離宮
アグノティタはゆっくりと目を開けた。朝の光が眩しい。
大きくとられた窓から、冷気が入り込んでくる。
窓にかけられたカーテンは絽で出来ており、断熱効果はゼロに等しかった。
ベッドには羽毛やブランケットを敷き詰め、床にはフェルトで出来た絨毯を重ねてはいるが、冬の冷気を遮断することは出来ていない。
アグノティタは辺りを見回した。
タイル張りの床。籐で出来た家具。壁に吊るされた紗の布。全てが寒々しかった。
夏に訪れる離宮は素晴らしい。白亜の壁は、夏の鋭い日差しを反射し輝いていた。
庭に生えているヤシの木も、部屋に飾られたモンステラやパキラやガジュマルも可愛らしかった。
離宮はウィリデ山脈の一角に建てられ、標高は高く涼しかった。
しかし今は厳しい寒さが訪れる冬だ。
部屋を飾っていた緑たちは、ガラスに囲まれた温室に閉じ込められ管理されている。
(まるで私のよう……)
イーオンの秘密を見てしまったアグノティタは、離宮に移された。
生まれた時から、兄として許婚として、共に育ってきたイーオンは、アグノティタも知らない秘密を抱えていた。
イーオンの瞳は茶色だった。赤みがかってはいたが、紅には程遠い色だ。
王族の瞳は全て、ルヅラのような紅をしている。
逆に言えば、紅の瞳をしていなければ、王族として認められない。血液がルヅラに変わらないからだ。
王家の血を守る為、王族は近親婚を繰り返す。
しかし稀に、ルヅラに変わらない者が生まれると聞いていた。
イーオンがそうだとは、全く気が付かなかった。
(だからイーオンは、私にあんな事をさせたのね……)
アグノティタは幼い日のことを思い出した。