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壁紙の先

 サフィラスはうっとりしていた。

 アグノティタはすでに部屋から去った。

 しかしサフィラスにはいつまでもアグノティタの姿が見えていた。


 アグノティタがサフィラスにキスをするのはとても久しぶりのことだ。

 キスされた額が熱い。

 身体が痺れたように動けない。

 もっとアグノティタと話がしたい。

 ずっとアグノティタと一緒にいたい。


 アグノティタの部屋は、サフィラスの部屋からさほど離れていない。

 すぐ近くに居るのに、厚い壁に阻まれ、その存在を感じることは出来ない。

 アグノティタと同じ空間で過ごしたかった。


(姉様……。アグノティタ姉様……)

 幼い頃のように、抱きしめて眠って欲しかった。

 あの甘い匂いに包まれて眠れたら、どんなに幸せだろう。

 あの、とうもろこしのように細く、誰よりも輝く金髪に触れられたら、どんなに幸せだろう。

 あの柔らかな唇が、額ではなく、唇に触れたら──



 そこまで考え、サフィラスは肩を落とした。

(何バカなことを考えているんだ。姉様は今日、兄様と結婚したじゃないか。皆の前で、天主様に誓ったじゃないか……)


 サフィラスはアグノティタの部屋がある方の壁に寄った。

 オリーブグリーンの壁紙に触れる。

(この先に、姉様はいるのに……)

 サフィラスは拳を握った。


 イーオンなら。

 今日、アグノティタの夫となったイーオンなら、このような時間からアグノティタの部屋を訪れても許されるのだろう。

 そのまま一晩過ごしても、咎められることはないのだろう。


 サフィラスの胸がギリギリと痛む。

 ネブラの言葉が蘇る。


『イーオンさえいなければ。君は王になれたんだ。アグノティタと結婚し、子をなし、臣下にかしずかれていたのは君なんだ』



 胸の嵐は、やみそうにない。


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