疑惑
「あなたは、いつから周りの人を騙しているの……」
「言っただろう。産まれた時からさ」
「それはあなたの意思で始まったことではないわ。あなたのその笑顔。どうして気付かなかったのかしら。あなたは、誰にも心を許していないのね。誰も愛さない。誰も受け入れない。一生ひとりで生きていくの?」
「愛? そのようなもの、王家にあると思うのか? 王家の女は、私が誘えば簡単に身体を開く。時期皇后という目的の為だけに。なんの抵抗もなく。夫のある女も、許婚者のいる女も。そんなものに愛はあるのか。王家に愛などないのだ!」
「そんなことない。お互いを思いやり、尊重し、慈しみあえば、必ず愛は生まれるわ」
「うるさい! お前だって私を裏切ったではないか!」
「私がいつあなたを裏切ったというの」
「私が知らないとでも思ったのか。私の子どもであれば、アウラの瞳が紅い訳ないだろう!」
両親のうちどちらか片方がルヅラに変わる血でなければ、子に遺伝する可能性は極めて低いと言われている。
だから、イーオンの瞳が茶色ならば、アウラの瞳が紅くなるはずないとイーオンは考えた。
「なっ! 何をバカなことを!」
しかし、片方がルヅラに変わる血でなくても、遺伝する可能性が全くないわけではない。
現にイーオンの両親はふたりとも紅い瞳をしていたが、イーオンの瞳は紅くならなかった。
その反対もあるだろう。
イーオンは、ベッドに横たわるアグノティタを抑えつけた。
「父親は誰だ」
「あなたに決まっています!」
「そんな訳ない。言えぬか。では私が言ってやろう。アウラの父親は、サフィラスだろう!」
「サフィラス⁉︎ 何故そんな!」
「サフィラスのお前を見る目を見ればわかる。お前たちふたりは、気持ち悪いくらい仲が良かったからな。気付かれないとでも思ったか。ふたりして私を馬鹿にしていたのか。所詮は王になる資格のない私を、蔑んでいたのか!」
「馬鹿なのはあなたの発想です。アウラが生まれた時、あの子がいくつだと思うのです。9歳ですよ! それに、私もあの子も、あなたのことを蔑んでなどいません。あなたの瞳が紅くないなど、私たちは知らなかったのですから」
アグノティタは正面からイーオンを見据えた。
「王の資格に、血がルヅラになるなど、関係ないのです。ルヅラに頼る国政はもうやめるべきです。あなたもわかっているのでしょう。採血のみに頼っていては、いずれ国は破綻します。採血のみで運営するには、カルディア王国は巨大に育ち過ぎたのです。このような方法が通じるのは、精々小さな村までです」
「うるさいうるさいうるさい! 私は王になる為に産まれてきたのだ。王にならなければ意味はない。そうでなければ、何故母は死んだ!」
イーオンはアグノティタを黙らせる為、口を塞いだ。
アグノティタはもがいたが、イーオンは手を緩めなかった。