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聞き分けのない子ども

 玉座の前に立つアグノティタは美しかった。

 折れてしまいそうなほど痩せ細り、目は落ち込み、肌はカサカサに乾いている。

 それなのに、潤んだ瞳が、ひび割れた唇が、かさついた髪の毛が。

 全てが美しい。


 アグノティタは目をぬぐった。

「ごめんなさい。変なことを言って」

 サフィラスはなるべく自然に笑った。

「本当だよ。それより姉様、また痩せたんじゃない? ダメだよ、ちゃんと食べなきゃ」

「わかっていますよ」


 アグノティタは唇をとがらせた。そしてクスリと笑う。

「これでは昔と逆ね」

「そうですよ。姉様はほっとくと、甘い物かピューコスしか食べないんだから」


 ピューコスとは炭素の同素体のひとつで、よく燃えるので石炭の代わりに使われることが多い。

 しかしカルディア王家の者たちは、好んでこれを食べる。

 いつの頃からかは不明だが、食事の合間にお菓子代わりにつまんでいる。


「はいはい。色々食べますよ」

「採血も止めるべきです」

「それとこれとは別問題です。国の為に血を差し出すのは、王家の義務です」

「でも展覧会の収益は、ルヅラの採取料を上回りましたよ?」


「ええ。おかげで国庫は潤いました。あなたのおかげです」

「だったら」

「サフィラス。もっと利口になりなさい」


 アグノティタはピシャリと言った。

 アグノティタは昔から、サフィラスが聞き分けのないことを言うとこう言う。


 サフィラスはぐっと息を飲み込んだ。

 国を動かすほどの収益を上げても尚、アグノティタにとってサフィラスは聞き分けのない子どものままなのだろうか。


「でも、ありがとうございます」

 アグノティタが微笑む。

「あなたのおかげで、この国の未来は明るくなりました。アウラの未来も、明るくなります」


 サフィラスは拳を握った。

「アウラが採血を始めるまでには、採血に頼らなくてもいいくらい、稼いでみせます」

「そんなまた。商人みたいなことを」

「僕は本気です。あと5年以内に、必ず」


「5年?」

 アグノティタが聞き返す。

「ええ。採血を開始する10歳までには必ず……」


 サフィラスの頭は、いかにして収益を上げるか。その計算に入っていた。

 だからアグノティタの顔をよく見ていなかった。

 アグノティタの、不思議そうな、不安そうなその顔を──


「5年? 10歳……?」

 アグノティタは小さくつぶやいた。


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