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アヒルのおもちゃ

 サフィラスが部屋から去り、アグノティタはほっと息をついた。

「かーちゃ?」

 アウラが不思議そうな顔をする。


「なんでもありません」

 アグノティタはアウラの頭をなでた。

 そろそろ準備を整えねばならない。帰ってきた夫を出迎え、労わる為である。しかし気は重かった。


 サフィラスにああ言ったものの、心中は複雑だった。

 アグノティタはイーオンのことを好いている。

 イーオンは昔から、優しく賢く頼りになる存在だった。


 恋かと聞かれると、わからない。しかし、兄であり、婚約者でもあるイーオンは、アグノティタの憧れだった。


 イーオンがアグノティタのことを異性として見ていないことは薄々気付いていた。

 5歳も年の離れた妹だ。それは仕方のない事かもしれない。

 アグノティタがサフィラスを弟としてしか見られないのと同じだろう。


 成人する前夜、サフィラスにずばりと言い当てられた時はどきりとした。


 しかしそんな事はどうでも良いことだ。

 男女の愛情ではないかもしれない。しかしイーオンはアグノティタに優しかった。

 子どもも産まれた。それで十分だと思った。だが──


 ウビビスの顔が脳裏に浮かぶ。

 イーオンの子どもを産んだ人。昔から従者としてイーオンに仕えていた。


 榛色の髪と瞳に、ふっくらとした身体。おっとりとした優しい女性だった。

 幼い頃、イーオンと一緒に遊んでもらったこともある。

 ふたりの間にそのような感情があることに、少しも気が付かなかった。


「サフィラスのことを言えないわ。私もまだまだ子どもね」

 アグノティタは自虐的に笑った。

「かーちゃ。どーぞ」

 アウラがアヒルのおもちゃを手渡してくる。この遊びがお気に入りなのだ。


「ありがとう」

 アグノティタは受け取った。アウラが手を差し出してくる。


「あなたもようやく、お父様に会えますね」

「とっと?」

「そう。お父様です」

「かーちゃ」

「どうしました?」

「どーじょ」

「え?」

「どーじょ!」

 アウラが手を差し出た手を動かす。


「ああ」

 アグノティタがアウラの手にアヒルを置く。

「あっと」

 アウラが微笑む。おもちゃ箱に向かおうとするアウラを抱き上げる。


「かーちゃ。どーじょ、ちがう。アヒルたん、いれる」

「そうね。でもそろそろ、お父様に会いに行かないと」


 アグノティタはぎゅっとアウラを抱きしめた。

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