぎる容姿のせいで誘拐されかけたり色々あったそうで、設定には書いていなかったから凄く驚いた。
ミューゼ様の性格は公爵になる為の厳しすぎる勉強のせいだと思っていたし、設定でもそうなっていたのだが、本当は違っていて、幼少期にそんな事が起きたらそりゃ表情も消えるだろうなぁとまだ出会っていない幼い頃のミューゼ様を思って胸が痛くなった。
「ミューゼ様に似ている子供、絶対可愛いと思います。小さい頃のミューゼ様も可愛かったし」
「可愛かった?あんな笑いもしない子供だったのに?」
「そりゃ、最初は睨んで来るし無視するしで最悪だと思ってましたけど、本当は不器用なんだなって分かったら可愛いと思えるようになりましたよ?」
「...フェリーは俺の容姿だけを見る女達とは違ったな、最初から」
ミューゼ様が私の髪を優しく撫でている。
その触り方が本当に優しくて眠くなりそうである。
容姿での苦労は精々第一印象がめちゃくちゃ悪い位しかない私にはミューゼ様の美し過ぎるが故の弊害は想像する事しか出来ない。
ミューゼ様の頭を撫でると、ミューゼ様は気持ち良さそうに目を細めた。
「俺はフェリーに似たルビーのような髪に優しい瞳の子がいいな」
私の目を「優しい瞳」と言うのは家族以外ではミューゼ様だけだ。
大きいが吊り上がった、良く言えば猫目、悪く言えば睨み付けるような目の何を見て優しそうな目に見えるのか謎だがとても嬉しかったりする。
「アイスブルーの髪の青い目の子も絶対可愛いですよ」
「顔立ちがフェリーに似てくれれば、髪や目の色は俺のを受け継いでくれても構わない」
「そんなに嫌ですか?ミューゼ様に似た子」
「...嫌ではない。だが、俺と同じような経験をするかもしれないと思うと...気の毒だ」
この人は『氷の貴公子』なんて言われて、表情も乏しく、また冷たい物言いをするので誤解されやすいが基本的に優しいのだ。
私なんかよりずっと優しくて大きい。
「心配性なお父さんですね」
お腹に手を当ててそう言うと、ミューゼ様は少しだけ驚いた顔をした後「お父さんか...良いな」と照れ臭そうに笑った。
「俺は良い父親になれるだろうか?」
「なれますよ。ミューゼ様は優しいから」
「俺を優しいだなんて言うのはフェリーだけだ」
「ふふふ、そうなんですか?じゃあ皆さんは損されてるんですね。こんなに優しいミューゼ様を知らないんだから」
「こんな俺を知るのはフェリーだけでいい」
優しくて甘い時間が流れて行った。
書き始めて10日。
日間ランキング異世界/転生の恋愛部門にこの所毎日上位ランクインしており驚きと共に感謝でいっぱいです。
そして有難い事に週間ランキングにも月間ランキングにも20位圏内にランクインしておりましたΣ( Д )ﻌﻌﻌﻌ⊙ ⊙
もう何が起きてるのやら...((ヽ(゜ω゜;;;)ノノ))
何時もありがとうございます(* . .)))