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急に全く恋愛しないヒロイン書きたくなったので書きます。
自分で幸せになるヒロインが好き。
おいおいおい、折角転生したのにざまぁヒロインとか聞いてねぇしこのタイミングで記憶取り戻すのかよ。下卑た笑みを浮かべる如何にも卑しい屈強な男達が牢の中に入ろうとする光景を見ながら私は泡を吹いた。
もう皆さんお分かりだろうが私はなろう小説モノによく登場するざまぁヒロインだ。前世は知らん。きっと交通事故で死んだんだろどうせ。そんでざまぁあるある通りに王太子やその他諸々を誑かして悪役令嬢を陥れようとしたら悪役令嬢の機転と側室で王太子にはなれず、悪役令嬢を諦めていた腹黒有能(笑)第一王子に返り討ちにあった訳だ。
一つ疑問なのは普通乙女ゲーには悪役令嬢とか出ないからな???これは二次創作の夢小説とかキャラ嫌われ設定を引き継いでるやつだからな???乙女ゲーは圧倒的に攻略対象のがやべー奴多いんだよ。何で母親の遺灰を人形に詰める奴と恋愛したり説得したら水責めにあうんだよおかしいやろ。
こほん
ちょっと熱くなりすぎたわ。すまんの。それだけこっちも混乱してるんだわ。
さっきまで記憶を取り戻す前の私はガチで
「乙女ゲーの世界に転生してきたのね!!」
とか考えてるやべー女だった。それがまぁ一応まともな女だった前世の人格が出てきたのでそれは解決。
…問題は今牢に入ってきてる男達。
これは確実に腹黒第一王子が悪役令嬢を傷つけた私をボロボロにして民に嘲笑われながら処刑されるのを仕向けてる。
性格悪すぎない???
さっきまでのざまぁヒロインのままだったらワンチャンしょうがないけど"今の"私は普通に嫌だ。
てか女性にこんな事する奴を悪役令嬢は選んじゃうのか???いっつもこういう系読んでて疑問なんだけど「愛しいあの子を傷つける奴は許さない」系のヒーロー、普通にドン引きなんだが。
「さっきまでギャーギャーうるさかったのにすっかり大人しくなってやがる」
「どうせ察したんだろ」
「お嬢ちゃん。怖がらなくてもおじさん達は優しくしてあげるよぉ…」
ゲヒヒ…と聞こえてきそうな笑い声を上げるおじさん達。
おおう、これはヤバい。
さて、どうするか。
「お前達!!やめろぉおおお!!その者は俺の妃となる者!!!お前達が手を出して良い者ではなぃいいいいいい!!!」
私の牢屋とは別の牢から青年の声が響いた。
「え、殿下?」
ここからは見えないが牢屋に体当たりでもしているのかガンガン音がする。一緒にぶち込まれた元王太子だ。
…いやまだ私のこと愛してんの?
発言を見る限り何が悪かったのかまるで理解していないが私への愛は本物だったみたいだ。だが、無常にもそんな彼の目の前でヒロインは傷付けられる。いつだって愛は勝てないのだ。
「それにしても性格がわりーな」
「ああん?」
王太子のあまりの必死さに思わず素の口調が出てしまった。いくら我儘で悪役令嬢を奪ったからって弟にこの仕打ちはねぇだろ第一王子…。
「へっ!無能殿下の声なんて怖かねーな!」
「せいぜいお前のお姫様が汚される様を見ときな!!」
男達は王太子に向かって唾を吐いた。
…それにしても全員がまるで役割分担をしたようなセリフしか言っていない。きっとキャラが立っていないんだろう。小説を書くときは即席で書くんじゃなくて登場人物とプロットを立ててから書いた方が良いよ。最初は大変だけど物語が格段に面白くなります。
「そんじゃあお嬢ちゃん、楽しもうか」
「恨むならバカな自分を、な?」
「声あげてもいいぞぉ、誰も助けてくれないけど」
「そこのバカが賢ければなぁ?」
そう言って私ににじり寄る男達。
「いや、うるせーんだよタコが」
「…あ?」
下卑た笑みを浮かべた男達が突然私の口調が変わって驚いたみたい。
…この隙に
私は魔力を集中させた指先を男達に向けた。
「魔法かぁ?でも」
「お嬢ちゃん、悪あがきはよせよ。アンタは攻撃魔法は使えないって殿下かr…」
私を笑っていた男の一人は最後まで喋ることができずにパタリと倒れた。
「なっ」
「おい!どうなってんだ!?」
「コイツ攻撃できないって!!」
「話がちげえぞ!!」
「大丈夫だ!とりあえずボコボコにしちまおう!」
「このクソアマ!!」
私に仲間を気絶させられた男達が襲いかかってきた。
…実験は終わり
私は全身から魔力を放出した。
「この…あ…」
「な…んで…」
男達は私に近づけずにパタリパタリと倒れていった。近づけば男達は「スウスウ」と寝息を立ているのがわかるだろう。
「…うん!やれんじゃんヒロイン!」
私はパチンと指を鳴らした。
今行ったのは魔法は魔法でも攻撃魔法じゃない。てかヒロインはあからさまな攻撃属性の魔法を持っていないのだ。私が持っているのは聖属性魔法、やれるのは回復と浄化。うん、ヒロインっぽい。
だがそれも工夫すれば脅威になる。
…聖属性魔法、回復は簡単に言ってしまえば治癒力の強化、つまりは身体への干渉だ。それを応用して眠気を強化してあげたのだ。それでこの通り男達はスヤスヤだ。割と便利な魔法である。
その後は簡単。男達が完璧に寝てるのを確認した後に私は牢屋の鍵にも聖属性魔法で干渉、時間経過させて朽ちさせて脱出した。
「あー!シャバ最高!」
牢屋から出たら爽快な気分だ。このままこの国からおさらばしよう。そう足を踏み出したけどちょっと気になる事があった。
…放置は後味悪いか。
私は王太子の牢屋の鍵も壊してあげた。一応愛してくれたみたいだしこのぐらいは恩返しだ。後の面倒は見てあげられないけれど。
「あぁ…ヘレン。よかった…」
牢屋から出してあげた王太子は涙目を浮かべながらよろよろと出てきて私に抱きつこうとした。
私は避けた。
「ヘレン?」
王太子は私の行動に困惑の声を上げた。
「ごめんなさい殿下。私たちはこれでおわりにしましょう」
「…な、何でそんなことを言うんだっ!?」
私がそう切り出したら王太子は激昂した。
「私がもう王太子じゃなくなったからか!?君も私の地位にしか興味がなかったのか!?でも今更私から離れても君一人では…」
「そうです」
「…え」
「はい。私は王子という地位にしか興味ありませんでした」
私が答えると王子はポカンとした。
「だってよく考えてくださいよ。王子は第一王子には勉強も運動も勝てなくて人望もない。良いところなんて顔と地位ぐらいでしょ?それで地位がなかったらもう付き合ってられないですって」
「なっ…なっ…!?」
私のあんまりな言動に王太子は顔を真っ赤にして口をパクパクしている。こんなこと真正面から言ってくれる人、誰もいなかったんだろうな。
「だから私たちはここでお別れです。このまま一緒にいても王族として暮らしてきた王子はお荷物ですもん。助けたのは今までのお礼です」
「……………」
「それでは」
無礼な物言いに怒るかな?って思ったけど王子は俯いたままだった。何か思うことがあったんだろうか。
私は王子から離れ、地上に進む道を行こうとすると後ろから声をかけられた。
「…地位目当てとしても、私を認めてくれて、嬉しかったよ。……ありがとう」
「……私も楽しかったですよ」
彼の涙が混じったような声に私は振り返らずに答えた。
牢屋を出ると夜明け前になのか鮮やかな朝焼けの空が広がっていた。
え?見張りの兵士?みんな寝てますよ。
「うーん気持ちいー!」
まずは思いっきり伸びをしてみる。心地よい脱力感を感じながら私は国外への道を歩き始めた。