崩御
鐘が鳴る。
冷たく澄んだ秋の空に、ごぉーんごぉーんと鐘が鳴る。
王の崩御を知らせる鐘だ。
「そんなっ。嘘でしょ」
アグノティタは王の寝室へと走った。
寝室の前には、鐘の音を聞いた王族たちが集まっていた。
「お父様!」
寝室へ飛び込む。
オムニアは寝台に横たわっていた。
豪奢な服を脱いだオムニアは、細く枯れた枝のようだ。傍にイーオンが控えている。
「たった今だよ」
イーオンが、オムニアの顔にハンカチをかける。
「どうして呼んでくれなかったの! 最後のお別れが出来なかったわ!」
「突然だったんだ。仕方ないだろ」
「でも……!」
アグノティタの目から涙がこぼれる。
「ごめんなさい。取り乱したわ」
アグノティタは頬をぬぐった。
確かにオムニアの体調は悪かった。だが体調が悪いのは昨日今日の話ではない。
医師の話では、「近いうちに、覚悟をしておいた方がいい」といったものだった。
「急だったから……」
それでも薄々覚悟はしていた。イーオンを責めるのは筋違いだ。
すると、転がるようにサフィラスが部屋に飛び込んできた。
「お父様!」
息を切らしている。
剣術の稽古でもしていたのか、稽古着のままだった。
「あぁ、サフィラス」
思わずアグノティタはサフィラスに駆け寄った。サフィラスの胸に飛び込む。
サフィラスはアグノティタを強く抱きしめた。
「嘘でしょう。昨日、褒めてくれたばかりなのに……」
寝室に横たわる父は、ただ眠っているだけのように見えた。
「無理をしていたのさ。最近では、立つ事もままならなかった」
イーオンが言った。
「何も知らずに、有頂天になって全国を飛び回って。皆から褒められるのが、そんなに嬉しかったか」
「え?」
「何が展覧会だ。あんなもの、ただの商売じゃないか。天主アンガーラの教えに背き、利益を貪っているだけだ!」
「そんな。僕は……」
「国民のご機嫌とりか。貴族を味方にして嬉しいか。商人からいくら賄賂を貰った。天主アンガーラは、お前の行いを見ているぞ!」
「僕は……。僕はただ……」
サフィラスがアグノティタから手を離し、後ろに下がる。
扉の外から、中の様子を伺っていた王族から、ざわめきが起きる。
「父上はお前を認めていない。お前は王族に相応しくない」
イーオンがサフィラスを断罪する。
「恥を知れ!」
サフィラスは王の寝室から飛び出した。