表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/63

勘違い

 店の中は相変わらず薄暗かった。

 サフィラスは、前回来たときよりも落ち着いていた。前回は少し、怖気付いていたのだ。


 しかし今回は、展覧会の視察という大義名分がある。展覧会を開くため、何人もの大人たちと対等に渡り合った。

 以前のサフィラスとは違う。しっかりと店の中を観察した。


 そうして見ると、確かにここは食堂でない。

 料理を食べている客は少ないし、酒を呑んでいるだけの客も多い。


(あ、そうか。これが酒場か)

 サフィラスはまたしても勘違いした。


 リカルドに連れられるまま、店の奥へと進む。入った部屋は、前回ネブラに連れてこられた部屋と同じだった。

 つまりはこの店の中で、最も『高い』部屋なのだが、サフィラスにはそれもわからなかった。


「お待ちしておりました」

 個室の扉を開けると、男が数人待ち構えていた。

 サフィラスはラーウム男爵しかいないと思っていたので驚いた。


 中央に座る男に見覚えがある。

 前回ネブラに連れて来られた時、途中からやってきた男だ。


 前回は披露宴を抜け出して来たせいで、男もサフィラスも豪勢な服を着ていた。

 そのくせ、流行遅れのレースがとても気になった。

 今回はどちらも普段着だ。だからこそ、男の質素な身なりが気になった。


「ザイン侯爵?」

「お久しぶりでございます。披露宴の時以来ですな」

 ザインは相変わらず髭を生やしていた。ひょろひょろと細長く、全く似合っていない。


「こちらにどうぞ。サフィラス様」

 うながされ座ると、ソファーも相変わらずぶよぶよしていた。


「ザイン侯爵たちもご一緒とは知りませんでした」

「人数は多い方が楽しいですからね」

「その格好はどうされたのです?」

「は?」


 サフィラスは、ザインの質素な服を指さした。

「貴族の間では、こういうのが流行っているのですか?」

 サフィラスはファッションが好きだ。特に最近は、展覧会のために情報を集めている。

 だから、自分の知らぬ流行があったかと驚いた。


「いえ、これは。流行りと言うより……」

「ああ。庶民の店に来るには、これくらいの方が良いのですね?」

 サフィラスの愛くるしい顔を見て、ザインは苦笑した。

 庶民の店と軽く言ったが、ここは『超』がつく高級娼館だ。


「ところで、僕が来る意味はあったのでしょうか。今、忙しいのですが」

 サフィラスはリカルドを見た。

 リカルドはラーウム男爵に酒を勧められ、グラスを傾けていた。


「あなたがここにいることが重要なのです。あなたがいなければ、ラーウム男爵はリカルドに会おうと思わなかったでしょう」

 サフィラスに勧めるため、ザインがグラスを持つ。


「ラーウム男爵はひとり娘のセーラを大変可愛がっておりまして。リカルド様はとても由緒あるお家柄ですが、少々よくない噂も聞きますから」

 サフィラスが顔をゆがめる。

「確かに……」


 ザインはワインボトルを手に取った。

「しかし直接話せば、リカルド様が良き人だとすぐに伝わりますよ。ささっ、一杯」

 サフィラスはやんわりとザインの手を止めた。


「申し訳ない。姉上に酒は止められています」

「そうなのですか?」

「本当は、勝手に城外に出ることも禁じられています」

 グラスをそっと押し戻す。

「酒まで呑んだことがバレたら恐ろしい。お気持ちだけいただきましょう」


 ザインは戸惑った。接待に酒は付き物だからだ。

 酒に酔わせて口を軽くする。それがザインのやり方だ。


(弱ったな……)

 ザインはラーウム男爵の娘がリカルドと付き合っているのを利用して、リカルドにサフィラスを呼び出すよう計らった。

 女にだらしのないリカルドは、まんまと高級娼館に釣られ、サフィラスを連れてきた。


(酒がダメなら、こっちだな)

 ザインは店員に目で合図した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ