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ルウチ

 ルウチはサフィラスが去った後、切ないため息をついた。


 ルウチは高級娼婦だ。

 ルウチだけではない。今日サフィラスたちについた女は全員そうだ。

 この店は、ハイクラス専用の高級娼館だった。


 王宮から王子様が来たと聞いて、ルウチの胸は高鳴った。

 運良く自分が相手に選ばれた時は、天にも登る気持ちだった。

 選ばれた理由は、サフィラスと年が近いという単純な理由だ。


 カルディア王家のサフィラスと言えば美貌で有名だ。その噂通り、サフィラスは美しかった。

 9歳だと聞いていたが、見た目はもっと幼く見えた。細く、華奢な身体をしている。


 しかし瞳はルヅラをはめ込んだような紅色で、まばたきをするたび煌めいた。

 凛々しく意思の強そうな眉をしていた。そのくせ、細く長い首や、浮き出た鎖骨は儚げだった。

 肌は象牙のように白くきめ細やかで、少年特有の長い手足をしている。


 ひとめ見ただけで、ルウチは恋に落ちた。


 だが、サフィラスは店に泊まることなく帰ってしまった。

 サフィラスが帰った後も店は続く。

 その後やってきた客は中年男性だった。客としては平均的なタイプだろう。

 太っていて、脂ぎっていて、いばり散らしている。


 しかし、もっとタチの悪い客はいる。

 親子ほどに年が離れているのだって、この店では普通のことだ。

 相手がおじさんだからといって、拒否することはできない。

 ルウチに拒否権などないのだ。


 客はほどほどに酒を飲み、乱暴することもなく、普通にルウチを抱いた。


 ルウチは何度も自分に言い聞かせた。

 これが普通。

 これで普通。


 しかし、サフィラスと一夜を共に出来ると思った後に相手をするのは、苦痛だった。

 ルウチはその気持ちが客にバレないよう、ことさら笑顔を振りまいた。


 辛い時に辛い顔をするのは苦手だ。もっと辛くなるからだ。

 いつもそうしてやり過ごしてきた。


 いつもより愛想の良いルウチに、客は大変満足したようだ。

「そうやって笑ってりゃいいんだよ」

 客は帰り際、いつもより多めにチップをくれた。

 握りしめた手が震えた。



 その日の営業は、ことさら長く感じた。

 店が終わった時には、初めて客をとった日と同じくらいズタズタに傷ついていた。


 自分の穢れた身体でサフィラスの相手が出来るなどと自惚れた自分が恥ずかしい。


 一段と惨めな気持ちになり、浅い眠りについた。

 また来るという言葉を信じるほどルウチは純真でない。


 ルウチの予想通り、サフィラスがルウチの元を訪れることはなかった。

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