帰還
「イーオン」
アグノティタの呼びかけに、イーオンはすぐに気が付いた。
「おぉ、アグノティタ」
両手を広げ、アグノティタを呼ぶ。アグノティタは抱いていたアウラを差し出した。
「アウラです。お父様ですよ」
「会いたかったぞ」
イーオンが手を伸ばす。しかしアウラはアグノティタにしがみついた。
「どうしたのです? お父様ですよ」
アウラはアグノティタの首元に顔を埋め動かない。
「やー」
「嫌ではないです。あなたのお父様ですよ」
アウラがふるふると頭を横に振る。
「嫌われたかな? どれ、顔を見せておくれ」
真っ直ぐに切り揃えたアウラの前髪に、イーオンが触れる。
途端にアウラは泣き出した。
「困りましたね。人見知りをする子ではないのに」
イーオンは、時が止まったように固まった。
「申し訳ありません。すぐに慣れると思います」
「いや……」
イーオンは泣くアウラを、呆然と見つめた。
「瞳が、紅いな」
「ええ。無事、王家の血を受け継ぐことができました。あなたのおかげです」
「そうか……」
すると、アウラの泣き声につられるかのように、もう一人の赤子が泣き出した。
「そうだ。こちらも初めて会うね。インベルだ」
イーオンは、奥にいる赤子を指さした。
インベルは揺り籠に寝かされていた。眠っていたらしい。
イーオンは揺り籠に近づいた。
「インベル。お前の姉様だ。仲良くしなさい」
イーオンがインベルを抱き上げる。その顔は、立派な父親だ。
アグノティタの胸がちくりと痛む。
アウラはイーオンが遠のいたことで泣き止んだ。
「あの……」
インベルを抱くイーオンの後ろに、ウビビスがいる。
「あの、申し訳ありませんでした……」
「何を謝るの? これからも仲良くしてちょうだい」
アグノティタは笑った。演技だと思われないよう、渾身の力を込めて笑った。
ウビビスはほっと息をついた。
「ありがとうございます」
泣き止んだアウラの両手が、アグノティタの首をぎゅっとしめる。アグノティタも、アウラを抱きしめる手に力を込めた。