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慰め

 サフィラスが目を覚ますと、ベッドの上にいた。

 薄い布が何枚も身体にかけられている。

 頭を上げると、酷い頭痛がした。額に手をあてる。胸もムカムカした。


「おはようございます」

 サフィラスの隣にルウチが寝ていた。サフィラスは驚いた。

 頭を揺らさないよう、ゆっくりと起き上がる。肩までかけていた布がはらりと落ちる。

 サフィラスは何も身につけていなかった。


「どうして僕は裸なのかな」

 声がかすれていた。口の中が粘つき気持ち悪い。

 ルウチもゆっくりと起き上がる。ルウチもまた、何も身につけていなかった。


 恥ずかしそうな仕草で布を身体に巻きつける。サフィラスはそんなルウチをぼんやりと見ていた。

 ルウチは水差しからグラスへ水を注いだ。

「どうぞ」


 サフィラスは無言で受け取り飲み干した。

「嬉しゅうございました」

 ルウチはうつむいていた。

「何が?」


 ルウチが顔を上げる。そしてそっと目を閉じた。

 サフィラスは動かない。

 待ちきれなくなったルウチは、自分から唇を寄せた。


「何をするの?」

 サフィラスは思わず身を引いた。ルウチは途端に悲しい顔をした。


「どうしてですか? 昨夜はあんなに優しかったのに」

「昨夜?」


 辺りを見渡すが、窓がひとつもないので、時間がわからない。

 いつもいる個室ではない。それより一回り小さな部屋だ。

 ダブルベッドとテーブルがひとつ置いてあるだけで、テーブルの上には水差しとコップが置いてある。

 コップはさっきサフィラスが飲み干したので空だった。


「どういうこと?」

 尋ねるサフィラスを、ルウチは強引に引き寄せキスをした。サフィラスは驚いて、ルウチを振り払った。唇をぬぐう。


「何をする」

「覚えていませんか? サフィラス様は昨夜、ここで私と愛し合ったではありませんか」


 鈍いサフィラスも、ようやく理解した。

「僕と、君が。ここで?」

 ルウチは薄布で顔を隠した。そして頷く。


「そんなバカな!」

「何故です?」

「何故って……」

 サフィラスの口は、パクパクと動いているのに、全く声が出ていなかった。


「だって……。僕は……。姉様……」

「お姉様がどうしたのです?」


 ルウチの問いで、サフィラスは正気に戻った。

 床に落ちている衣服を拾い、身にまとう。


「ごめん」

「サフィラス様?」

「知らないかもしれないけど、僕は王族なんだ」

 ルウチはそんなこと、とっくの昔に知っている。


「だから君と結婚することは出来ない。君に子が出来たとしても、それを僕の子として育てることも出来ない。ごめん。申し訳ない」


 サフィラスは深々と頭を下げた。

 ルウチは悲しくなった。サフィラスを苦しめる為にしたことではなかった。


「また、来て下さいますか?」

 サフィラスが顔を上げる。

「それで君の気が済むのなら」

 サフィラスは身支度を整え店を後にした。

 見送ることすら断られ、ルウチはひとり部屋に残された。

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