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白の女王(クィーン)  作者: 日向 翠
1/1

初めの物語シリーズ

 雲のない満月の夜。月は鏡のように銀色に輝いていたが、何も映してはいなかった。‎

海辺のさざ波が聞こえる。フードを被った四人の人影が佇んでいる。フードを被って赤子を腕に抱いているのは、この国の王だ。隣に寄り添うように立っているのが王妃。‎そしてあとの二人は乳母と、年老いた宰相。四人の前には木製の小舟が綱に繋がれて揺れている。‎

王妃は青ざめた目で自分の夫である国王を見上げた。目は涙が溢れている。‎

‎「どうしても、手放さなければならないのですか?」‎

彼女は今にも倒れそうな様子で国王から彼の腕に抱かれている赤子に目を移した。‎

上質の布にくるまった赤子の皮膚は、病におかされた、醜悪なまだら色が身体一面を覆っている。赤子は皮膚病だった。しかも王家の者がかかる、特別な皮膚病が現れている。‎

‎「この子は呪われてます。これはブルクミラン国の古からのしきたりです、王妃様。」‎

やはり涙を浮かべた宰相が、じっと王妃の顔を見ながら言った。‎

‎「名前もない我が子よ!あなたを生んだ私を許して…!」‎

王妃は赤子の生えかけた髪に手を伸ばした。‎

‎「そなたの業ではない。ブルクミランに生まれたこの子の運命だ。」‎

国王はそう言うと、腕の赤子を小舟の上にそっと置いた。赤子は口に指を入れてじっと両親の姿を見つめている。‎

王妃はしばらく赤子を見つめて泣いていた。‎


満月の前にうっすらと雲がかかると、宰相は小舟を結んでいる綱をほどいた。‎

王妃が悲鳴にならない泣き声を上げた。‎


小舟はゆっくりと、さざ波の上に浮かんだ。そしてゆっくりゆっくりと陸から離れて行った。やがて夜の海に見えなくなった。‎

無言で小舟を引き戻そうとする王妃を、国王はしっかりと抱きとめていた。赤子は不思議に泣き声を上げなかった。乳母が地面に泣き崩れるように座り込んだ。‎


ブルクミラン国では百年に一度、恐ろしい皮膚病を持った子どもが生まれることがあった。その子は通常では考えられない魔法の力を持っていた。皮膚病はその力を宿した者の印なのだ。そうして生まれた子どもは密かに海に流されるしきたりになっていた。二度と陸には戻れないように。たとえ魔法の力を持っていようと赤子は小舟で生きることはできないだろう。‎


これは百年前のブルクミラン国の、 ある一夜の光景だ。その後皮膚病を持った子どもが同じようにしきたりにならって海へ流されたという記述はない。‎



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