表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/63

王の寝室

 サフィラスは両開きの重い扉をゆっくりと押し開けた。


 閣議の間、執務室、控えの間、全ての扉の前に衛兵が立っている。しかし止める者はいない。話はすでに通してある。


 ルヅラ糸で織り上げた、真紅の衣装をひるがえす。

 サフィラスの瞳と同じ色。

 憎しみの色。


 サフィラスの手には大剣が握られている。

 大粒のルヅラがはめられた、王家の秘宝。


 扉が開くと、部屋の中にいた全員がサフィラスを見た。

 一様に服を脱ぎ、裸体のままベッドで絡みあっている。


「なんだ?」

 ベッドの主、イーオン王は気怠げに言った。

「何か用か?」

 そう言って、隣に横たわる女の腰を引き寄せる。

 サフィラスは大剣を握り締めた。かちゃりと音が響く。


 何も言わないサフィラスに、イーオンが苛々とする。

「用がないならさっさと出ていけ。ここは王の寝室だぞ」

 サフィラスは無言のままイーオンを見つめた。


 イーオンはサフィラスの兄だ。11歳も年の離れた兄は、いつも偉大だった。大きく高く、乗り越えられない壁だった。

 いつからこのように、矮小で、汚らしい存在になったのか。

 サフィラスは思い出そうとしたが、女たちのべちゃべちゃとした声が耳障りで、少しも思い出せない。



「どうされたのです? サフィラス様」

「サフィラス様もご一緒されますか?」

「あら、素敵」

「イーオン様いかがです?」

 裸の女たちが、イーオンの上で身を捩らせる。そのうねうねとした動きは爬虫類を思わせた。


「サフィラス、わきまえよ。ここは王の寝室だぞ」

 イーオンが繰り返す。女たちが拗ねたような声を上げる。

 サフィラスは無言でベッドに近づいた。


「サフィラス。聞こえなかったのか」

 その時初めて、イーオンはサフィラスの握る大剣に気が付いた。

 サフィラスが大剣を振り上げる。そしておもむろに、女に突き刺す。

 女たちから悲鳴が上がる。


 サフィラスは無感動に女たちを切り続けた。やがて、生きているのはイーオンとサフィラスだけになった。

 女たちの血にまみれ、イーオンが震える。


「よせ。何が不満だ」

 サフィラスは思わず笑った。

 不満。不満だらけだ。

 サフィラスには不満しかない。

 イーオンも、国も、全てが壊れてしまえばいい。アグノティタのいない世界など、存在する価値はない。


「強いて言えば、私が不満を持っていることに、気付きもしないところでしょうか」


 アグノティタに再び会うには、サフィラスが王になるしか道は無い。その為には、イーオンは邪魔だった。

「よせっ! 止めろ! 止めてくれ!」

 イーオンの胸に、大剣を突き刺した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ