誕生祭
誕生祭は賑やかに行われた。
まず最初はサフィラスの乗馬姿が披露された。
車が普及し馬に乗る必要はなくなったが、一人前になったことの証明に乗馬姿を披露するのは、古来からの風習だった。
王家所有の広大な馬場で、パッサージュ、ピルエット、ピアッフェの順に演じ、最後に障害飛越を披露する。
その後、各国の大使が祝辞に訪れ、昼食会が開かれた。
王宮前の広場では、パレードが行われ、賑やかな楽隊が音楽を吹き鳴らし、兵隊たちが行進を披露する。
成人を迎えると王族は兵役を課せられる。サフィラスは初めて軍服に袖を通した。
行進の先頭に立ち、2階席から見物する国王に敬礼してみせる。
夜には王宮の屋上から、国民に向けてスピーチがある。
サフィラスは軍服から燕尾服に着替え、晩餐の間に向かった。
晩餐の間には、すでに他の王族たちが集まっていた。
サフィラスを見つけ、気軽に話しかけてくる。以前だったら考えられないことだ。
展覧会が成功した影響だろう。
アグノティタを探していると、オムニアが現れた。
その歩調は覚束なく、顔色もすこぶる悪い。イーオンに脇を支えられ、なんとか歩いているといった様相だ。
オムニアは、よぼよぼと椅子に腰掛けた。イーオンが後ろに控える。
「サフィラス」
しわがれた声に呼ばれ、サフィラスはオムニアの前に立った。
オムニアは何も言わず、サフィラスを見つめた。
晩餐の間に沈黙が訪れる。
ずいぶんと長い時間サフィラスを見つめたあと、ようやくオムニアは口を開いた。
「まずは、成人おめでとう」
「ありがとうございます」
「弱い子だったが、強くなった」
「父上のおかげです」
オムニアはそこで少しためらった。
「……先の展覧会、見事であった」
オムニアから展覧会について褒められるのは初めてだ。
「お前は今後、今までの王が成し得なかったことをするだろう」
オムニアの言葉に晩餐の間が騒ついた。
まるでサフィラスが王になるような言い回しだ。
オムニアの後ろに立つイーオンが、凄まじい顔をした。
「光陰矢の如し。人生は短い。老いて初めてそのことに気付く。お前は後悔するな」
オムニアは苦しそうに、一言ずつ噛み締めるように言った。
「明日死ぬものと思って生きよ」
それだけ言うと、オムニアは席を立った。
少し遅れてイーオンがオムニアの介助に入る。
サフィラスはオムニアの言葉を受け止めかね、立ち尽くしていた。
オムニアとイーオンが部屋から出ると、王族たちがサフィラスを取り囲んだ。
次々に祝福と賛辞の言葉を述べる。このようなことは初めてだ。
サフィラスは戸惑いながらも、嬉しく思った。
進行役に促され、移動する。
屋上に上がると、王宮前の広場には大勢の人が溢れていた。
雛壇に登り手を振る。わぁっと歓声が上がった。
手に旗を持ち、見上げるその顔は、羨望と尊敬に満ちている。
遅れてイーオンがやって来た。
雛壇に登り、サフィラスの隣に立つ。イーオンも爽やかな笑顔を振りまいた。
「調子に乗るなよ」
笑顔のまま、小さな声でイーオンが言った。
「お前が何をしようと、どうもがこうと、王になるのは私だ」
「何を言っているのです。兄上が王になるのは当然のことではありませんか」
「国民のご機嫌とりも大変だな」
「私はそんなつもりで展覧会を開いたのではありません。少しでも国庫の足しになればと思っただけです」
「そして貴族にも気に入られた訳か。お上手だな」
「兄上!」
そこで進行役のアナウンスが始まった。筆頭議員のゼノが祝辞を述べる。
サフィラスはやむなく視線をゼノに移した。
その後も行事は目まぐるしく行われ、イーオンと話す機会をサフィラスは持てなかった。