葬儀
アグノティタの葬儀はしめやかに行われた。
サフィラスは紺青の衣に身を包んだ。
アグノティタが生前、サフィラスの為に拵えた物だ。
隣には、揃いの生地で作られた服を着たアウラが立っている。後ろでフクスムが泣いていた。
「あんまりです。あんまりですよ、アンガーラ。アグノティタ様が何をしたというのです。このように幼い子を残して逝ってしまわれるなんて」
サフィラスはアウラを抱きしめた。
アグノティタのことを世界で一番愛しているのは、自分とアウラのふたりだと思ったからだ。
「泣いているの?」
抱き締めたまま動かないサフィラスに、アウラが聞いた。
サフィラスは首を横に振った。
サフィラスはどこかおかしくなってしまったようだ。
アグノティタが死んだというのに、少しも涙が出ない。
「泣いていないよ。アウラだって我慢しているもの」
サフィラスはアウラの頭をなでた。
しかしアウラは頭を振った。
「違うよ。いっぱい泣いたよ」
「泣いたの?」
「母様はね。突然いなくなってしまったの。アウラを置いて、離宮に行ったの。どんなにアウラが泣いても、会ってくれなかったの」
アウラが唇をとがらせる。
「母様は、アウラに会うのが嫌なのよ」
「それは違うよ。アウラの母様は、とても重い病気だったんだ。アウラもよく知っているだろう?」
採血を再開して以来、アグノティタの体調は悪かった。
ベッドから起き上がれぬ日々が続き、アウラを抱き上げることも出来なかった。
しかしアグノティタは常にアウラを気にかけていた。
ベッドの上におもちゃを広げ遊んだ。庭を駆け回っている時も、窓から常にその姿を見ていた。
空気に押し潰されそうになりながら、それでもアグノティタは懸命に戦っていた。
ベッドの傍で遊んでいたアウラは、そのことをよくわかっているはずだ。サフィラスはそう思った。
しかしアウラは首を横に振った。
「だって母様は、アウラのことを抱きしめてくれないわ。ベッドに寝転んだまま、いつも起きなかったわ」
「それは、母様の体調が悪ったからだよ」
「でもインベルのお母様は、インベルを抱きしめるわ。頭をよしよしとするのよ。とても優しい笑顔でインベルのことを見るわ」
「だからそれは──」
「アウラを置いて行った。ベッドに寝たままでも、アウラを連れて行くことは出来たでしょう? アウラと一緒にいるのが嫌だったのよ」
サフィラスは、抱き締めていた手を離した。冷たい目でアウラを見る。
アグノティタに、あれほどに愛されていたのに。
サフィラスが求めて止まなかったものを、一身に浴びていたのに。
たったそれだけの理由で、アグノティタの愛を疑うのか。
アグノティタの愛を無かったことにするのか。
サフィラスは失望した。憎しみすら感じた。
アグノティタを失った悲しみを、唯一共有出来る存在だと思ったのに。
「母様は、アウラのことがお嫌いなのよ……」
サフィラスは思った。
疑うなら疑えばいい。
信じぬなら信じなければいい。
自分は違う。自分は、アグノティタを愛し続ける。
たとえもうこの世にいなくとも、サフィラスは永遠にアグノティタのことを愛し続ける。
サフィラスはそう心に誓った。