表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/63

筆頭議員

「そうだ。ちょっといいか?」

 イーオンはウビビスにインベルを渡し、奥にある椅子に座った。


 アグノティタは、イーオンの向かいに座った。

「おい、お前も来い。早く座れ」

 イーオンが、隣の席を叩く。


「でも……」

 ウビビスがアグノティタの顔色をうかがう。

「お座りになったら?」

 アグノティタが微笑むと、ウビビスは座った。


「此度の遠征、お疲れ様でした」

 アグノティタは深々と頭を下げた。

「何もしていないさ。結局、何も好転しなかった。ただ財政を圧迫しただけだよ」


 イーオンは苦笑した。

 頬杖をつき、足を組む。小柄な者が多い中、イーオンの体格は飛び抜けて大きかった。

 ゆったりとしたソファーが、窮屈そうに見える。


「それでだね。言いにくいのだが……」

 イーオンが口籠る。何にでも快活なイーオンにしては珍しいことだ。


「どうされました?」

「君はアウラを妊娠してから、していないだろ? その、義務をさ」

 イーオンが頬を掻く。


「採血のことですか?」

「あぁ。それで、もうアウラも大きくなった。出産の影響も治っただろうし……」

「これは。申し訳ありませんでした。自ら言わなければならなかったものを、気が付きませんで」

 アグノティタが頭を下げる。


「国境の問題が片付いていたら、必要の無いことだったんだが……」

「いえ、それは別問題です。王家の義務ですから」

「助かるよ」


 イーオンは笑顔をみせた。

「王家にとって、ルヅラは必要不可欠だ」

 ちらりとインベルを見る。

「インベルは、王家の血を引けなかった」


 インベルの髪と瞳は、ウビビスと同じ榛色だった。それはインベルの血が、ルヅラに変わらないことを意味する。


「仕方ありません」

 ごく稀に例外もあるようだが、ルヅラに変わる血は、両親共にルヅラに変わる血を持っていなければ遺伝しない。


イーオンがアウラを見る。

「君によく似ているね」

アウラを見るイーオンの表情は、ぎこちなかった。


「気になさらないで下さい」

「え?」

「子を増やすのは、王の務めです。例え王家の血を引けなくとも、インベルがあなたの子どもであることに変わりはありません」


 イーオンは組んでいた足を下ろした。

「ああ。そうだね……」

「インベルは、どこの分家に出すのですか?」


 通常、王家の血を受け継げなかった者は、分家へ養子に出される。

 インベルの場合、母親が分家の出身なので、母親が引き取るのだろう。アグノティタはそう思った。


「いや、ウビビスとは正式に結婚したから」

「は?」

「だからウビビスが王宮で育てるよ。フォテュームの教会で、教皇に誓ってきた」

「本気ですか⁉︎」


 思わず大きな声がでる。

「かーちゃ?」

 アウラが不安そうにアグノティタを見上げた。

「ごめんなさい。大丈夫よ。何でもないわ」

 アウラを抱きしめる。


「だって俺の子を妊娠したんだ。当然だろう?」

「ですが……。分家と結婚することが、どういう事かわかっているのですか?」


 分家は基本的に、貴族と同じ地位にある。

 領地を拝領し、税を徴収し支配する。その見返りとして王に仕える。

 唯一貴族と違う点は、王に直接仕えることがあるという点だ。


 領地を継承できない次男以下の子どもたちは、従者として王族に仕える。ウビビスもそういった従者のひとりだ。


「分家と貴族は、微妙な関係にあるのです。貴族と同じ立場だとされながら、あらゆる面で貴族より優遇される。分家に不満を持つ貴族は多いのですよ」


 王は王族としか婚姻してはならない。そういう決まりがある。それには2つの理由がある。


 ひとつは、ルヅラに変わる血を受け継ぐ者を増やす為。

 両親とも王家の血を引いていない場合、子に遺伝する確率が低いからだ。


 もうひとつは、貴族と分家のパワーバランスを守る為だ。

 王が貴族や分家と結婚すると、その家の発言力が増す。それはいらね争いを生む種になる。


「ウビビスの父親はゼノですよ」

 ゼノは分家頭であり、貴族議員でもある。

 上昇志向が強く、野心家だ。

 国会での発言力も強く、大きな派閥を作っている。


 通常、王家の従者は同性から選ぶ。しかしゼノは、強引にウビビスをイーオンの従者にした。


「ウビビスには気をつけなさいと、お父様もおっしゃっていたではないですか」

「よせ、ウビビスの前だぞ!」

 イーオンが険しい顔をする。


「申し訳ありません」

 アグノティタは頭をさげた。

「そんな、いいのです。イーオン様」

 ウビビスがイーオンの袖を引く。


「ウビビスがそう言うなら。だがウビビスはもう従者でない。フォテュームの教皇も認めた、公式の第2妃だ。今後は気をつけるように」

「はい……」


 アグノティタは下げた頭を中々上げられなかった。


 ウビビス自身は悪い人ではない。

 しかし、ゼノが黙っているとは思えなかった。

 むしろ、ウビビスをけしかけたのは、ゼノではないかとさえ思える。


(何事も起きなければいいけど……)

 アグノティタの心配は的中した。


 ゼノは、次の議会で筆頭議員の座を手に入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ