10 先輩、私と勝負しませんか?(1)
お久しぶりです。なつめぐぷです。
前回の投稿から一か月以上経ってしまい本当に申し訳ありません!
色々と用事があったり、コロナに感染したりと小説を書く時間が取れずこんなことに…。
今は無事完全復活を果たしたので、今後ともなつめぐぷをよろしくお願いします!
「なぁ、ここはどうやってxを求めるんだ?」
「そこは先にyを求めてからそれを代入すれば」
「なるほど、そうやればいいのか!」
五月の半、二年に進級して初めてのテストを一週間後に控えた俺たちは、昼休みの弁当を食べ終わった後の時間にテスト勉強をしていた。
まぁ俺は翔也に頼まれて勉強を教えてるだけで、実際に勉強をしているのは翔也だけなのだが。
「やっぱ裕斗は教えるのうまいよな。教師とか目指したらどうだ?」
俺の手伝いを受けながらも問題を解き終えた翔也は、そんな軽口を叩きながらグッと体を伸ばす。
「まだ一問解いただけだろ。はやく次の問題に取り掛かれ」
「厳しいな!飴はないのか!」
「別に優しくしてもいいけど、それで困るのはお前の方だぞ」
「うっ、その通りだから何も言えねぇ…」
部活一筋の翔也は家に帰ってからも筋トレなどをしていて全く勉強をしていないらしく、俺は一年のころからテスト前になるといつも「赤点を取りそうでヤバい」と泣きつかれていた。
最初は何度も頼んでくる翔也に根負けして嫌々教えていたのだが、授業の復習にもなるし、飲み物やアイスといった見返りもあるので、最近はこれも悪くないかなと思い始めている。
「先輩方こんにちはー…ってあれ、昼休みに勉強なんて珍しいですね。どうしたんですか?」
不服そうにしながらも再度問題を解き始めた翔也の様子を見ていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
振り返ると、不思議そうにこちらの様子を伺う美浜の姿があった。今日は来ないのかと思っていたが、その手に弁当の姿がないのを見るに、どうやらどこかで弁当を食べてから来たらしい。
「翔也のやつが今度のテストで赤点取りそうでヤバいって言うから勉強教えてるんだよ」
「へぇ。先輩、この前私が頼んだ時は渋ったくせに翔也さんには普通に教えてるんですね」
状況を説明すると、彼女はそう言って拗ねたように口を尖らせる。
「勉強のできる誰かさんと違って翔也は本当に困ってるからな」
「うぅ…世の中は不平等なことばかりです…」
彼女が悔しそうにこぶしを握りしめる様子を見て、クラスメイトの何人かから俺を責めるような視線を向けられたが、この件に関しては俺に一切非はないので勘弁してほしい。
「ちなみにテストが終わるまで昼休みは翔也に勉強教えなきゃいけないから、来てもかまってやれないからな」
「そんな!それじゃあその間私はどうやって昼休みを過ごせば良いんですか!」
「普通に他の友達と過ごせば良いんじゃないか…?」
普段は俺たちといるから遠慮しているだけで、彼女と昼休みを共にしたいと考えている生徒は多いはずだ。実際に今までも何度か彼女が昼休みに誘われているのを目にしたことがある。
その度に彼女は「先輩と過ごすので」と断っていたが、全く俺なんかのどこがいいのだろうか。理解に苦しむばかりだ。
興奮気味に顔を近づけてくる彼女を剥がしながらそんなことを考えていると、今まで静かだった翔也が勢いよく席から立ち上がった。
「集中切れたからちょっと休憩!ちょっと飲み物買ってくるわ。裕斗と夕夏ちゃんの分も買ってくるけどなにかリクエストある?」
「あ、じゃあ私紅茶お願いします!」
「おっけー。裕斗は?」
「あー、俺はいいや」
「あいよー。じゃあ行ってくるわ」
そう言うと、翔也は鞄から財布を取り出して足早に教室から去っていった。
教室から出る直前美浜に向けてサムズアップをしたように見えたが、まさかあいつ、飲み物は建前で本当は俺と話したがってる美浜に気を使って席を外したんじゃないだろうな…。
もしそうだとしたら、明日からスパルタで勉強を教えることになるが…後で問い詰めてみるか。
「ねぇ先輩。ちょっといいですか?」
翔也がいなくなると、美浜は先程まで翔也が座っていた席に腰を下ろし、覗き込むように俺の顔を見つめてきた。
「どうした?」
「先輩さっき、翔也さんに勉強教えるからかまえないって言いましたよね?」
「まぁ言ったな」
「ということは、翔也さんのいない今ならかまってくれるってことですよね?」
「…まぁ確かにさっきの言い方だとそうなるな」
「つまり翔也さんがずっと休憩してればずっと私にかまってもらえる…?」
「おい変な事考えるな。翔也の成績を落とす気か」
こいつ、勉強はできるくせに考えることが本当に…。翔也に変な事を吹き込まないか心配で仕方ない。
「それが嫌なら先輩。翔也さんが戻ってくるまでの間だけでいいので、私に沢山かまってください!」
「それでいいのかお前は…」
まぁ翔也が戻ってくるまでそう長くはかからないだろうし、その間彼女にかまうだけで翔也の成績が守られると思えば安いものか…。
「…はぁ、翔也が帰ってくるまでだからな」
「やった!」
彼女はぱっと顔を輝かせると、胸の前で小さくガッツポーズをした。
「こういうところで断れないからダメなんだろうな…」
彼女に聞こえないようにそう小さくつぶやくと、俺はもう一度ため息をついた。
今回も(1)と(2)に分けての投稿となります!(2)はもうしばらくお待ちください!