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出陣

 アグノティタは採血器をにらんでいた。

 にらんだ所で、何も変わらない。毎朝の採血は、必ず行わなければならない王家の掟だ。


 採血をし、ルヅラを採取することは、王家の財政を支える大切な仕事だ。

 しかし、貧血は目眩や倦怠感、顔面蒼白や浮腫、狭心症にまで繋がる病気だ。

 財政の主軸を採血に頼っている限り、王家の未来は明るくない。


 何か他に方法はないものか。アグノティタは考えを巡らせた。すると、ノックの音が響いた。


「やぁ、おはよう」

 イーオンが部屋に入って来る。

 朝だというのに、いつものように爽やかな笑顔を浮かべていた。


(この人は、いつも元気ね)

 イーオンはアグノティタに近付き、テーブルの上の採血器を見た。

「おや? まだ済んでいなかったのかい」

「すぐに済ますわ。少し待って」


 採血器は、血圧計のような形をしている。輪になっている部分に腕に通すと、締め付けられ、針の刺さる感触がする。

 横に付いている小瓶が血液でいっぱいになると、腕の締め付けが解除される。

 小瓶を交換し、2本目の小瓶がいっぱいになると、アグノティタは腕を引き抜いた。


「はい」

 2本の小瓶をイーオンに手渡す。

「確かに」

 イーオンは小瓶を受け取ると、ポケットにしまった。


「毎朝悪いわね」

「なに、たいした手間ではないよ。自分の分を運ぶついでさ」


 王族の血がルヅラに変わることは、絶対の秘密だ。その為、採血した血を従者に運ばせることはできない。

 ルヅラを管理する部屋まで直接運ぶ必要がある。


 体調が悪く起き上がれない日もあるアグノティタに代わって、昔からイーオンは毎朝血液を運んでくれる。


「それより、ついに決まったよ。明日には出る」

 イーオンが言った。

「明日ですか」

「ああ。急な事だが仕方ない」


 カルディア王国は昔から、西の国境を巡り、隣国との小競り合いが絶えない。

 イーオンは軍の総司令官として、西の国境へ出陣することになった。


「西の国境が広がれば、それだけ税収が増える。採取出来る資源も増える。あの地には、多くの鉱物資源があるはずだ。王家の為に、あの地は必ず必要なのだ」


 イーオンは拳を握りしめた。

「ええ。わかっています」

「無事を祈っていてくれ」

「待っています。この子と」

 アグノティタは自分のお腹をなでた。


「アグノティタ?」

「夏には産まれるそうです」

 イーオンの顔がほころぶ。

「そうか! でかしたアグノティタ!」


 イーオンがアグノティタを抱きしめる。アグノティタは幸せそうに笑った。

 突然イーオンはアグノティタから身体を離すと、アグノティタをにらみつけた。


「ならば何故採血などした!」

「え?」

「赤子の成長には、血が必要なのだろう。お前が言っていたことだぞ。明日から採血はなしだ」


 怖い顔をしたイーオンを見て、アグノティタは自分がとても幸せだと思った。

 翌日イーオンはばたばたと準備を整え、盛大な出陣式の後、旅立った。

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