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「アリサ!やっちゃって!!」
「よしきた!!」
マーサの掛け声に応えて私は魔法で身体能力を強化しワイバーンに槍を振り下ろした。見事ワイバーンの頭に槍がクリティカルヒット!ワイバーンは頭から血を噴き出し地面に倒れ伏す。
「討伐完了!」
私はガッツポーズをした。
どうも、ヘレン改めアリサです。ざまぁヒロインとしての記憶を取り戻して三年、前世の名前に変えて今は隣国で冒険者やってます。
初めは戦闘なんてやったことないし女の子で聖属性なんだから教会か治癒院で働くよう打診されたけど性格に合わなさすぎるので初級冒険者からコツコツと努力して治療係兼、槍使いになってる。聖属性魔法の応用、強化のおかげで男並みの力も出せるようになったしね。
「アリサと一緒だと楽できていいわ~」
そう言ってワイバーンを一緒に解体するのは同じく女冒険者のマーサだ。彼女は剣使い。アタッカーなので私の強化魔法と相性抜群、よく同じ任務を受けている。
「そういえばレオンからアリサを誘って欲しいって言われたんだけど興味ある?」
「黒魔道士の?あそこのパーティ男しかいないからNG!」
「だよね~」
私の顔がヒロインだからかよく男のパーティから誘われる。一回スケットとして別パーティに参加したことがあるけどそこのリーダーが私に一目惚れして同じパーティの恋人を振って修羅場になったから男の人とは同じクエストは受けないようにしてる。
「それじゃ、また一緒に受けたらよろしね!」
「うん!こちらこそ」
そう言ってマーサとは別れた。
ワイバーンを換金しようと帰っていたら異様な魔力を探知した。
「…なにこれ」
明らかに普段の魔物とは魔力量が違う。これは…。
「ドラゴン!」
急いで魔力の元へと身体強化して走る。道がひらけた。草原には何十mはあるかと思われる血のように毒々しいドラゴンがいた。
「やばい!」
ドラゴンの下には男の人が倒れている。血を流しているが指先が少し動いた。
…生きている!
ドラゴンも気づいたのかその鉤爪で男を切り裂こうと構えた。
「こっちだこのやろおおお!!」
ありったけの魔力をこめて槍を振りかぶって投げた。
命中!!
槍は見事ドラゴンの目に刺さりドラゴンはこちらを睨みつける。
「そのままこっちを見てろ!!」
ドラゴンに向かって走り出す。
私に向かってきた鉤爪をイナバウアーの要領で避ける。身体強化しても当たったらひとたまりもない。
素早く鉤爪を避けながらドラゴンの目に刺さった槍を取りに行く。武器はあれ一つだ。あれが取れなきゃ倒せない。
ドラゴンは雄叫びをあげる。
私が鉤爪を避け続けるからイラついているのだ。
ドラゴンはちょこまかと動く虫を排除するために魔力を口に集中させた。
ブレスだ。
ドラゴンは炎のブレスで私ごとこの辺一帯を燃やすことにしたようだ。
#この時を待っていた!__・__#
私はドラゴンがブレスを打とうとした一瞬の隙を突いてドラゴンの目から槍を勢いよく引き抜いた。
絶叫するドラゴン。
そのまま槍を強化し、ドラゴンの硬い皮膚を貫く。
「ーーーーーっ!」
ドラゴンは声にならない悲鳴をあげて地響きを鳴らすように倒れ伏した。
「あ、やべ」
男の人のこと忘れてた。潰されてないよね?
男の人はちょっと下敷きになってたけど治癒魔法で全部の傷を治したので無罪として欲しい。
傷を治した男の人は金髪でよく見るとかなり良い服を着ていてなんというか、貴族っぽい。そしてイケメンである。
…面倒ごとの気配がする。
それでも放置はまずいので目が覚めるまでは気長にドラゴンの解体をすることにした。単独でドラゴンを倒すのは割とすごいことなので冒険者ランクを上げて貰えるかもしれないと鼻歌だ。
ドラゴンの解体を殆ど終える頃に推定貴族様?は目を覚ました。
「ここは…」
「あ、起きました?」
「!?」
貴族様は青い綺麗な目をしている。何というか王太子を思い出す。元気にしているんだろうか。
貴族様は私を見て驚いた顔をしていた。
「君は…」
「私は冒険者です。通りがかりに貴方が襲われてそうだったので助けました」
「そうだ!私はドラゴンに…えっ!?」
そこで貴族様は私の後ろにある解体されたドラゴンを見つけたらしい。
「ドラゴンを、君一人で…!?」
「運が良かったんです」
「それでもすごいことだ!…君は僕の命の恩人なんだね…」
そう言って貴族様は微笑んだ。うん。イケメン。
「君にお礼したい。もし良かったら我が屋敷に…」
「いや、大丈夫です。どうしてもって言うなら冒険者銀行に振り込みお願いします」
「えっ」
貴族様はポカンとされた。断られるとは思わなかったんだろう。
「それでは麓の街まではお送りしますね」
「あ、ありがとう」
麓の街にたどり着いた。ここに貴族様のお屋敷があるらしい。お屋敷までお送りすると貴族様が表情を曇らせた。
「最後に、君の名前を教えてくれるか」
「アリサです」
「ありがとう。アリサ。この恩は忘れないよ」
「いえいえ、それでは」
そう言って私は貴族様と別れた。そういえば名前聞くの忘れた。屋敷がかなり立派だったので上位貴族とかだったらどうしようと今更冷たい汗が流れた。
だけどもう別れたのでノーカンだ。さぁ!ドラゴンを換金しに行こう!
「…君を逃さないよ。アリサ」
ドラゴンを換金して焼肉を食べることしか考えていなかった私には貴族様が妖しく呟いたのを普通にスルーしていた。