3 先輩、お昼を一緒に食べませんか?(1)
「それじゃあ今日はここまで、次は小テストやるからちゃんと勉強しとけよー」
何度も睡魔に負けそうになりながらもなんとか午前最後の授業を耐え抜いた俺は、教師がそう言い残して教室から出ていったのを確認すると、前のめりになっていた体をゆっくりと元に戻す。
入学して一年が経った今、授業を受ける態度に入学した頃の緊張感や集中力は無く、昼前の四限ともなると大半の生徒は睡魔に負けて机にお倒れになる。
座りっぱなしで固まってしまった体をほぐしていると、視界の端からスっと腕伸びてきて、俺の机の上に何かが置かれた。
確認すると、それさ大きめの弁当箱のようだ。それを見て相手が誰かを理解した俺は顔を上げると、そこには爽やかな笑みを浮かべた体つきのいい好青年が立っていた。
「なんか眠そうだな、大丈夫か?」
そう言いながら、前の席から椅子を借りて俺と向かい合うように座った彼は高木翔也。一年の頃から付き合いのある、俺の数少ない友人だ。
高身長でイケメンの上運動もできる彼は、一年生の時点で既にサッカー部でスタメンの座を勝ち取っており、なぜ俺なんかとつるんでいるのか疑問に思うほど眩しい人間だ。
本人曰く、俺は「話してて楽しいし、何より楽」らしいが、俺と話してて何が楽しいのか俺自身はよく分からないので、謎は深まるばかりである。まあ彼が楽しいと思っているのならいいのだが。
「昼前に眠くならない方がおかしいだろ。そっちこそ、今日は大丈夫なのか?」
俺が一言尋ねると、彼は少し困った表情を浮かべながら「今日は大丈夫みたいだ」と頬をかく。
俺の言う『大丈夫』というのは眠気のことではなく、女生徒からの告白のことだ。全体的に高スペックな翔也はそれが宿命と言うべきか、女生徒からよくモテる。
本人は部活で忙しいからと告白を全て断っているようだが、『部活に全力な高木君かっこいい…』と、その人気は上がるばかりで、彼は今でも頻繁に昼休みに呼び出しをくらっている。
「しかし贅沢な悩みだよな。モテすぎで困るなんて」
「本当にいいもんではないからな?裕斗が俺の立場になったら同じことを言うと思うぞ」
「そんなありえない仮定はするだけ無駄だよ」
全体的にに比べで俺は、顔は普通で身長も平均、愛想は悪いし運動は良いとこ中の上。モテる要素が無さすぎて言ってて悲しくなってきた…。
「裕斗だって普通に顔はかっこいいし、もうちょっと愛想良くすりゃあモテると思うんだけどな…」
「イケメンに言われても嫌味にしか聞こえないな」
「いや本当だって。この前だって冴島のこと好きっぽい女子がいたぞ」
「まじか詳しく」
そんな物好きがいたのか。思わぬ朗報に俺は身を乗り出して詳細を催促をする。
「上履きのラインが緑色だったし多分一年生だと思う。冴島のこと優しいしかっこいいって一緒にいた友達に熱弁してたな」
「そんなことが……」
俺の通う白崎高校は一年が緑、二年が青、三年が赤と学年ごとに上履きに入っているラインの色が異なるため、彼の言う女子生徒が後輩というのは間違いないだろう。
しかし俺の事を優しくてかっこいいと言う後輩か、身に覚えがあるような気もするが、気のせいだろうか?
「あ、多分あの子だったと思う」
彼が指の指す方へ視線を向けると、そこには見覚えのある少女の姿があった。
「せんぱーい!一緒にお昼食べましょー!」
……まあなんとなくそんな気はしていた。
翔也の方をチラりと見ると、彼はあからさまに顔を逸らす。
「お前、それがあいつだって分かっててわざと名前を言わなかったな」
「さぁ?でも嘘は言ってないだろ」
確かに嘘は言っていないが…何故だろう、釈然としない。
「それより、あのまま放置してたら可哀想だぞ」
「……はぁ」
仕方なく彼女を手招きすると、彼女は嬉しそうに小さくガッツポーズをして教室に入ってきた。




