ある惑星
「船長、この惑星にも生命体がいるようです」
エム星人は生命体が存在する惑星の探索に力を入れていた。そしてまた一つ、とある恒星系の中で、該当する惑星が確認された。
「よし、早速超音波レーダーで様子を確認してみよう」
船長の指示で、エム星人たちを乗せた宇宙船はレーダーを照射しながら、その惑星の周囲を一周した。しばらくするとレーダーで明らかになった情報が宇宙船に送られてきて解析班に伝えられた。
「地表の状態は陸地が三割、のこりの七割は何らかの液体です。陸地は都会化している地域も多く存在します。生命体は極小サイズのものから最大で我々の宇宙船ほどの大きさのものも確認できました。種類も数も、解析にしばらく時間が必要です」
「そうか。非常に多様性に富んだ生態系のようだな」
「そうですね。それでは次に、一番知的レベルが高いと思われる生命体について集中的に情報を集めます」
「ああ、頼む」
解析班は情報収集の対象を最も知的水準の高い生命体に絞って再度レーダー解析を行った。対象が限られていたため、今度はすぐに情報が送られてきた。
「形態は私たちと同じ二足直立型。体長もほぼ同じです。総個体数は七十億ほどで、生息密度は地域によってかなりばらつきがありますね。都会化している地域ほど密度が高いようです。男型と女型の二種類が存在し、男女が交わることで子孫が生まれるようです」
「文明の発展度合いはどの程度だ?」
「だいたい五世代くらい前の我々と同じくらいでしょうか。宇宙に行く技術はあるようですが、隣の衛星に行くのが精いっぱいでしょう」
伝えられてきた地上の様子から情報解析班はそう判断した。
「続いて、地上から集めた音声を我々の言語に翻訳して流します。翻訳不能の個所はツーという音が流れます。まずはこれですね」
そう言って情報解析班は向かって右側のスイッチを押した。まず流れてきたのはこんな音声だった。
『明日の課題まじでだるいな』
『なー、こんなんまじで何の意味があるんだろ』
『てか今日の体育の時のサトウ ツー た? まじおもろくなかった? あんなミス普通しないっての』
「こちらは教育機関に通う比較的若い個体同士の会話ですね。教育の重要性を自覚することの難しさと、劣っている存在を乏しめるという行動は、どの星でも共通のようですね。続いてはある企業組織の中の音声です」
『おい、なんでこの資料がまだできていないんだ!』
『先ほど課長から、そちらの資料よりも、こちらの案件から優先するように言われたので……』
『そんなの知るか! 早く終わらせろ!』
「こんな企業ばかりでないことを祈りますね……」
「ああ、なんとも理不尽で非効率的だな」
「次は生活を共にしている男女の会話です」
『ねえ、この女誰なのよ?』
『だから、この間も言っただろ。ただの会社の後輩だよ』
『ふーん、ただの会社の後輩と、ずいぶん仲がいいのね』
「どうやらこの生命体には、男女一組が共同で生活をすることがモラルとして存在するようです」
「なるほど。興味深いな。特定のパートナーを持たない我々とは価値観が大きく異なる」
「次も共同生活をしている集団ですが、こちらは生育過程の個体を抱えているようですね」
『今度の遊園地楽しみー』
『ええ、ママもよ。久しぶりにパパとたくさん遊びましょうね』
「親と子の親密な間柄が良しとされる文化も、我々には理解が難しいですね」
「うむ。子どもなど生まれたらすぐに専用の養育施設に送ってしまって、声も知らないからな」
「次は差別撲滅を訴える集会ですかね」
『私たちは差別を許してはいけません。肌が ツー いことに何の差があるというのでしょうか』
「肝心なところはわかりませんでしたが、どうやらこの星では、肌を原因とした差別が横行しているようです。送られてきた情報を解析する限りでは、差別が起きるような要素は確認できないのですがね」
「理由なんてなんでもよくて、ただ自分よりも下の立場の存在がほしいだけなのかもしれないな。よし、ありがとう。だいたいの様子が分かった。引き続き情報を集めつつ、一度本部に報告して指示を仰ごう」
「わかりました。あ、船長、それと先ほど近くを航行中のケイ星人から連絡が来ました」
「ケイ星人だって? ちっ、あいつらの声は気持ち悪いから嫌いなんだ。とっとと済ませてしまおう」
そう言うと、もともと視力を持たないエム星人の船長は、優れた聴覚で周囲の様子を把握しながら連絡室へと移動した。