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後半少しだけ視点が変わります。
※凡ミスしてました:( ;´꒳`;):
先輩表記を修正します。
キリアンがリリンと距離を取り始めたようだ。
何時も何かと付いて回っていたキリアンがリリンとは別行動する姿を見掛けるようになったのだ。
それに伴い何故か私がリリンに物凄く睨まれているのだが、直接何か言ってきたり行動してきたりしないので放置している。
でも今、私は放置していいのかどうか迷う局面に立たされている。
トイレ(個室)に入ったら外(トイレ内ではある)から女子達の声が聞こえて来て、何やら不穏な空気が漂い始めたのだが、「ふん!どうせ私に嫉妬してるんでしょ!」と虚勢混じりの声で言い返した声がどう考えてもリリンの声で...。
「相手にされてもいないのに生意気なのよ!」
「元平民の孤児の癖に殿下に色目を使うなんて何様なの?!」
女子達は段々とヒートアップして来ているようで声がどんどんと大きくなって来ている。
トイレも済んだし、本当は出て行きたいんだけど、水を流すのすらも躊躇うこの状況(いや、流せよ!汚いよ!)。
その時ビタン!と不穏過ぎる音がした。
「あんたなんか汚い床に這い蹲る姿がお似合いなのよ!」
え?!これってヤバくない?!
そう思ったら体が勝手に動いていた。
流す物も流さず(流せ!)ドアを開けると、トイレの床にしゃがみ込んだリリンを取り囲む女子達の姿があった。
「何をなさっていらっしゃるのですか?」
この時ばかりは自分の悪役令嬢顔に感謝した。
蔑むような視線で小さく笑っただけで勝手に怯えてくれる女子達。
顔だけで怯えてくれるって中々ない。
「こ、この子が勝手に転んだのよ!」
「まぁ!...ですが先程「汚い床に這い蹲る姿がお似合いなのよ」と聞こえましたけど?」
チラリと視線を動かすと、私と目が合った女子が「ひぃっ!」と小さな悲鳴を上げた。
「わ、私達は、学園内の秩序も守れないこの子に注意をしていただけですわ!」
「集団で取り囲んで罵声を浴びせる事が注意になるのですね。勉強になりますわ」
「わ、私達は別に罵声なんて...ねぇ?」
「そ、そうですわ、罵声なんて...」
「あら?では私の聞き間違いですわね。失礼致しました」
「あ、私、先生に呼ばれていましたわ!」
「そ、そうね!早く行きましょう!」
女子達はそそくさと退散してくれた。
『良かったー!勝手に怖がって逃げてくれて本当に良かったー!』と内心で安堵しまくりの私。
「何であんたが私を助けるのよ!」
女子達がいなくなったらリリンがそう言ってこちらを睨んで来た。
「取り敢えずお立ちになったら?そこに座っていると冷えますし、汚いと思いますわよ?」
「ふんっ!言われなくても立つわよ!」
立ち上がったリリンは一層目に力を込めて睨んでいる。
ヒロインの愛らしさ何処行った?!って顔で。
「助けてもらったなんて思わないから!」
そう言うとその場を去ろうとしたのだが、出て行く直前に振り返ると「ちゃんと流しなさいよね!汚い!」と言われてしまった。
ご尤もです!
その後トイレの水を流したのは言うまでもない。
この度もトイレの前で待っていたミューゼ様。
トイレ内の声は漏れていたようで「フェリーは優し過ぎだ」とまた言われてしまったのだが、優しかったらもっと早くに助けに入っていただろう。
そして「ちゃんと流したか?」と聞かれた。
そこは、そこだけは聞き流してて欲しかった!
*
帰宅すると家にお医者様がいらしていた。
すっかり忘れていたのだが、今日は定期検診の日だった。
ランベルト家のお抱え医師であるミヤ様はこの世界では珍しい女医さんである。
お年は50代半ば位で、見た目はおっとりした感じなのに結構毒舌で、ズバズバと物を言う方である。
問診の後にお腹を触診され、前世で知っている物よりも大きくて聞き辛そうな先端に小さいラッパみたいな物が付いた聴診器で私の心音と胎児の心音を聞かれ、「順調だね!」と言われたのだが、上げて落とすのが大得意なミヤ先生はその後食事面や生活面でのダメ出しをしてきて私の精神をじんわりと抉ってくれた。
「悪阻が極端に酷いって訳でもないのに偏った食事ばかりするなんて馬鹿なのか?!お腹の子に栄養を供給する為にも好き嫌いせずにきちんと食え!それが母親としての仕事だろう!」
「はい、すみません...」
「やれと言っていた体操はやっているのか?」
「...すみません」
「まさかとは思うが、まだやってないだろうね?」
「や?!」
「我慢している!」
「よろしい!安定期は目前だ。それまではしっかり我慢するんだね」
すかさず「我慢している!」と会話に入ってきたミューゼ様。
定期検診にもしっかり同伴である。
その後「ミヤと少々話がある」とミューゼ様は私を部屋から追い出し何やらミヤ様と話を始めた。
何の話をしているのか多分予想はつくが考えないようにした。
*
「安定期に入ったら我慢する必要はないんだな?」
「まぁな。だが、だからって抱き潰すような真似は容認出来んがな」
「分かっている」
「激し過ぎるのも駄目だぞ!子宮に負担をかけると子が流れかねんからな」
「了解した」
「ミューゼは我慢がきくタイプだと思っていたのだが、相手がフェリーだと話が変わってくるようだからな。愛しい妻を壊したくなければ精々自重するんだな」
「ふっ...愛しい妻か。違いない」
「...お前もそんな顔が出来るのだな」
愛しい妻と言われて蕩けるような笑みを浮かべたミューゼをミヤは面白い物を見るような目で見て笑った。
ミューゼを幼い頃から知っているミヤ。
ミューゼが笑うのはフェリーに関する時だけだという事もよく分かっていたのだが、ここまでの笑みを浮かべるミューゼを見たのは初めてだった。
「幸せそうで何よりだ」
「幸せ過ぎて時々夢ではないかと思う程だ」
「まさかお前の口から惚気を聞く日が来るとはな」
人は変われば変わるもんだと思いつつ、クリスとセナの事も知っているので『あぁ、そういう所も遺伝するのだな』と、目の前の不器用で実は愛したがり屋の青年を微笑ましい気持ちで眺めていた。
ご指摘があったので補足情報を。
ミューゼはトイレの前で待っていますが、紳士ではあるので出入口に背を向けて立っています。
なので出入りする人を見ていませんし、見ないようにしています。
でも聞こえてくる声はちゃんと拾っています。
フェリーの足音は判別出来るので出てくるとすぐに分かります。