この国の未来
サフィラスは、日課になっている秘密の食事をとる為、アウラの部屋を訪れた。
テラスに出ると、アグノティタは先に来ていた。
「お待たせしました」
「あ、サフィー」
アウラがサフィラスを見つけて笑顔になる。
サフィラスはアウラの頭をなでた。しかしアグノティタを見て驚く。
「どうしたのです⁉︎」
「何が?」
「顔が真っ白ですよ!」
アグノティタは以前のような、血の気のない顔をしていた。
「本当?」
アグノティタが頬を触る。
「朝の採血をね、再開したものだから」
メイドたちがやってきて、料理を並べる。
「ほら、今日はあなたの好きなフライです。鱈や鯛もあります」
「そんな事より、姉様は採血をするべきではありません。こんな顔色をして。せっかく健康になってきたのに。これじゃあ逆戻りではないですか」
「そのような訳にはいきません。採血は、王族の義務です。王族のみが行える崇高な仕事です。国の為にルヅラを生み出すことは──」
「姉様」
サフィラスは静かに威圧した。アグノティタは一瞬口をつぐんだ。
しかし頭を振り、ため息をついた。
「アウラを妊娠してから、3年も休ませてもらったのです。これ以上は無理です」
「でも、また前みたいに寝たきりになってもいいのですか? アウラを抱き上げることが出来なくなってもいいのですか?」
アグノティタは眉間に皺を寄せた。痛みに耐えるように下を向く。
「今年は災害のせいで、物価が上がっています。貴族も庶民も、貧困に喘いでいます。ひとりでも多く、少しでも多くルヅラを生みださないと、国は潰れてしまいます」
アグノティタはテーブルに並ぶ料理を見た。
「この料理も、国民の税によって作られたものです。王家は、国民の生活を守らねばなりません。それは、王家の義務です」
しばし沈黙が流れた。
「かーちゃ。これたべたい」
アウラがサンドウィッチを指差す。
「ええ。たくさん食べなさい」
アグノティタが皿から取り手渡す。
「あーと」
アウラは嬉しそうに頬張った。
「この子の為にも。この国を守る為にも」
サフィラスは悔しかった。サフィラスが産まれてからずっと、アグノティタはベッドに寝ている時間の方が長かった。
ベッドに横たわるアグノティタは、いつも何かに耐えているようだった。
せっかく元気になってきたのに。せっかく幸せそうに笑うようになってきたのに。
この幸せを潰したくなかった。
「姉様。商売をしましょう」
サフィラスは言った。
「商売?」
アグノティタがきょとんとする。
「以前話したことを覚えていますか? ルヅラを使って、商売をするのです。商売によって資金を増やすのです。採血に頼る国政は、もうやめましょう」
「そんな事言っても……。一体どうやって?」
意気込むサフィラスに、アグノティタは戸惑った。
「考えましょう。この国の未来の為に」
サフィラスの目は輝いていた。