43/63
秋咲の薔薇
帰りの車の中で、サフィラスは落ち込んでいた。
辺りは青と白の2色に染められていた。日が昇る直前の色だ。
(僕は、姉様のことを愛しているはずだ。それなのに、ルウチと……)
頭を抱え、全てがなかったことになるよう願った。
しかし夢ではないらしく、車はあっけなく城についた。
門衛塔を抜け、大階段の前で車から降りる。
早朝特有の、澄んだ空気に満ちている。
見上げた王宮は、大きく高く、威圧に満ちていた。
謁見の間を通り過ぎ、中庭に入る。
ダリアやコスモスが美しく咲いていた。
秋咲の薔薇の前で足を止める。真っ直ぐ自室に戻る気分になれなかった。
庭の隅の、皆に忘れ去られたような場所だ。
ここなら誰にも見つからないだろう。
花壇の縁に腰をかける。暫し薔薇を見つめて呆けた。
(姉様を裏切ってしまった。僕はもう、姉様の側にいることは出来ない)
涙が一粒こぼれた。
(ずっと姉様の隣に居たかった)
この世で一番大切な場所を、自ら放棄してしまった。
幼い自分はもういない。
2度と訪れることのない幸福な刻を想って、サフィラスはひたすらに涙した。