ざわめき
薄暗い店内の、狭い個室の中で、幾人かの男が詰め寄っている。
小さなテーブルの上には、申し訳程度の料理と水。
「このままでは、我々貴族は没落する一方だ」
「今年の夏は災害が多かった。不作だった領地も多い」
「うちは大雨にやられた」
「うちは干ばつだ」
「うちは地震いだ」
「西の遠征も長かった」
「結局今回も、決着はつかなかった」
「何度出兵させれば気が済むのだ」
「国土が拡大すれば、貴族にも恩恵があると言いながら、これでは出費の方が上回る」
「もう兵を出す余力のない所も多いだろう。下手をすれば、領地を抵当にとられるぞ」
「領地を商人に奪われるのか」
「我らが苦しんでいるというのに、ゼノたち親子は王宮に住まいを移したそうだ」
「分家とはいえ、ゼノはいち貴族ではないか」
「我ら貴族が土地を奪われても、王家は何もしてくれないのに」
「このままオムニア王のすることを、黙って見ていることは出来ない。ゼノの娘を嫁にしたイーオン様もだ」
「だがネブラ様はダメだ。酒に溺れるばかりで、兄にとって変わろうなどという気概はない」
「誰か、他にいないのか」
「我々には必要だ。我々を導き、苦難から救ってくれる王が……」
男たちがうなずきあう。
重いざわめきが途絶えることはなかった。