表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/63

誕生祭

 誕生祭は賑やかに行われた。

 まず最初はサフィラスの乗馬姿が披露された。


 車が普及し馬に乗る必要はなくなったが、一人前になったことの証明に乗馬姿を披露するのは、古来からの風習だった。

 王家所有の広大な馬場で、パッサージュ、ピルエット、ピアッフェの順に演じ、最後に障害飛越を披露する。


 その後、各国の大使が祝辞に訪れ、昼食会が開かれた。

 王宮前の広場では、パレードが行われ、賑やかな楽隊が音楽を吹き鳴らし、兵隊たちが行進を披露する。


 成人を迎えると王族は兵役を課せられる。サフィラスは初めて軍服に袖を通した。

 行進の先頭に立ち、2階席から見物する国王に敬礼してみせる。


 夜には王宮の屋上から、国民に向けてスピーチがある。

 サフィラスは軍服から燕尾服に着替え、晩餐の間に向かった。

 晩餐の間には、すでに他の王族たちが集まっていた。


 サフィラスを見つけ、気軽に話しかけてくる。以前だったら考えられないことだ。

 展覧会が成功した影響だろう。


 アグノティタを探していると、オムニアが現れた。

 その歩調は覚束なく、顔色もすこぶる悪い。イーオンに脇を支えられ、なんとか歩いているといった様相だ。


 オムニアは、よぼよぼと椅子に腰掛けた。イーオンが後ろに控える。

「サフィラス」

 しわがれた声に呼ばれ、サフィラスはオムニアの前に立った。


 オムニアは何も言わず、サフィラスを見つめた。

 晩餐の間に沈黙が訪れる。

 ずいぶんと長い時間サフィラスを見つめたあと、ようやくオムニアは口を開いた。


「まずは、成人おめでとう」

「ありがとうございます」

「弱い子だったが、強くなった」

「父上のおかげです」

 オムニアはそこで少しためらった。


「……先の展覧会、見事であった」

 オムニアから展覧会について褒められるのは初めてだ。

「お前は今後、今までの王が成し得なかったことをするだろう」


 オムニアの言葉に晩餐の間が騒ついた。

 まるでサフィラスが王になるような言い回しだ。

 オムニアの後ろに立つイーオンが、凄まじい顔をした。


「光陰矢の如し。人生は短い。老いて初めてそのことに気付く。お前は後悔するな」

 オムニアは苦しそうに、一言ずつ噛み締めるように言った。

「明日死ぬものと思って生きよ」


 それだけ言うと、オムニアは席を立った。

 少し遅れてイーオンがオムニアの介助に入る。


 サフィラスはオムニアの言葉を受け止めかね、立ち尽くしていた。


 オムニアとイーオンが部屋から出ると、王族たちがサフィラスを取り囲んだ。

 次々に祝福と賛辞の言葉を述べる。このようなことは初めてだ。

 サフィラスは戸惑いながらも、嬉しく思った。



 進行役に促され、移動する。

 屋上に上がると、王宮前の広場には大勢の人が溢れていた。

 雛壇に登り手を振る。わぁっと歓声が上がった。

 手に旗を持ち、見上げるその顔は、羨望と尊敬に満ちている。


 遅れてイーオンがやって来た。

 雛壇に登り、サフィラスの隣に立つ。イーオンも爽やかな笑顔を振りまいた。


「調子に乗るなよ」

 笑顔のまま、小さな声でイーオンが言った。

「お前が何をしようと、どうもがこうと、王になるのは私だ」


「何を言っているのです。兄上が王になるのは当然のことではありませんか」

「国民のご機嫌とりも大変だな」

「私はそんなつもりで展覧会を開いたのではありません。少しでも国庫の足しになればと思っただけです」


「そして貴族にも気に入られた訳か。お上手だな」

「兄上!」

 そこで進行役のアナウンスが始まった。筆頭議員のゼノが祝辞を述べる。

 サフィラスはやむなく視線をゼノに移した。

 その後も行事は目まぐるしく行われ、イーオンと話す機会をサフィラスは持てなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ