表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/63

オムニア

 寝台に横たわり、オムニアは深いため息をついた。


 オムニアは、悩んでいた。

 果たして、このままイーオンを王にしてよいものか──


 イーオンは紅い瞳をしていない。

 しかし孫のアウラには受け継がれた。アウラの成長に問題がなければ、自分の血はこれから先、歴代の王に受け継がれるだろう。


 イーオンが王家の血を引いていなくても、王になるのに問題はないかもしれない。


 しかし、サフィラスの成長を見るにつけ、オムニアの悩みは深まった。

 王家はこのままでいいのだろうか。

 近親婚と貧血で、王家の人間は弱体化し、子は産まれにくくなっている。


 サフィラスなら。サフィラスが王になれば、この問題を解決してくれるかもしれない。


 しかしイーオンの立場は自分と重なった。

 幼い頃は自分が王になると信じていた。それが当たり前だと教えられていた。

 それなのに突然、自分以外の王になる存在が生まれた。

 自分の足場は脆く崩れ、不安と恐怖が訪れた。


 何をしても比べられた。まだ成長もしていない未来の弟の影に怯え、オムニアは苦しんだ。


 だからイーオンを殺そうと決意した時、どうしても手が下せなかった。


 イーオンを王にするか。サフィラスを王にするか。

 オムニアには決められなかった。


 サフィラスが成人した日、その迷いが口に出た。その時のイーオンの顔は凄まじかった。


 翌日、寝室を訪れたイーオンを見てオムニアは悟った。


「父上、喉が渇きませんか」

 イーオンは手にカップを持っていた。

 その姿は、体調の悪い父を気遣い、見舞いに訪れたようにしか見えない。


「ああ」

 オムニアはカップを受け取った。カップの中には紅茶が入っている。

「今日はとても冷えますね。温まりますよ。少しブランデーを落としてありますから」


 イーオンは笑った。その笑顔は一見爽やかに見えた。

 息子は、いつからこの仮面を付けていたのだろう。オムニアにはわからなかった。


「さあ、どうぞ」

 イーオンが手を添え、カップを口に近づける。

 オムニアはカップを見つめ、ポツリと言った。


「サフィラスは、良い子に育った」

 イーオンの手が止まる。

「あれは歴代の王と違う。この国を変えてくれるだろう」


 オムニアは、はっきりと言った。

「サフィラスに、王位を譲る」


 イーオンの手が震える。

「良いのですか? 私は言いますよ。あなたのしたことを」

「お前の瞳を誤魔化したことか。それとも、お前を殺そうとしたことか」


 オムニアは頭を振った。

「仕方あるまい。自分のした事だ」

「何故です。何故突然そんな!」


 オムニアは真っ直ぐイーオンを見つめた。

「親を殺す時に、笑顔を浮かべる人間を王には出来ない」


 イーオンは目を見開いた。

 オムニアの頭を持ち、無理やり口の中に紅茶を流し込む。


「がっ! はっ!」

 オムニアはすぐに動かなくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ