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月桂樹の影

 サフィラスは宴に疲れ、テラスへ出た。

 つつがなくパレードは終わり、披露宴は始まった。

 迎賓館へと会場を移し、宴はこれから3日3晩続く。


 テラスの端まで行くと、城下町が見えた。

 中央広場では、国民に施しが振舞われている。

 パンやスープ、焼き菓子や酒が並び、身分の差異に関係なく、訪れた者全てがその恩恵を受けることが出来た。

 国民は王家を讃え、万歳を叫んだ。


 遠い灯りを眺める。あの灯りひとつひとつに家庭があり、愛が育まれているのだろう。

 そう思うと、羨ましく妬ましかった。

 サフィラスが愛する人を抱きしめることは、永遠にない。


(兄様ほどでなくていい。せめてもう少し僕が大人であれば……)


 サフィラスの兄イーオンは、小柄な王族たちの中で珍しく、とても身長が高い。

 体格もがっしりとした偉丈夫だ。

 王となるべく、幼い頃から戦闘訓練を受け、今では軍の総司令官の地位にある。

 体術も銃術も剣術も極めた豪の者だ。


 幼い頃から帝王学を身に付け、難解な本を読みこなし、思想家の詩を暗唱した。

 武術でも学術でも、サフィラスが勝てるものはなにひとつない。


 テラスの柵に寄りかかり、ため息をつく。

「お疲れかな?」

 サフィラスはひとりだと思っていたので驚いた。

 月桂樹の影に、ひっそりと男が立っている。


「ネブラ叔父様」

 ネブラは手にしていたグラスを掲げて見せた。

「君も哀れだな」


 サフィラスは、自分の気持ちを見透かされたと思った。

 アグノティタに愛情を寄せていることがバレてしまったと。


 しかし次にネブラが口にしたことは、サフィラスの気持ちとは裏腹なものだった。

「これで君が王になる可能性は、ますます低くなった」


 現在の王位継承は、イーオンが第1位。サフィラスが第2位。アグノティタが第3位だ。

 サフィラスは王位などに興味なかった。イーオンが王になるのは、当然で自然なことだからだ。


「子どもでも産まれてみろ。それはますます遠のくぞ」

 ネブラの言葉に、サフィラスの胸が張り裂けるように痛む。


(子ども……。姉様と兄様の子ども……?)


 幼いサフィラスは、どのように子が産まれるのか知らない。

 しかし子が産まれれば、アグノティタとサフィラスの距離が、今よりももっと遠いものになるのはわかった。


 蒼白なサフィラスの顔を見て、ネブラはよろよろと近づいて来た。吐く息が酒臭い。

「わかるよ。君の気持ちはよくわかる。私たちは仲間だ」

 馴れ馴れしく肩に手をかける。


 ネブラはサフィラスたちの父、オムニアの弟だ。

 サフィラスたちが生まれる前、王位継承権は第1位だった。

 しかし現在は第4位。


 かつて王位に手が届きそうなところにありながら、現在王になる可能性は極めて低い。

 そして、それは未来のサフィラスの姿でもあった。


「ここじゃ愚痴も言えない。どうだ? 抜け出さないか?」

「抜け出す? どこに?」

「城の外さ。抜け出したことがないのか?」


 ネブラは意外そうだった。

 サフィラスが城の外に出たことがあるのは、公式の行事と、夏のバカンスの時だけだ。

 どちらも従者や護衛を引き連れた外出だ。


「真面目だな。俺がお前くらいの頃はとっくに……」

 サフィラスの顔を見て、ネブラが笑う。

「じゃあ初めての冒険だな!」

 ネブラがサフィラスの背中を押す。

 サフィラスは抵抗することが出来なかった。

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