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稽古

 サフィラスは上段に構えて斬りかかった。

 しかし持っていた剣は呆気無く弾き飛ばされ宙を舞う。


 地面に落ちた剣を見て、サフィラスは息をついた。

「ふぅ。やっぱりドュールスにはかなわないや」

 滴る汗をぬぐう。剣の元まで歩き、屈んで拾う。


「それがいかんのですよ」

 ドュールスの言葉にサフィラスは顔を上げた。

「何故そこで諦めるのです。剣まで走り寄り、何故もう一度構えないのです。剣がなくとも、何故殴りかかってこぬのです」

 ドュールスは鼻息を吐いた。


「そんなこと言っても……」

「結局、若様はこれがただの稽古だと思われているのです」

「だって稽古じゃないか」

「イーオン様でしたら、稽古でも決して諦めませんぞ」


 イーオンの名を出され、サフィラスの胸がチクリと痛む。

 イーオンの名を聞くだけで、アグノティタの顔が浮かぶ。


「イーオン様なら、剣を落としたら拾い、拾えなければ拳で殴り、敵わなくとも決して諦める事なく私にむしゃぶりついてきましたぞ。そうでなくては王にはなれません」


「兄様は王になるけど、僕はならないもの」

 ドュールスの胸が大きく膨らむ。

「なにを言っておるのです!」

 地が揺れるほどの大声に、サフィラスは思わず耳を塞いだ。


「例え王になれずとも、貴方は王弟ですぞ。王を助け、いずれ戦場に出ることもあるでしょう。何を情けないことを言っておるのです」


「でも戦さなんて、軍の仕事じゃないか。僕が戦場に立つことなんてあるのかな」

「実際に戦うのが兵の仕事であっても、指揮をとるのは王です。戦場に居ずとも、王は必ず後ろに控えているものなのです。戦場に立たずとも、王は戦っているのです。王が戦わずして、何が戦ですか。イーオン様の身に何かあれば、その代わりを務めるのはサフィラス様、貴方なのですぞ」


 ドゥールズは鼻息荒くまくしたてた。

 その真っ赤な顔を見て、サフィラスは唇をとがらせた。

「兄様に何かあるはずないじゃないか」


 サフィラスにこんなことを言ってくれるのは、ドゥールズだけだ。

 優秀すぎる兄の影に隠れ、目立たないサフィラスを気にかける者など、ドュールスとアグノティタくらいだ。


 ドュールスがばしりとサフィラスの背中を叩く。

「そういうところがいかんのです。それ、もうひと勝負いきますよ!」


 それからサフィラスは、立てなくなるまでしごかれた。


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