相談
にっこり笑うサフィラスを、アグノティタは呆然と見つめた。
アグノティタの目の前には、膨大な量の資料が積み上げられている。アグノティタは必死になってそれを読んだ。
サフィラスはその間、1枚の写真を眺めていただけだ。
それなのに、アグノティタが思いもつかなかったことを考え出した。
「あとは、王家が仕入れしている商品に、王室御用達と銘打つ許可を出すのもいいかもしれませんね」
次々と現れるアイディアに、アグノティタは驚くばかりだ。口を挟む余裕もない。
「仕入れ先に許可を出すだけで、店は大々的に宣伝するでしょう。王家がどの様な暮らしをしているのか興味深々な国民は、きっと買いますよ」
サフィラスは、目の前にあるティーカップを指さした。
「例えばこれとか」
「ティーカップですか?」
「それもいいけど、こっちです」
サフィラスがカップの中を指さす。
「お茶?」
「はい。茶葉です。同じお茶を飲むことで、自分も王侯貴族になったような気分に浸るのです。特権階級に憧れる商人など、きっと食いつきますよ」
「ちょっと待ってサフィラス。そのような知識、どこから仕入れたのです」
「仕入れるとは?」
「商人が王家に憧れているとか。会社を設立するとか。契約金とか」
「少し考えればわかることではないですか」
サフィラスはきょとんとしていた。
思いつかないアグノティタの頭が悪いのだろうか。そんな気分になった。
「マーケティングの授業でも習いましたよ」
サフィラスには多くの家庭教師がついている。
アグノティタも厳しく仕込まれたが、どちらかというと、王妃としての身の振る舞い方や、マナーなどが主な授業内容だった。
マーケティングや帝王学は、あまり教えられていない。
「そうなの……」
「でも。そういえば、何故お父様や兄様はしようとしないのでしょうね。こういう事を」
「それは……」
思いつかなかったのだろう。アグノティタはそう言えなかった。
「どのくらい初期費用がかかるか、先生方に相談した方がいいですね」
「ちょっと待って。王族以外の人に言うのはまずいわ。とにかく、お父様の許可がないと。まずはお父様に相談しましょう。それから他の王族たちの許可を取って、先生にはそのあと相談しましょう」