表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/63

白絹のハンカチ

 薄暗い店内に、女のくすぐったい声が響く。

 鼻の下を伸ばし、リカルドが隣に座る女性の膝をなでまわしている。


「リカルドったら。セーラのお父様がいてるのに」

 サフィラスは眉をひそめた。

「え〜? 何ですか〜?」

 リカルドはすでに酔っているらしく、顔を赤くしていた。


「後で泣いても知らないよ」

 だらしなく笑うリカルドをねめつける。

「若いのですから仕方ありません。ラーウム男爵も、あれくらい気にしませんよ」

「そうなの?」


 サフィラスは、リカルドが娘の婿に見合う、真面目な男だとアピールするために呼ばれたのだとばかり思っていた。

 あれでは逆効果ではないか。


「それより、サフィラス様には結婚を決めた方がいらっしゃいますか?」

「ええ。15になったら結婚します」

「そうですか。今おいくつでしたかな?」

「12です」

「ルウチも同じくらいかい?」

「私は13です」

「ではちょうど良いですな」


 サフィラスはきょとんとした。

「何に?」

 はっはっはっと、ザインが笑う。

「お友達になるのにです。おっと、王族であらせられるサフィラス様に、お友達とは失礼でしたな」

「そんな事ないよ。よろしくね、ルウチ」


 サフィラスはルウチに向かって手を差し伸べた。

「こちらこそ……」

 ルウチがそっと握り返す。

 すると、握る手とは反対の手に目がいった。

 白いハンカチを握りしめている。


「あ、それは」

 白絹に、赤い糸で花柄の刺繍がされている。

「そのハンカチ。僕がデザインしたやつだ」

 ルウチはハンカチを見た。


「これをでございますか?」

「うん。王家の暮らし展覧会で買ったやつでしょう?」

 ハンカチは客から貰った物だ。ルウチは返答に困った。

 するとザインが身を乗り出した。


「サフィラス様がデザインされたのですか!」

 その勢いに、サフィラスはびっくりした。

「そうだよ。アグノティタ姉様のウェディングドレスをイメージしたんだ」


 ルウチがうっとりとハンカチをなでる。

「どおりで素晴らしい手触りです」

「でしょう? 同じ生地を使っているんだ。でも思ったほど売れなかった。もっと売れると思ったのになぁ」

 サフィラスはため息をついた。ルウチは思わず笑った。


「それは、こんなに高級な物。たくさん買えません」

 最高級の白絹を使ったハンカチは、これ1枚で下流庶民なら1ヶ月は食べていける。


「私なら、ハンカチにそんな大金かけられません」

 言ってから、しまったと思った。

 では何故持っていると聞かれたら困る。

 しかしサフィラスは全く別のことを聞いてきた。


「じゃあ何ならかけるの?」

「何ならって。物によります。ハンカチならこれくらいとか。ドレスならこれくらいとか。その人の自由に出来るお金によって、その金額は変わります」

「そうなんだ……」


 サフィラスは目から鱗が落ちたようだった。

「ご存知ないのですか?」

「ハンカチや服を自分で買ったことないんだ。展覧会のために、建物や会社は買ったんだけど……」

 ルウチは改めてサフィラスが殿上人だと思い知った。


「でも考えてみれば当たり前だよね。建物にも会社にも、予算がある。ハンカチや服だって同じだ」

 サフィラスは、ぐっと顔をルウチに近づけた。


「じゃあもっと安くすれば良かったのかな?」

 ルウチの頬が赤く染まる。

「そ、それは。安く手に入れば嬉しいですけど。儲けにならないのではないですか?」

「そうか。赤字になったら意味ないや」


 サフィラスが身を引くと、ルウチはほっと息をついた。


 ザインはイライラとした。

 ルウチには、サフィラスをたらし込むよう、しっかりと伝えてある。

 高級娼婦の技を使えば、サフィラスのような青二歳イチコロだろう。

 それなのに、何をぐずぐずしているのだ。


 そして、何よりもザインを苛立たせるのはサフィラスだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ