決意
ルウチの店から帰る車の中で、サフィラスは決意した。
(姉様に会おう)
アグノティタと最後に会ったのは、オムニアが亡くなった日だ。
ぐずぐずと悩んでいるうちに、季節は秋から冬になっていた。
狭い王宮の中で、いつまでも避けていることは出来ない。いつか顔を会わせる日が来るだろう。
その時になって気不味い思いをするより、はっきりと顔を合わせ、自分のしたことを受け止めるべきだ。
それにルウチから聞いた話も気になった。
王族の虚弱体質は、貧血だけが原因でないかもしれない。
(もしそうなら、ルヅラに頼らない国政をしたところで意味はない。王家の血にこだわる限り、王家に未来はない)
サフィラスはアグノティタの従者に面会を申し込んだ。しかし従者は、予想外のことを言った。
「アグノティタ様は、離宮へ移られましたよ」
「離宮?」
「ご存知ないのですか?」
「いつ?」
「もう何ヶ月も前です」
「離宮って、夏のバカンスで行く、あの離宮?」
「そうです」
季節は今、冬だ。夏向きに造られた離宮へ行って、何をするのだろう。
「どうして?」
「アグノティタ様の体調が芳しくない為、静養の必要ありとして、離宮で休養をとるよう勧めたそうです」
「誰が?」
「イーオン様です」
「兄様が?」
「はい。挨拶などなかったですか?」
サフィラスはそのような話、一度も聞いていない。
(そりゃあ。姉様を避けていたのは僕の方だけど……)
サフィラスはふと思い付いて従者に尋ねた。
「じゃあアウラも一緒に行ったの?」
「いえ、それが……」
従者が言いにくそうにする。
「どうしたの?」
「アウラ様は、従者に任せると置いていかれまして……」
「アウラを置いて行ったの? まさかっ!」
「体調がかなり悪い為、育児など出来る状態ではないということでした」
「そんなに悪いの⁉︎」
「いえ、離宮に移る前の話ですから。今の状態はわかりません」
「そう……」
「アウラ様は今までアグノティタ様にべったりでしたので。突然我らに預けられ、ずっと泣いて過ごしています」
それを聞いてサフィラスは飛び上がった。
「どうしてもっと早く教えてくれなかったの!」
怒鳴られた従者が目を丸くする。
「だってとっくにご存知だと思ったものですから」
しかしサフィラスは、従者が言い終える前に走り出していた。